表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/678

82. Come on Baby

 八月十二日金曜日。

 日本時間の朝八時、日本の家で朝ご飯を食べながら、次の帰還者回収を話し合うことになった。

 ニコラスが封印の間に捕らわれたのは約五00年前、マルクスが捕らわれたのは百五十年前くらいだ。その間約三百五十年に二人捕らわれた者がいると思われるが、名前などはわかっていない。

 ただ、その者とは一度封印の間で救出する際に僕は会っている。会ったことのある者の居場所はどの年代辺りか目星をつければ、察することが出来る。

 まずは、拉致される前の状況の把握をいつものように行い、どこから封印の間へ転送されたかを確認しよう。

父様(とうさま)、やっぱり古い方からの方がいいですかね。」

「そうだね、任せるよ。」

 そこでアンジェラが口を挟んだ。

「ちょっと気になっていたんだが、マルクスがこっちに来た時に、「ユートレアという小国の国王が組織している悪魔信仰の宗教団体【Enigma】手下が狙っている」という話をしていただろ?」

「あ、そうだった。言ってたね。」

「でも、アンドレもニコラスもエニグマなんて名前は知らないんだよな?」

 まず、アンドレが答える。

「知らないですし、大体、ユートレア小国そのものがどうなったのかも私たちにはわかりません。」

「私もエニグマなんて名前は聞いたことないですし、それに悪魔信仰ってなんですか?あの教会は普通の神を信仰していますので、なんだか違う気がします。」

 ニコラスがアンドレの言葉に続いた。

「そっかぁ、なんだかちゃんと調べた方がいい気がしてきたね。」

「そうだな。」

 僕の横で朝ご飯を食べていたニコラスが、ケチャップを飛び散らせてしまった。

「あ、髪の毛にまでついちゃったよ。取ってあげるからじっとしてて。」

 僕がナプキンを手に取ってニコラスの髪のケチャップを拭いたとき、僕は金色の粒子になって、砂の様にサラサラと手から崩れ落ちる。

「え?」

 一瞬の後、僕は暗い馬小屋にいた、カゴに入った赤ん坊の頭を触っていた。

「ニコラス?」

 馬小屋の外から人の声が聞こえる。

 これ、離したら元の所に帰っちゃうかな?でもこの前、離しても戻らなかったから大丈夫かな?そっと離してみる。大丈夫だ。

 コントロールできるようになってきたのか?

 干し草の塊の陰に隠れつつ、外で話している会話に耳を傾ける。

「よし、これが報酬だ。すぐにどっか遠いところに身を隠せ。いいな。」

「わかった。さすがに王子を攫って殺す手助けをしたとあっては、俺も自分の命が惜しい。」

「あとは、俺が息の根を止めてどっかそこいら辺に埋めておく。」

「しかし、王の妹はなぜ他国の王に嫁いだ後になっても、王の血筋を絶やそうとしているんだ?」

「そんなことは詮索しなくてもいいだろう。さあ、行け!」

 金を受け取った男は闇夜に紛れてどこかに去って行った。

 もう一人が馬小屋に入って来た。その男は赤ん坊の前に立ち、赤ん坊に話しかけた。

「悪いな、こんなにかわいいのにな。生まれた日にこんなところに連れて来られて…。

 だけど、俺には殺すしか選択肢がないんだよ。」

 男はナイフを取り出した。

 僕は後ろからそっとその男の首筋に手を当て、男を眠らせた。

 男の記憶が流れ込む、王の妹がこの男にこの赤ちゃんの命を奪うように命じたのだ。

 その隣国に嫁いだ妹の名は「メリーナ・ユートレア」。

 僕は何の迷いもなく、赤ちゃんを連れて帰った。


 朝食の最中にいなくなった僕を、皆待っていてくれた。

「リリィ、どこに行ってたんだ?ってそれは…。」

「多分、ニコラス。」

 ニコラスが固まっている。

「馬小屋で殺されそうになってたから、連れてきちゃった。」

「え?殺されそうになってた?」

「うん、殺そうとしてた男の記憶からの情報だと、メリーナ・ユートレアっていう先王の妹が誘拐と殺害を命じたみたい。」

「なんだと…。」

 アンドレが立ち上がってプルプル震えている。アンジェラが冷静な声で座るように促す。

「アンドレ、まずは座れ。」

「その、メリーナってどっかに嫁いでもうユートレアに関係ないんでしょ?」

「本人はな。しかし、私が王位を退いたら、間違いなくメリーナの息子がユートレアの王位に就くと思う。」

「ねぇ、もしかしてアンドレの命を狙ってたのって、その人達じゃないの?」

「そう考えるのが妥当だろう。」

 アンジェラが難しい顔をして疑問を口にする。

「そんなに欲しいと思うような国かな?」

「アンジェラ、それは失礼だよ。小さくても一国の王様だよ。なりたいと思ってなれるようなもんじゃないし。」

 僕は、フォローのつもりで言ったのだが…。アンドレが意外な事を言い出した。

「国が欲しいんじゃなく、大天使ルシフェルの奇跡の力を欲しているとしたら?」

「あ、そうか…。あの本に書いてあったよね。魂を十二個集めて復活させたら、世界中の戦争を終わらせるか、世界中に戦争を起こすか出来るって。」

「こわっ。」

 隅っこで聞いてた徠央がつい声を出してしまった。

「あの~、ところでその赤ちゃんはどうするのかな?」

 父様が困り顔で僕に聞く。

「あ、そうでした。粉ミルクとオムツとか買いに行かなきゃ。父様連れてって。」

「じゃあ、急いで準備しておくれ。動物病院も開けなきゃいけないからね。」

「ごめんね、父様。」

 アンジェラに赤ちゃんニコラスを抱っこしてもらって、僕は父様と二十四時間営業のスーパーで必要な物を買ってきた。


 家に戻ると、大変な騒ぎになっていた。

 赤ちゃんニコラスは大泣きで、誰が抱っこしても泣き止まず…皆悶絶していた。

「ひぇ~。どうなってるのよ。」

「リリィがいなくなったら泣き始めて…。」

「お腹がすいてるのかな?」

 かえでさんにお願いして粉ミルクを作ってもらった。

 僕が赤ちゃんニコラスを抱っこして、ミルクをあげると、すごい勢いでミルクが吸い込まれていく。生まれた時から食いしん坊か?思わずクスッと笑ってしまった。

 そんな僕の姿を見て、アンジェラとアンドレが妙にニヤニヤしている。

「え?何?なんだよ、ニヤニヤして。」

 その後、しばらくの間は赤ちゃんニコラスをうちで保護して、命の危険が無くなったら教会に連れて行こうという話になった。

 これって解決するの、結構大変な気がする。


 かえでさんにオムツの取り換え方を教えてもらい、練習をした。

 赤ちゃんニコラスは殆ど泣かないし、体も丈夫だし、思ったほど手もかからなかった。

 でも、さすがに僕とアンジェラとアンドレだけではいっぱいいっぱいになってしまい、かえでさんやニコラス本人にも助けてもらった。


 とりあえず、運命を変えてはいけないと思い教会に連れて行くことにはしたけれど、本来なら王子様なんだよね…。なんだかかわいそう。

 次の帰還者回収は後回しにして、メリーナ・ユートレアの周りを探ることになったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