80. ライラの恋
八月五日金曜日。
アズラィールが来て、色々な事があってから、もう一年が過ぎた。
とても一年しか経っていないとは思えないほど濃厚な一年だった。
明日の夜に近くの大きな川の河川敷で花火大会がある。
僕は、せっかくなのでアンジェラとアンドレにも浴衣を着せて一緒に花火を見に行くことにした。でも、本人たちには言っていない。父様とアズラィールに頼んで浴衣や帯などを用意してもらうことにした。
僕の浴衣も紺地に大きなバラ柄をお願いして、アンジェラは渋め、アンドレは若々しい感じでとお願いしておいた。
僕は採寸の必要があったので、アンジェラにはちょっと調べものをしたいと言って単身日本の朝霧邸にやって来た。
父様の部屋に入って父様を待つ。
「あ、ごめんごめん。休憩時間に入る前にちょっとゴタゴタがあってね。」
「父様、今から行ける?」
「あぁ、行こう。」
その時、ドアの前にいきなりのライラ登場。
「おねえちゃん、久しぶり。」
「あ、うん。そうだね。ライラ元気だった?」
「うん、でもあまり元気じゃない。」
「え?どうして?」
「最近、ココが痛い。」
ライラはそう言って胸を押さえた。
「ん?」
「パパとおでかけ、いいな、いいな~。」
ライラがちょっとかわいそうになって、僕は一緒に出掛けるかどうか聞いた。
「ライラも一緒に行く?」
「いいの?」
「いいよ、浴衣を作ってもらいにいくだけだから。」
「ゆかた?」
「そう、花火の日のデートの時に着ると最強の服だよ。」
「最強?」
「うん、ライラにも買ってあげていい、父様?」
「あ、うん。いいよ。」
父様がオッケーしてくれて、三人で父様と一緒にショッピングモールに入っている呉服屋さんに行った。僕はあらかじめ指定した柄の生地を出してもらい、アンジェラとアンドレ用にイメージした生地もそこで指定した。
二人は187㎝と184㎝、男の人はだいたい背丈がわかっていたら大丈夫みたい。
ライラは、ちょっと小柄だから子供用か大人用か微妙なようだ。
「ライラ、これがいいな。」
ライラは紺地に花火の柄の生地を選んだ。
「いいね、夏らしくて。」
「うん。」
帯も選んで、履物を選んで、細かい小物を選び終わった後に、ライラが父様に聞いているのがかわいかった。。
「パパ~、徠輝も花火に浴衣着れる?」
「え?一緒に行きたいのか?」
ライラは頬を赤く染めて、俯いて言った。
「う、うん。花火デートしたい。」
父様は複雑な顔をしながらも、徠輝の身長はこれくらい?と言ってお店の人に説明してた。やっぱり女の子欲しかったのかな父様…。
浴衣を注文し終わって、出来上がりは次の日の午前中と聞いた。
一旦イタリアに戻って、次の日の日本時間で午後五時に日本に行きたいから他の用事を入れないで、とアンジェラとアンドレにお願いする。
二人ともただご飯を食べに行くくらいのノリでオッケーしてくれた。
当日、僕たちは午後五時に日本に着くようにイタリアを出た。
父様がオーダーした浴衣を午前中に取りに行ってくれて、部屋に置いておいてくれた。。
かえでさんにお手伝いをお願いして、三人とも着替えた。
「アンジェラ、へぇ~。やっぱり最高にいい男だわぁ。」
紺色の無地の浴衣が超かっこいい。
「きゃ~、アンドレも紺地に濃い色の線が入った生地の浴衣がとてもよく似合うわぁ。」
今すぐイタリアに帰って仲良くしたい感情に抗って、自分も着替えを終える。
「リリィ、お前は…。」
「美しいですね…。」
「あぁ。」
髪もアップにしてもらい、余裕で準備完了した。
そこへ、ライラがやってきて、自分の浴衣も見せてくれた。
「ライラもきれい?」
「とってもかわいいよ。」
ライラがうれしそうな顔をした後に、ちょっと悲しそうな顔をした。
「どうしたの?」
「徠輝は嫌だって言ってた。」
「?」
父様に話を聞くと、徠輝は自分だけ行くのが気が引けて着たくないと言っているらしい。
僕はショッピングモールの呉服屋さんに近いトイレの道具入れに転移をし、呉服屋さんに行き、前日に買った男性用の浴衣と同じサイズの既製品と備品を購入した。
すぐにそれらを持って帰り、徠輝と左徠に着せる。
「ぶちぶち文句言ってると花火終わっちゃうからね。」
僕がちょっと怒り気味にそう言うと、二人は慌てて浴衣を着て僕らとライラと普通の服の父様と一緒に会場へ歩いて行った。
花火は午後七時半に始まった。
ライラは父様と徠輝と手を繋いで楽しそうだ。
僕は左徠とアンドレと手を繋いで、アンジェラは後ろから保護者の様についてきてくれた。左徠と徠輝、アンドレ、そしてライラにとっては初めての花火大会。
皆、思った以上に喜んでくれたようだ。
それにしても人が多い。屋台がいくつか出ており、帰りに父様がライラにせがまれてたこ焼きを三パックも買わされていた。
帰り道、人混みから解放され、家への道すがら、学校の話になった。
僕とアンジェラは来年の四月からの入学をめざして大学を受験するつもりだ。
徠輝と左徠は九月から近くの私立中学の二年に編入しようかと思っているという。
その時、ライラが父様に質問した。
「パパ、ライラは?学校いかない?」
父様は困り顔で、言った。
「ライラはまだ一歳になってないから学校での勉強は難しいかな…。」
驚いたのは、ライラがその後しくしく泣き始めたことだ。
「徠輝と一緒に学校に行きたい。」
そう言って泣き続けた。しかしねぇ破壊の天使だからさ、他の子に危害を加えたりしたら大変だよね。
その話はまた今度話そうね。と言ってとりあえずごまかしていた。
家をに着くと、裏庭のベンチでマルクスと徠神と徠央がビールとうちわを片手に夕涼みをしていた。
うちの年長組だ。アンジェラもそこに加わって宴会状態に突入していた。
ニコラスとアズラィールが騒がしさに気づいて出てきた。
未徠も珍しく出てきた。
せっかくなので、とかえでさんが夕飯の天ぷらや海苔巻きを外にテーブルを出して置いてくれた。子供用の花火を途中で父様がライラに買ってあげたようで、ライラと徠輝と左徠と僕で遊びなさいと言われて受け取った。
微妙に子供にカウントされている自分。まぁ、そうなんだけれど。
庭で花火が始まったら、ライラがうれしそうにずっと徠輝を見つめている。
ん?もしかして、ライラは徠輝のことが好きなのかな?
それって、僕への執着がなくなったってこと?
それはある意味チャンスかもしれない。
近いうちに父様にライラに言語と常識などの情報を与えることで中学に行けるようにするという方向も考慮してもらえるように提案してみよう。
楽しい花火デートの日はあっという間に終わってしまった。
父様がいっぱい皆との写真を撮ってくれた。
皆、笑顔で最高の一日だった。




