66. Case4 アズラィールの父マルクス
五月七日土曜日。
午前十時、アズラィールの父マルクスを連れてくるため、準備をする。
前回シーツを忘れて焦ったからね。
さて、大体の時期はわかっている。
意識を集中してマルクスの痕跡を探る。
アズラィールとアンジェラの手を握り、転移する。
アズラィールの家の前、マルクスが失踪した日の夜だ。
僕らは家と家の間の人が通らない物陰に隠れ、その時を待つ。
来た、マルクスだ。そこへ黒い角のある男三人が駆け寄り、口をふさぎこん棒で殴り、マルクスを気絶させた。マルクスは袋をかぶせられ拉致された。
しかし、マルクスは意識がなくなる直前、願いを込めて封印の印と呼ばれる首輪を外し、家の前の路地に投げたのだ。
「よし、あいつらをつけよう…。」
アンジェラが男らしく言った、ちょっとかっこよかった。ふふ。
男たちは二時間ほどかけ、人目につかない場所を選びながらマルクスを町はずれの半壊している穀物倉庫に連れてきた。
どうやら、こいつらは拉致だけ受け持っている下っ端で、誰かにマルクスを引き渡す様だ。
更に一時間以上その場で待ち、馬車が一台止まった。
拉致実行犯の男どもは、その馬車に乗っていた男二人にマルクスを引き渡すと、報酬の金を受け取り、その場を去って行った。
男どもは黒い角のついた面を脱ぎ、拉致に使ったこん棒や、マルクスに被せた袋などを穀物倉庫ごと焼き払った。
アズラィールの話では、その男はアズラィールが住んでいた町に住む普通の青年達だった様だ。アズラィールは穏やかな青年ではあるが、そいつらに対しては怒りを覚えている様だ。
さて、一時間後、二時間後、三時間後と僕たちにとってはほんの数分ではあるが、先の時間に転移を続け、先ほどの馬車を追う。
十時間ほど先に進んだ時、アズラィールも知らない町で、郊外の教会の前に馬車は止まった。十字架の中央に丸いオブジェが燃えるような炎の形をかたどっている。
スマホのGPSが使えないので、正確な位置がわからない。
家に戻ったら調べてみよう。
馬車からマルクスが下ろされるのが見えた。
さるぐつわをされ、縄で縛られている。
教会内に先回りをして、様子をうかがう。
猿ぐつわを外されたマルクスに薬か何かを無理やり飲ませているのが見える。
多分、眠らせているのだろう。
マルクスは全裸にされ、やはり別の帰還者と同じように青い魔法陣の中央に寝かされる。
四人の神官の様な者たちが現れ、何やら呪文のようなものを唱える。
神官の一人が灰色の金属でできた杭をマルクスの手のひらに打ち付けた。
そこに、雷が一筋落ち、その光と共にマルクスの体が消える。
僕は黙って頷き、二人と共に約一か月後のマルクスが戻る時期に合わせ物陰に転移する。
光の粒子が出現し、それが実体化し始めた時、教会の中にたまたま見回りにきた男がいたようだ。
「うわっ、大変だ!」
男が叫んで助けを呼びに行った間に、僕たちは大急ぎでマルクスをシーツにくるみ、現代の日本へと転移した。
家に転移し、アズラィールとアンジェラが空き部屋でマルクスの体を拭き、パジャマを着せる。すぐに未徠を呼び、診察してもらった。
特に問題なさそうだと言うことだったが、栄養補給の点滴をしてもらった。
アズラィールとアンジェラで交代で付き添うことになった。
僕はその間、自分の部屋かダイニングで過ごした。
実はちょっとやりたいことがあったのだ。
かえでさんに教わりながら、料理を教わった。
いつもイタリアにいるときには、アントニオさんに出来たお料理を運んでもらってるけど、ちょっとは自分でも作ってみたい。