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79. ユートレア王太子

 僕たちは五百年前のユートレアの教会での一芝居を終え、一度現代の城に戻った。

「あっ。」

 王の間の壁の上の方に、この前昔のアンジェラが描いてくれたアンドレ王の肖像画が飾られていた。以前来た時には、大きな幕が手前にかかっていて、見えていなかったようだ。

 もしかしたら、この絵を見て王族の誰かがアンジェラにこの城をくれたのかもしれない。

 だって、二人は同じ顔だもんね。過去に戻って置いてきた絵だからか、年月を超えて色に深みがあるように見える。

「ん、アンドレもいい男。」

 つい、心の声が漏れてしまった。アンジェラはクスッと笑っているが、ニコラスは目が泳いでいる。アンドレは頬を赤らめている。

 ニコラスには僕たちの関係が不思議なのだろう。

 何故ここに来たかというと、王様の洋服を置いておくためなのだが、アンドレが着替えている間に、僕はぶらぶら、王の間の中を見学する。

 どれくらい古い建物なのだろう、暖炉があり、周りには色のついたタイルで装飾が施されており、中には王家の紋章が描かれたタイルもある。その一枚につい触れてしまった。

「あっ。」

 一瞬僕は光の粒子に包まれてどこかに行ったような気がした。

「あれ?同じ場所だ。」

 手を放してもそのままだった。でもアンジェラとニコラスがいない…。

 違う時間に転移したのか?上を見上げると、アンドレの肖像画はなかった。

 結構前の時代に来たようだ。もう一度、その紋章の描かれたタイルを触ってみる。

 タイルが少し奥に下がり、ギギギという音とともに、横に置いてあった埋め込み式の棚が手前に動いた。隠し扉だ…。恐る恐る中に入る…。中は暗い、体が入り切ったところで扉が閉じてしまった。

「うっそぉ。」

 体のキラキラを多めに出して、灯りの代わりにする。手探りのまま螺旋階段状になっている足元をどんどん進む。思いのほか長い時間をかけ進むと、ようやく行き止まりになった。

「ん?」

 耳を澄ますと何か音が聞こえてきた。

「お父上~、お母上~。誰か~、助けて下さい~。」

 子供の声の様だ。左右の壁に手を当てて探ると左の壁の一部がガタンと凹み、僕は足元を(すく)われ壁の向こうの空間へ放り出された。

 バサッ、思わず翼を出してバランスを取り浮いた。壁は僕を吐き出すと元の状態に戻ってしまった。

「罠?かなぁ?」

 周りを見回すと、見慣れた室内が…。ここは封印の間だった。妃の座の背もたれ部分がトラップになっており、外から来たものを中に閉じ込めるのだろう。

 中からは引いても開かないようになっているらしい。

 しかも、玉座にはルシフェルの亡骸があった。やっぱり結構前だ。

 しかし考え込みつつ周りを見回すと…。他の座にはまだ誰も…ってあれ?

