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652. 夢の中で(9)

 おじい様と父様が輸血の処置を受けている総合病院のICUに戻った僕は、付きっきりで対応に当たっていた石田刑事に臓器を奪還したことを告げた。

「取り返してきました。今から体内に戻します。」

 そう言った僕の言葉を聞いて石田刑事が深刻な顔で言った。

「ライガ君、ただ戻したところでオッケーとはならないのは君もわかっているだろう?

 さっきここの先生に聞いたんだが、今から大学病院の移植経験のある医師に来てもらうとしてもいつになるかわからないそうだよ。」

「…」

「こんなことは言いたくないが、覚悟をして…」

「大丈夫です。石田刑事さん、僕に考えがありますから。」

 僕はそう言うと、石田刑事にビデオの撮影と立ち合いをお願いした。


 10分ほど待っただろうか、二人はそれぞれ別の手術室に移動された。そこには、用意された撮影用のビデオが設置されていた。そこに移植経験のない医師と看護師、そして石田刑事も術衣を着せられ同席した。

 僕は翼を収納し、よく神々の住む場所でアディとルーが着ている白い布で出来た衣を着た姿へと変化した。マリアンジェラと散々練習した甲斐があったというものだ。

 術衣を着るのが嫌だったからだ。


 クーラーボックスから医師が臓器を取り出し金属のトレーに入れた。

「これ…どっちの臓器かわかってるんでしょうか?」

 僕が質問すると、医師が説明してくれた。おじい様は左の腎臓が無くなっており、このクーラーボックスには左の腎臓が入っているとのことだ。

 父様は右の腎臓が無くなっているから区別がついたということらしい。

 なるほど…まぁもし間違っていても遺伝子レベルで全く同じなのだから問題はないだろうが…。

 そんなことを考えながら、僕は腹部の大きな縫い傷の糸を指先で触れずに転移させ、空いているトレーにのせると、腹部の視野を広げるため切られた部分を広げたのだった。

 その時点で同席した医者は額から汗を吹き出し、かなり動揺している様子だった。


 僕はそんなことはお構いなしにおじい様の腹部の開口部分から臓器を入れた。

 肝臓を全部取り出される前に対処できて良かった。パズルのピースの様にぴったりと収まったその部分にそっと両手をかざした。おじい様の体の僕が手をかざしている辺りから、白く淡い光が広がり、すぐに収まった。

 僕は医師に肝臓を確認するように促した。

 医師は器具を使い、開口部分をより広く押し広げてビデオに映るようにしながら状態を確認した。

「な、何が起きたのですか?縫合された痕もなく、血管が全て正常な位置で繋がっており、血流も再開しています。」

 僕は言葉を発することなく、少しだけ微笑んだ。

 続いて腎臓だ。正直どっちが上なのかわからない。とりあえず適当にそれがあったと思われるすき間に入れ、『元に戻れ』と心の中で思いながら治癒を促す。

 グルンと開口部の中で腎臓が上下入れ替わったのが見えた。どうやら逆さまに入っていたらしい。肝臓の時と同じく治癒を促すと白く淡い光が漏れ、あっという間に消えた。

 医者は前のめり気味に臓器を確認した。

 カクカクと首を縦に振る医者の反応を見て、大丈夫なのだと確信した。

 最後に大きく切られてしまった腹部の傷をゆっくりと撫でるように両手で覆った。

 傷が治るところを直接見たことはなかったが、深部の組織が盛り上がり、血管が結合し、まるで切られた時の逆再生でもしているかのように繋がっていく。

 そして、ガーゼで周りについている血液をふき取った。

 完全に傷も治ったのである。


 腕や太ももに差し込まれていた血液採取用のチューブと思われるものを抜き取りその部分も癒し傷を消した。大事に至らなくて良かった。

 僕は医師に臓器の機能低下などがないか検査をしてもらうよう依頼して、父様の待つ手術室へと向かったのだ。

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