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663. マリアンジェラの彼氏(1)

 アメリカの自室に戻り、またベッドに入った。

 なんだか昨日から今日にかけては本当に長い一日だった。僕は何も考えず少しでも眠ろうと目を閉じた。

 何分経っただろう…ふと、目を開けた。

 ん?いや、待てよ。僕は今眠っていたのか…。全く眠っていた気がしないが、数時間経っているのか外はすでに明るくなっている。

 そして、横に寝ていたはずのニコラスがいなくなっていた。

 シャワーを浴び、身支度を整えダイニングのある下のフロアに下りた。

 慌ただしく朝食の準備をするリリィとアンジェラ、そして、まだ魂が抜けたままの状態のリリアナがそこにいた。

「あ、リリアナ、戻ったのか?」

「あ、うん。そうよ。日本時間の朝から動き回ってたから、もう疲れちゃって…。」

「お疲れ様。アンドレは?」

「子供たちを寝かせてるところ。さすがに子供たちも疲れたみたいで…。」

 そう言うリリアナもかなり眠そうだ。

 見かねたリリィがリリアナに近づいて行き言った。

「リリアナ、あなたも寝た方がいいわよ。その目の下のクマ…やばいわよ。」

「やだー、マジ?寝る。明日の朝まで起きてこないかも。」

 リリアナはそう言って自分たちの部屋の方へ行ってしまった。

 リリィとアンジェラは度々二人で見つめ合いながら皿を並べたり、朝食を運んだりしている。まだまだ熱々の二人である。


 その時、ふと、僕が感じている違和感を思い出した。

「あ、そうだ!ニコラス、ニコラスがいないんだ。どこに行ったか知らない?」

 僕のその言葉を聞いてアンジェラが答えた。

「ニコラスは、あれだ、なぁリリィ…。」

「うん、あれ。」

 二人がニヤニヤしながらもったいぶって僕の方を見た。

「何さ、あれって。」

 僕がそう言うとアンジェラがちょっと声を落として言った。

「ニコラスは、マリーの付き添いで外出中だ。」

「え?マリーの付き添い?」

 僕が首を傾げているとリリィが補足した。

「ライル、マリーはカレシとデートに行ったのよ。そしてニコラスがその付き添い。」

「ええっ!デート?か、彼氏ぃ?」

 僕は思わず声が上ずってしまった。ちょっと恥ずかしい。

 あんなに毎日僕のあとばかりくっついてきていたマリアンジェラに、とうとう彼氏ができて伯父ぼくのことなどもうどうでもいいと言う事なのだろう。

「ライル、私もちょっとショックだったが、子供にも人格があるのだから仕方がないことだ。」

 アンジェラがしみじみと言った。全くその通り、父や伯父がいくら頑張ったって子供たちはいずれそれぞれのパートナーを見つけて巣立っていくのだから…。

 とは言っても、僕の心の中にはぽっかりと大きな穴が開いたようになってしまったのだった。


 一方、遡ること1時間前、マリアンジェラはニコラスと約束していた時間にライルとニコラスの部屋に行き、ベッドに入って目を閉じているライルの首筋をそっと触った。

 ライルを眠らせたのである。そして、ニコラスが身支度を整えると同時にアメリカのボーディングスクール近くの拠点としている家の方にニコラスを連れて行き、『彼氏を連れてくるからちょっと待ってて』と言っていなくなってしまった。

 ニコラスはマリアンジェラを止めようとしたが、転移でどこかに行ってしまったため、なすすべもなくソファに座りボーッと待っていた。

 2分ほど経った頃、2階の部屋からマリアンジェラが男の子の手を引いて階段を下りてきた。

「こんにちは、今日はよろしくお願いします。」

 日本語で丁寧にあいさつした男の子は、金髪の長髪を結わえていて黒縁眼鏡をかけていた。

「あれ?日本人の子なの?」

 ニコラスがそう聞くと、男の子がうなずいた。マリアンジェラは繋いだ手がうれしいのか頬を赤くして終始ニコニコしている。

「さっ、行こっ。今日はフロリダのパークに行くの。」

「え?マリー、フロリダかい?」

「うん。ニコちゃん大丈夫よ。マリーね、パパにちゃんとお許しももらったし、ホテルのスィートルームもリムジンも使っていいって言われてるから。あ、あと、これね。」

 マリアンジェラは手首につけるバンドのような物を肩にかけていたポーチから取り出し、男の子とニコラスに渡した。

「マリーちゃん、これなぁに?」

「年間パスポートって言うのがあってね、これの中に情報が入ってるんだって。手首につけておいてね」

「へぇ…」

 いつの間に準備したのかアンジェラにおねだりして3人分の年間パスポートまで用意してあったのだ。3人はそのまま、フロリダのアンジェラがオーナーである高級ホテルのスィートルームに転移した。

 マリアンジェラが部屋の内線電話でフロントに連絡すると事前に話を聞いていたフロントの責任者が3分後にはエントランスに車をまわすと答てくれた。

 ニコラスはただ無言でマリアンジェラについて行くしかなかった。

 リムジンを降りてからの約12時間、ずっと歩き続けた1日だった。

 迎えのリムジンの時間が決まっていたため、名残惜しそうなマリアンジェラをどうにかなだめてホテルに戻った。

「マリー、私は今日ほどたくさん歩いた日はありませんよ。」

「ニコちゃん、ありがとね。マリーのお願い聞いてくれて。ニコちゃん、大好き。」

 お行儀よく終始過ごしていたマリアンジェラの彼氏だったが、ニコラスは名前を聞くのを忘れたのだった。

 結構遅くなっちゃったからと言ってマリアンジェラはホテルのスィートルームから彼氏を家まで送ってくると言って二人で転移して行った。

 夜八時、アメリカの新居の方に戻ったニコラスとマリアンジェラは家族との夕食に合流した。


「たっだいまー」

 元気いっぱい、両手に大量のお土産をかかえてゴキゲンの様子で階段を下りてくるマリアンジェラに子供たちが群がった。

「マリー、お土産?あ、僕これがいいなぁ。」

 ミケーレがキャラクターの柄の入ったタオルを手に取った。

「うんうん、どれでも持って行って使っていいよ。」

「で?デートはどうだったの?」

「えへへ、いっぱい乗れたし、楽しかった。もっと遊びたかった~。」

 アディとルーが魚のぬいぐるみで遊び始めた。

「ほらほら、君たちはまだご飯食べ終わってないよ。」

 リリィが子供たちの手からぬいぐるみを一瞬で取り上げて子供部屋に転移させた。

 僕、ライルは得意げに話すマリアンジェラの様子をただ黙って見つめていた。

 マリアンジェラは僕の方に視線を向けることなくその日の夕食は終わったのだった。

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