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84. 犯人特定とルシフェルの涙

 八月十四日日曜日。

 夜中に目が覚めた。隣にいるはずのアンジェラがいない。

 そーっとアトリエを覗いたら、二人でトランプをしていた。

 え、なんか仲間外れにされたみたいで嫌な気分。

 また、そーっと戻って一人で寝た。色々なこと、例えば合体するときにキスするとかも考えちゃって、モヤモヤした。

 朝が来ても、気分は同じまま、落ち込んで変わらなかった。

 二人が仲いいのは元々同じ人間だから…それはよくわかっている。

 わかってるけど、アンジェラが他の人にやさしくするのは辛い。こんな気持ち、恥ずかしいな、トランプしてただけなのに…。

 そう考えると、自分の事も嫌いになりそうな気分だ。

 僕はこの世にいた方がいいのか、悪いのか…。考えがおかしな方向へいく。

 朝、身支度を整えて一人で出かけた。

 でかけた先はあの、ベッドの下に隠された本のある王の間だ。

 僕は今、僕にしかできないことをしよう。そう思ったのだ。

 頭を冷やす時間も必要だし、それに、来年の春にはもうこの命もないかもしれない。


 ベッドの下に潜り込み、本を触る。僕の手の先が光の粒子に変わり、砂のように崩れていく。一瞬の暗闇のあと、僕は夜の王の間に転移した。

 夜ということは、王が寝ているかも…。え~、僕を斬りつける王だよ…。気を付けよう。

 ガチャ、とドアが開く音がした。

 僕はキラキラを出さないようにしてカーテンの陰に転移する。

 王は寝台にはいないようだ。

 王の間に忍び込んだ者は、書棚の一番左の上から三段目、一番左の本を取り出すと、マントの中にそれを忍ばせた。そして、ベッドの下に隠してある本も同じように取り出し、マントの中に忍ばせた。

 その時、ガチャと音がしてまたドアが開いた。

 ランプを手にした王が入って来た。

「メリーナ、こんなところで何をしている。」

 王が訪ねるとメリーナはうつむいて小さな声で言った。

「お兄様が来るのを待っておりました。」

「お前は自分の立場をわきまえろ、兄とはいえ男の寝室に入り込むなどあってはいけない。もうすぐ隣国へ嫁にいくのだ。もう二度とこの部屋へ立ち入るな。」

 うひょ~、言っちゃったね。

 先王も実はわかってたんだ。妹が極度のブラコンで、ストーカーに近い感じになってたこと。そして、本二冊はやはりメリーナに持ち出されていた。


 もう一冊の本の場所はわかった。その中を見て、まず、何が書いてあるかを確認しよう。

 僕は、その前日に転移し、書棚にあった本を手袋を着けて取り出し、封印の間に転移した。

 封印の間の中で、全部のページの写真を撮った。

 ついでに封印の間の中央の台の中心にその本を置いてみた。

 本を置くと丸い台の端の方から上に向かって青い光が上がりそのすぐ内側から赤い光が上がった。その二つが微妙な角度でぶつかり合い、文字を形成する。プロジェクションマッピングみたいだ。

