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673. オンエア

 11月4日、土曜日。

 ようやく大学での中間テストやレポート提出の忙しい日々から解放された後、昨日の夜からアメリカの家の方に戻っている。

 今回はアンジェラが作曲した歌をリリースする時期に合わせてCMをオンエアすることにしたらしく、それがまさしく今日なんだとか…。

 アンジェラは昨日の夜から時差のある日本やヨーロッパの支店と電話会議で大忙しの様子だ。


 出来上がったCMは、実は僕もまだ見ていない。

 夜の8時からのドラマのスポンサーになっている会社らしく、そこでCMがオンエアされるという話だった。

 軽くランチを皆で食べた後、皆、思い思いの事をして過ごしていたのだが、夕食の準備もほぼ整った夕方6時頃、ミケーレがダイニングのテレビの電源を入れた。

「パパー、うちのテレビって録画できるの?」

 ミケーレが調理中のアンジェラに聞くと、アンジェラは急にスマホで誰かに電話をかけ始めた。

「あぁ、私だ。アメリカの家のテレビは録画できるのか?あぁ、わかった。早く来てくれ。」

 アンジェラがそう言ってスマホの通話を切った。

 電話を切るのとほぼ同時にダイニングのテーブルの前にリリアナが転移してきた。そして、その横にもう一人立っている。

「あ、じーちゃん。」

「おぅ、ミケーレ元気だったか?たまには遊びに来てくれよ~。新しいゲーム買ってあるからさ~。」

「え~、でもママが、じーちゃんはあと半年で大学卒業だから国家試験に合格できるまであまり勉強の邪魔しちゃダメって言うんだもん。」

「ちょっとくらい息抜きしないとダメなんだよ~。」

 ぐにゃぐにゃしていて頼りなさそうに見えるが、アズラィールは医大の6年生なのである。

 そしてアズラィールは今では親族中で一番のメカマニアなのである。スマホの設定やPCのセットアップ、家電等、なんでも知り尽くしていて、よく頼まれて設定をするのだ。

「父上、忙しいのに申し訳ない。」

「いや、いいって。設置だけして説明してなかったのも悪かったからさ。」

 そう言いながら、テレビ横のキャビネットを開け、黒い装置の電源を入れ何やらメニューから録画を予約する画面を開いた。

「ミケーレ、僕の代わりに覚えておいてよ。ほら、ここ押してさ、で、番組選んでここ押すの。」

「わかったー、ありがとじーちゃん。」

「ところで、ドラマなんか録画するのはどうしてだ?」

「あ、この番組の途中でライルとマリーが出てるCMが放送されるんだって。」

「そうだったのか…ま、当然のことながら日本では放送されないんだろうな。」

 アズラィールがそう言った後でアンジェラが近づいてきて言った。

「アメリカ以外の地域では一週間ほど遅れると聞いている。まだ、時間などの詳細もわからない。」

「そのうちWEBサイトで公開されたら教えてくれよ。じゃ、これでいいかな。リリアナ、送ってくれ~。」

 アズラィールとリリアナは音もなく一瞬で日本へ戻って行った。


 夕食が終わったのが夜8時の少し前、ミケーレが皆をテレビの前に来るよう促した。

「うわー、テレビの前で自分の出てるCM見るのすごい恥ずかしいんですけど…。」

 僕がそう言うと、マリアンジェラがちょっと悲しい顔をした。

 ドラマが始まり、皆真剣に見ていたが、どうも内容がティーン向けの学園もので、あっという間に飽きてしまったようだった。

 ドラマが始まって15分が経ち、CMの時間になった。

 いきなり最初のCMが僕とマリーの出演しているものだった。


 おや?僕が以前見せてもらったものと少し違うようだ。

 ストーリー展開は同じだが、途中途中でマリアンジェラの考え込むような別カットが入る。

 そして、後ろで流れている音楽だ。デモ音源で聞いたのは全部日本語だったが、CMでは英語の歌詞だった。しかも、ほとんどが音楽だけで、最後のところだけ歌詞が入っているという感じだ。

 CMは60秒もある長いものだった。夏のビーチで彼女の足首にアンクレットを着けるなんて、実際にやったら相当キザだよね。

 まぁ1つ目のCMはドラマ性を重視していて、僕の顔もマリアンジェラの顔も遠目に写るだけで自然な感じがした。

 そして、2本目のCMは更に15分近くドラマが進んだ後に放送された。

 こちらもさほど最初に見ていた映像と変らないが、ところどころにマリアンジェラのカットが入っている。それが場面変更のアクセントになっているみたいだ。

 よく60秒の中にこれだけのストーリーが入れ込めるものだと感心するほど、ドラマチックな感じに仕上がっている。

 3本目もそうだ、マリアンジェラの悲しい表情がとても印象深い映像に仕上がっていた。

 セリフもないのに、ものすごく気持ちが揺さぶられる映像だ。

 そして最後のCMがいよいよ放送になった。

 彼が指定したホテルのラウンジでプロポーズを受ける彼女、そしてエンゲージリングを手に跪く彼、涙を浮かべ『Yes』と返事をし、キスをした二人。最後にほんの数秒、結婚式の誓いの指輪交換とキスシーン、最後に腕を組んでのツーショット。

 いやぁ、僕の髪が短い…。月曜日からも長いままの髪で大学に行けば、僕だと気づかれずに済むのではないかと思うほどだ。

 3話目ではジュエリーを着けていないからCMとしてはどうなんだろうと考えていたが、その分4話目に結婚指輪とエンゲージリングの2つが入っていた。

 なるほど…もしかしたら、そのための追加撮影だったのかもしれない。

 CMの最後にアンジェラの歌のフレーズが流れ、二人の結婚指輪をはめた手の映像がクローズアップされ、『永遠の愛を形に…』と文字が表示された。

 ♪二人の願いはただ一つ 二人で歩む未来~♪

 企業の利益追求のためのCMなのである、宣伝して購買意欲を掻き立てなければ意味がないのだ。

 アンジェラの曲の歌詞もこの部分が追加されたのだろう。

 三流な学園もののドラマはあまり記憶に残らなかった。

 しかし、CMの方はなかなか良かったのではないかと少し安堵したのだ。

 その後、ドラマが終了し、家族団らんの時間も終わり、後片付けの後各自部屋に戻った。


 アンジェラはCM放送開始と同時にストリーミングを開始していたため、その後2日間あちこちの支店との会議で寝る間がないほどの状態だったようだ。

 当然のことながら、ジュエリーも飛ぶように売れたそうで、僕とマリアンジェラへの特別ボーナスも支給された。


 週末が終わり、大学での生活がまた始まった頃、ボサボサの長い髪のまま過ごしていた僕には、思いのほか気づく人も少なくて騒がれることもほとんどなかった。

 そうして日常へと戻って行ったのである。


 11月中旬には春学期の科目登録などを終え、あっという間に感謝祭の時期を迎えた。

 大学もマリアンジェラとミケーレが通うボーディングスクールも数日の休暇となった。

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