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696. お迎えミッション

 いつもならニューヨーク時間の午後2時半頃にお迎えに行くのだが、今日は少し早めに来てくれと言われていたため午後1時にスクールに到着。

 しかし、少し早すぎたのかまだ中で子供たちがワイワイと騒いで誰も出て来ていなかった。

 エントランスから中を覗き込むが、誰も教室から出て来ていない。

 一人でポツンと立っていると、先生の一人がたまたま通りかかり僕に気づいた。

「あら、誰かのお迎えかしら?」

「あ、はい。マリアンジェラとミケーレ・ライエンの…」

「あー、あらあら、噂のフィアンセね、ふふふ」

「はい?」

「マリーちゃんがいつも自慢しているのよ、歳が離れたすごく素敵なフィアンセがいて、一緒に暮らしているって…。」

「あはは…フィアンセではないですけどね。」

「あら、そうなの?」

「叔父です。」

「まぁ…ずいぶん若いおじさんなのね。」

「あの、今日早く迎えに来るように言われたんですけど、早すぎましたか?」

 腕時計をチラと見て先生は僕に言った。

「あと20分くらいで終わると思うけど、よかったら教室の中に入っていきませんか?外は寒いですし。」

「あ、ありがとうございます。」

 僕は促されるままスクールの中へ入った。

 中に入りマリアンジェラとミケーレの教室の前まで行くと、案内してくれた先生がドアを開けてくれた。

「キャロライン先生、早くお迎えに来た保護者の方を連れてきましたよ。」

「はーい、すみません。もう少しで終わりますので良かったら中でお待ちくださいね。ってきゃーーーーー」

 キャロライン先生と呼ばれた先生が大きな声で叫んだ。

「どうしたの?」

 案内してくれた先生が慌てて教室の中に入った。

「ら、ら、ライル様じゃないですかぁ…。う、うれしすぎて…」

 どうやら僕のファンだったらしいその先生は最近このスクールで働き始めたようで、マリアンジェラとミケーレがアンジェラの子供だということは知っていたが、まさか僕が叔父だとは知らなかったらしい。

 そんな先生たちを置き去りにして、マリアンジェラが僕の前に猛ダッシュしてきた。

「ライル、待ってたのよ。お友達に私のフィアンセを紹介したくって今日は早く来てもらったの。ふふ」

「マリー、そういうの聞いてないし、僕は叔父さんでフィアンセじゃ…むぐっ」

 そこまで言ったところで、マリアンジェラは僕によじ登り僕の口を手で押さえた。

「ライル、細かいことはいいから、ね。ほら、1年生のお友達よ、ご挨拶してくれる?」

「あ、えとマリーのお迎えに来たライル・アサギリです。こんにちは~」

 マリアンジェラは『うんうん』と満足げに頷き、僕にぎゅっと抱きついた。

 お友達は興味津々で僕を見ている。ミケーレは笑いをこらえるのに必死な様子だ。

「今日はね、明日からウィンターブレイクだからクリスマスパーティーだったのよ。午前中はカードも自分で作ったの、はい、これ、ライルにあげるためにマリーが作ったカードよ。」