 さっきの鳴き声の主が、きょとんとした顔でこちらを見上げている。三歳くらいの超かわいい男の子だ。

「…。」

「あ、あれれ。こんにちは。僕はリリィっていうんだ。お名前は?」

「アンドレ。」

「え?アンドレ?ユートレア王の?」

「アンドレは王太子。」

「そっか、まだ小さいもんね。」

「リリィ?」

「そう、リリィ。」

「ルシフェルのリリィ?」

「まぁ、そういうことになるかな…。」

「アンドレのお嫁さんになってくれるリリィ?」

「うーん、アンドレのお嫁さんにはならないかな…。」

「だって、アンドレはルシフェルだよ。だったらリリィはアンドレの…。」

「あー、ちょっと複雑なんだけどね。アンジェラっていう人もルシフェルなの。」

「あ、二つに分かれたうちのもう一つ?」

「え?そうなの?なんで知ってるの?」

「うん、そこのルシフェルに触ったら教えてくれた。」

「僕はね、もう一人のルシフェルに先に出会って、お嫁さんになったんだ。」

「じゃあ、僕は?」

「大丈夫、願いは叶うよ。大きくなったら迎えにくるからね。そうしたら三人で暮らそう。」

「三人?」

「うん、アンドレとアンジェラとリリィ。」

「でも、ここから出られないよ。」

「どれくらいここにいるの?」

「わかんない。出られる?」

「大丈夫だよ、僕には必殺技があるからね。おいで。」

 僕はそう言って、小さいアンドレに手を差し出した。

 アンドレは手を握り、僕に聞いた。

「リリィは天使?」

「ん、元天使かな。」

「また、会いたいな。ずっと一緒にいたいな。」

 僕は小さいアンドレと共に王の間に転移した。

「じゃあ、僕行くね。もうあそこには入らないでね。出られなくなるよ。」

 その時だ、後ろから剣で切りかかられた。バサッ。と羽の一部が飛び散る。

「お父上、やめて~。アンドレの天使を殺さないで~。」

「アンドレ、無事か?」

 しまった。先王がそこにいた。僕は自分の時間に転移する。


「っ、つう。」

 翼に傷を負ってしまった。癒すには触りにくい場所だ…。

 うつ伏せになって、背中の方に手をやって傷を治してると、アンジェラとニコラスが駆け寄って来た。

「リリィ、どうした?」

「先王に剣で切られちゃった。かすり傷だと思うけど、いきなりやられて焦った。」

「どうしてこんな…。」

「あの、封印の間がここの地下深くにあるってわかったよ。その暖炉の横の棚が入り口。でも、入ったら出られないトラップになってて、ちびっこアンドレが迷い込んでた。」

 そこに着替え終わったアンドレが戻って来た。

「リリィ、その傷は…。あの時の…。」

「そうみたい。今戻って来たところなんだけど。天使を斬るなんてひどいな。」

「すまない。私は一か月ほど行方不明になっていたようで、皆必死で探していたのだ。」

 アンドレは王の寝台の枕元の壁にある隠し金庫を開いた。

 その中から一つの煌びやかな宝石箱を取り出し、蓋を開けた。

 そこには、金色の光の粒子が纏わりつく大きな羽が一枚入っていた。

「私の宝物だ。」

「それって、僕の羽?」

 アンドレは頷いた。何故かニコラスがその場で座り込んでいる。

「ずっとあの時から待っていた。だから、今私は本当に幸せだ。」

 皆、ほっこりしたところで、僕の様子を見てアンジェラが突っ込みを入れる。

「リリィ、どうして床にうつ伏せになってそんな変な格好をしているんだ?」

「体が硬くて、翼の傷に手が届かないんだよ。」

「座って翼を引っ張った方がいいと思うが…。」

「へへへ、早く言ってよ。」

 僕は座って傷を癒し、皆でイタリアの家へ転移した。


 ニコラスも着替えたところで、昼食をとった。

 ニコラスは結構な食いしん坊みたいで、またハムスターみたいになっている。

「ニコラス、誰もとらないから、ゆっくり落ち着いて食べろ。」

 また、アンドレに言われている。

 五百年前の教会での食事は質素だったのだろうか…。

 イタリアンも好きなようだが、和食もいけるらしい。

 満腹になったところで、ニコラスから空気読めない系の質問が出た。

「アンドレ様はアンジェラ様とリリィ様が結婚されていても問題ないのですか?

 しかも同居だなんて、耐えられないのではないですか?」

 その場の空気が冷やっとした…。そこで、アンドレが頬を赤く染めて言った。

「私は二人に愛されているのだ。これ以上の幸福はない。」

 そう言ったかと思うとアンドレはアンジェラにキスをして合体し、僕の横に座りイチャイチャしだした。

 もし、もーし。実演しなくてもいいのではないでしょうか?でもキスは止められない。

「あ、うん。ん。」

「わ、わかりました。申し訳ありませんでした。」

 アンドレとアンジェラの合体が解ける。二人ともちょっと赤面している。

「というわけなので、心配しなくても大丈夫だ。」

徠夢(らいむ)達には言うなよ。殺される。」

「わ、わかりました。」

 その後、合体したアンドレとアンジェラがニコラスを日本に送って行った。


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