 僕はそれをぐるっと一周しながら動画で撮影した。

 その後、僕はなんとなく、ルシフェルの頬に手を置いた。深い悲しみが流れ込んでくる。

 その時、またルシフェルの瞼が開き、今度は瞳がこちらを見た。つい、言葉が出た。

「ごめんね。」

 ルシフェルの両方の瞳から一粒ずつ涙が流れた。その落ちた涙は丸い小さな白い石になった。ドキドキした。今までなんとも思わなかった石の彫刻のようなルシフェルなのに。

 石を拾い、ポケットにしまった。

 僕は誰も王の間の室内にいないことを確かめ、本を元の場所に戻した。

 家に帰って内容を調べよう。

 僕はイタリアの家に転移した。


 僕らの寝室にアンジェラはいなかった。アンジェラのいるところに転移すれば、どこにいるかはわかるので転移した。

 アンジェラは倉庫の中で背を壁にもたれて、足を投げ出し、ウィスキーの瓶を片手にラッパ飲みしながら絵を見ていた。

 僕はアンジェラの横に同じように背を壁にもたれて、足を投げ出して座った。

 頭をアンジェラの方に傾けて肩にくっつけ、手を繋いだ。

「ただいま。」

「おかえり。」

「アンジェラの手、あったかい。」

 アンジェラが瓶を置いて、僕に口づけをした。お酒の味がした。

 いつもと違うキスの味。

「アンジェラのキスあったかい。ふふっ」

「どこに行ってた?」

「過去、写真を撮って来た。もう一冊の本の。あと、封印の間の浮き出る文字も。」

「危ないからやめろと言っただろ?」

「うん、ごめん。言うこと聞かなかった。なんか、やきもち妬いちゃった。」

「え?」

「アンドレとトランプしてるの見て、僕だけのアンジェラじゃなくなっちゃったなぁって思ったら、すごく悔しくなって。ごめん。一人で気を紛らわせることしたくなって…。」

「リリィ…。」

「頭ではわかってるんだけど、時々わからなくなる。チューしないで合体できないのかな?だって、もし僕がアズちゃんとキスして合体したら、アンジェラはどう思う?」

「そ、それは、無理だ。」

「でしょ?合体する人によって、どんな能力が出せるのか一回試してみたい気はするけど、僕もアンジェラ以外とチューは嫌だな。」

「…。」

「わがままだってわかってるけど…。」

「悪かった。」

「それはもう、いいよ。わがままついでに一つ試していい?僕がアンジェラに入ったらどうなるのか…。」

「え?」

 アンジェラが驚いた顔をしている一瞬のすきに、キスをする。試してなかったんだよね、アンジェラ+リリィ。

 体が金色の粒子を纏い輝いた。そして一人になって実体化する。

 姿を見るために姿見のあるクローゼットの中へ行き、電気をつけた。

「「え?これは誰?」」

 うっすらと光をまとい、輝く金髪は長くウェーブしている穏やかな顔をした女性になった。

 僕たちはアンドレに見せに行った。

「「アンドレ、この姿どっかで見たことない?」」

 アンドレはアトリエで海を見ながらコーヒーを飲んでいた。

「え?え?ええええええ?」

「「知ってる人?」」

「女神の像アフロディーテにそっくりです。」

 ネットで検索する。え?まじ?本人じゃないでしょうか?

 何か新しい能力がないか確認もしておきたい。

 試しにアンドレの頭に向けて手をかざしてみる。いつもの通りレントゲンみたいに透けて見える。どこも悪くないが癒しの力を使ってみる。

 いつもはジワジワ効いてくるのだが、今日は手のひらからバレーボールくらいになった大きな球が出て打ち込むような形で放出することが出来た。いくらでも発射出来そうだ。

 パワーアップしている気はする。

 何か新しい能力が使えるようになってるといいな…。

 その時だ、アンドレは何も話していないのに、何かが聞こえた。

(あぁ、美しいなぁ~。心が癒されるようです。抱きしめたくなる。)

 僕とアンジェラは黙ったままアンドレを抱きしめてあげた。

「えっ。」

「「聞こえちゃったもんね。頭の中で呟いたこと」」

(じゃあキスしたいと言ったらしてくれるのか?)

「「それは、ちょっと方向がちがうんじゃない?」」

「恥ずかしすぎるじゃないですか。全部わかっちゃうなんて。」

 思考が読めるという新しい能力がわかったところで、合体を解除する。

 何かもっとすごいことも出来そうだね。


 アンジェラがアンドレにちょっといいか、と言ってどっかに行ってしまった。

 五分ほどでアンジェラとアンドレが戻って来た。

「リリィ、ちょっと見てくれ。」

 アンジェラがそう言うと、アンドレが人差し指でアンジェラの唇をぷにっと押した。

 青い光の粒子が二人を包み、一人の男となって実体化した。

「あれ?チューじゃなくても合体したね。」

 やればできるんじゃん。と思いつつも、合体後の人物の艶っぽさがちょっと今までと違う気がする。

 まぁ、いいや。彼らは今のところ合体しないと転移ができない。それが出来るだけでも何かあった時に役に立つのだ。

 要らぬ嫉妬心は持たなくてもよさそうだ。


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