 どや顔で渡されたカードには色紙いろがみを切り抜いて作ったツリーと飾りが糊付けされており、メッセージが書かれていた。

『I LOVE YOU❤』

 空いているスペースにはピンクや赤のハートがたくさん貼られていた。

「マリー、ありがとう。うれしいよ。」

 マリアンジェラは頬を少し赤く染め僕にしがみついた。他の子たちはポカンとしたまま僕達を見つめていた。

 先生は急に我に返り、子供たちに自分の荷物を忘れずにバッグに入れて持ち帰るように言った。

 先生達が用意したプレゼントもあるようだ。

 指示された通り子供たちが片づけを始め、それぞれがコートを着てバッグを持ち、席に戻った。

 最後に休み中楽しんで過ごすよう先生から挨拶があり、解散となった。

 二人の手を引いてエントランスに着いた頃には他の保護者達も集まって来ていた。

 外に出ると数人の子供達がマリアンジェラの所に集まってきた。

「ねぇ、マリー、どこでこんなイケメン見つけたのよ。いいわねぇ」

「テレジア、どこって、うちに決まってるでしょ。一緒に住んでるのだから。」

「まぁ、もう一緒に住んでいるの?すてきだわ~、私も早く素敵なフィアンセが欲しい。」

「ふふふ、ライルはいつも私にとっても優しいのよ」

 このままではいつまでたっても帰れそうにない。僕は「好きなアイスを2つ箱で買ってあげる」とマリアンジェラの耳元でささやいた。

「じゃ、皆さま良いクリスマスを…」

 ペコリとお辞儀をして僕の手を引っ張り、さっさと家とは反対方向の学校の隣のスーパーへ足早に向かうマリアンジェラだった。

 僕とミケーレは顔を見合わせ笑いをこらえた。楽しいひと時だ。

 約束通りアイスを2箱とそのほかにキャラメルシロップとチョコチップを購入し、家へと向かった。

 スクール近くの家に着いたらすぐにイタリアの家に転移する。


 やっと今日のミッション終了だ。

 二人は子供部屋へ着替えに戻り、僕はアイスクリームを冷凍庫へ入れるためダイニングに行った。

 そこでは何やらアディがリリィにおしゃべり中だった。

「あのにぇ、アディ、すちょろべんりのやつたべたい」

「ん?なんだろそれ…アディ、もう一回言ってみて」

「すちょろんべんりのやつー」

「いや、わかんないって、もう一回言ってみて」

「すちょろーんべーんり」

「あははは、なんだろ、それ。ママには全然わからないでちゅね~」

 リリィが笑ってごまかしている。僕の姿に気づくとアディが僕に駆け寄り僕の足にしがみついた。

「らいりゅ、アディね、すちょろんべんりのやつたべたいにょ」

「あー、これか?」

 僕がストロベリーのアイスの箱を出すとアディはリリィにどや顔で言った。

「ほらぁ、ちゃんとわかりゅもん」

 リリィが苦笑いしながらお皿とスプーンを出してくれた。

 マリアンジェラとミケーレ、ルーも加わってストロベリーとナッツ入りバニラのアイスはあっという間になくなった。


 イタリアではもう夜の時間で、アディとルーは食事を済ませていたらしく、アイスを食べた後すぐに寝る時間となった。

 時差があるため少しでも帰宅が遅くなると生活のリズムがを維持するのが大変になる。

 そういえばニコラスがいない、そう気づいた僕はリリィに聞いた。

「リリィ、ニコラスは?」

「あー、ニコちゃんね、さっきライアンとジュリアーノをお風呂に入れてたわよ。」

「あ、そうなんだ…。」

「うん、ほら、アンドレが出張でいないからね。あ、それからリリアナが急に呼び出されて日本にちょっと行ったみたいだよ。」

「ふーん。」

 そんな会話の少し後に、リリアナとアンドレ家族の部屋がある方からニコラスがダイニングに移動してきた。

「ふぅ、疲れました。アディとルーがどれだけおとなしいか、痛感しました。」

「ニコラス、お疲れ様。」

 僕が声をかけると嬉しそうに頷くニコラスだった。

 リリィは冷蔵庫からボトルを1本だし、栓を抜いてワイングラスに注いでニコラスに渡した。

「ニコちゃん、これ飲んでゆっくりして。」

「リリィ、私はお酒は…」

「あ、これねワールドツアーで行った西海岸で買ったお土産の『グレープジュース』なの。めちゃくちゃワインっぽいラベルでしょ。おいしいから飲んでみて。ライルもマリーもミケーレもどうぞ。」

 皆でリリィが僕にもワイングラスに注いだグレープジュースを渡した。

 甘い香りのおいしいグレープジュースだった。

「そういえば…アンジェラは?」

「アンジェラはね、電話会議中なの。所属タレントの不祥事が発覚したみたいで、契約解除するかどうかの話し合いをするみたいよ。」

 アンジェラはタレントにはかなり厳しい人だ。ちょっとしたことで足元をすくわれるかもしれない業界だから余計に慎重なのかもしれない。

 そんな話のすぐ後にアンジェラが疲れた顔をしてダイニングにやってきた。

「ライル、帰ってたのか。おぉ、お前たち、酒盛りしているみたいだな。不祥事は勘弁してくれよ。」

 アンジェラのイタイ冗談に皆少し苦笑いを浮かべた。

「パパ、フショウジってなに?」

「マリー、実はな、今回私が代わりに行くことになったワールドツアーの日程を組んでいたバンドのボーカルがだな、クスリを盛られて病院に搬送されたのだ。」

「お薬飲んだら病院にいくって普通の人と反対だね。」

「ハハハ、マリーここで言っているのは病気を治す薬ではなく、違法な薬物のことだよ。」

「違法なヤクブツ?」

「飲んだり嗅いだりすると頭や体がおかしくなるのだ。使えば警察に捕まる。」

「ひぇ~自分からおバカになるって終わってるね。」

「幸い、本人は薬を盛られて生死を彷徨ったことも知らないがな。」

「誰に盛られたの?」

 リリィが質問をした。

「以前付き合っていた女が捨てられた腹いせに家にスペアキーで侵入して冷蔵庫の牛乳に薬物を混入していたようだ。」

「うわっ、怖いわね~。それで契約は解除するの?」

「いや、本人はあくまでも被害者だからな。体が良くなるまで活動休止と いうことで、いわゆる謹慎だな。スキャンダルには違いないからな。」

「被害者なのに?」

「軽い気持ちで相手を部屋に入れたのだ。それが落ち度になりうるのだ。」

「なるほど…。ライルも気をつけてね。女の執念は怖いわよ~。」

 リリィが僕を茶化してその話は終わった。


 その後夕食をとり、子供たちは子供部屋へ戻り、僕とアンジェラ、リリィ、そしてニコラスでまた地下のレコーディングスタジオで秘密の会議を行った。

 ニコラスには詳細を言っていなかったので驚いていたが、先に質問したことがアンドレの失踪と関連していると知りかなり心配している様だ。

 僕はアンドレと話した内容、そして録画した動画を3人に見せ、アーサー王と王妃に見せてきたことを報告した。

 アンドレもなるべく早いうちに二人を安心させる方向で話を持って行くと約束したと僕が話すと、ニコラスが突然震えながら僕の手を握って言った。

「ライル、私は嫌な予感がしてならないんだ。その日付、なにか思い当たることはないか?」

「うーん、正確な日付まではわからないんだよね。でも誕生日のプレゼントを王子二人に用意したのに渡せなかったって言ってたから…。その辺りかなって。」

 4人で考えても特に何も思い浮かぶことはなかった。

 今まで何年も繰り返してきた日常を急に予告なく変えることなど誰も願ってもいなければ予想もしていないことなのだ。

 今は何も出来ることはない。何か問題が起きた時に対処するほかない。アンジェラがそう言って4人は話を終えた。


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