表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/694

7. アダム

 僕は、アダムを連れて自室に入り、ベッドの上に乗せ少し彼を観察する。

 見た目は昨日と同じ、蒼く輝く黒い毛の碧眼の仔犬だ。昨夜の衰弱した様子は微塵も感じられない。ちょっと首周りの毛が長く、かわいい。

「アダムが話せたら、もっと楽しいのに…。」

 すると、アダムが行儀よくお座りし僕の目を見つめて口を開く。

「おはなし?」

「え?え?ええええええええ?」 

 僕は、その時、気を失った。と思う。多分。気がついたら、また真っ暗闇の夢の中だった。

 はい、出ました~。夢第二段。というか、僕はさっきからずっと夢を見ていたのかもしれない。今朝の出来事は全部夢で、まだ目が覚めていないということか。

 目の前にまた黒い球が浮かび上がる。青白い炎を纏い、ゆらゆらと揺れ、おっさんの声で僕に話しかけてくる。

「やっと、見つけた。」

「あ、あの~。言ってること、よくわからないんですけど。それと、黒い球さんは、いったいどなたですか?今更なんですが…。」

 黒い球の青白い炎が一瞬金色に輝き、巨大な火柱となって轟音をあげた。

「うわっ。」

 思わず、僕は驚きの声をあげ、熱さに怯え目を閉じる。が、閉じる瞬間、その火柱の中に

 人影が見えたのだ。それは、二つの大きな黒い角を持ち、黄金の眼球と赤い瞳、大きな双翼からなる者のように見えた。そして、僕は、夢の中でまた意識を失くしたようだ。

「くぅん。」

 顔をアダムに舐められて目が覚めた。

 あれ?自室のベッドの上で着替えも済んでいる。

 もう、どこまでが夢か現実か自分が壊れてるんじゃないかと不安になる。疲れてるのかなぁ。

「くぅん。」

「アダム、お腹すいてないか?」

「くぅん。」

「あぁ、変な夢だった。アダムがしゃべるとか、やばすぎだよなっ。」

 これは夢、これは夢、絶対に夢だよ。頭のなかで繰り返す。

「くぅん。お腹はすいてない。でちゅ。」

「そっか。…え?え?今なんか聞こえた?」

「くぅん。お腹はすいてないの。でちゅ。」

「ぎゃ~。どういうことよ?どういうこと?なんで犬がしゃっべってるの?」

「それは、わかんない。」

 これは夢、これは夢、変な夢。引き続き繰り返す。

「アダムのちからをライルにあげる。」

「え?どういうこと?」

「えっとね~、たすけてもらったし、お名前大切だから。」

「…うーん、ちからねぇ…。」

「遠くまで聞こえるよ。ごはんも早く食べれるよ。」

「あはは、ご飯食べるの早いのって能力なのか?」

「ち、違うのぉ?」

「でも、じゃあ、その能力、どうやって確認するんだよ。」

「えっと、誰かのお話しを聞こうとしてみてよ~。」

 じゃあ、父様と母様の会話でも聞いてみるか?二人は動物病院の中で診察中だ。

 しかし、動物病院は別棟になっていて、ここからは30メートルは離れている。

「聞こうとするって、どうやって?」

「しゅうちゅう~。」

「なんか普通っぽいな。集中ね…。」

 ん、あ、聞こえるかも…。

(ねぇ、徠夢君、さっきライルが電話かけてきて、ショッピングモールでドーナツ絶対買ってきてって言ってたじゃない?)

(うん、めずらしいよね、そういうわがまま言ったのは初めてだよ。)

(あの電話の後、泣き叫んでいたそうなのよ。かえでさんから聞いたの。一体何があったのかしら?)

(電話が壊れて切れたからじゃないのかい?)

(そうかしら?)

(そんなに食べたかったのなら、そろそろ一緒に買いに行ってきたらどうだい?今日はそんなに患者も多くなさそうだから、僕一人でも大丈夫だよ。)

(そうね。そうするわ。)

「き、聞こえた。しかもはっきり。確かに能力といえるかも。」

「どう?聞こえた?」

 アダムがドヤ顔でおすわりをする。


 パタパタと母様の歩く音が聞こえ、しばらくすると僕の部屋のドアがノックされた。

「ライル~。入っていい?」

「母様。どうぞ。」

「ライル、さっきのドーナツ買いに行きましょ。」

「あ、でもアダムを置いていけないよ。」

「あら、そうね。来たばっかりで心配ね。じゃあ、アダムも一緒に連れて行って、かわいい首輪とかおもちゃとか買ってあげましょうか。」

「え、いいの?」

「いいわよ、今日からアダムもうちの子ですもの。」

 アダムは尻尾がちぎれそうなくらい振っている。

「うん、じゃあ行く。」

「じゃあ、外は暑そうだから、帽子被って準備してね。」

「はい、母様。」

 僕は準備をすると、アダムを抱いて母の後を追い、車に乗り込んだ。


「アダムをちゃんと抱っこしててね。」

「はい。」

 僕はシートベルトを締め、アダムを抱えた。

 十分ほどでショッピングモールに到着した。まだパトカーが数台いるが、事故の後片付けは終わっているようだ。

 母様はまずペットショップでアダムの首輪とリードを買った方がいいと言って、僕に選ばせてくれた。

 赤いストーンのついた黄色い首輪と伸縮可能なリードを選んだ。他にもアダムのおやつをいくつか買った。

「母様。ありがとうございます。」

「いいのよ、アダムをかわいがってあげるのよ。」

「はい。」

 僕は、その場でアダムに首輪とリードを付け、ドーナツ屋さんに向かった。


 ドーナツ屋さんの前でアダムと共に母を待つ。母はドーナツの箱を手に戻って来た。

「ライル、限定のドーナツは今の時期にはないそうなのよ。だから普通のからいくつか買ったわ。それでいい?」

 しまった。適当な嘘ついてたんだった。

「あ、あれ~、そうでしたか。ごめんなさい。勘違いだったかな~。どれでも大丈夫です。」

「じゃあ、帰りましょう。」

「はい、母様。」

 事故現場を横目で見ながら僕たちは家路についた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