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651. 夢の中で(8)

 朝霧邸を後にして僕が向かったのは、あの城跡に作られたテロリストのアジトだ。

 まずは少し離れた木陰に転移し、外からアジトの入口の様子を確認した。

 まだ警察官が数名おり、警察の関係者以外は近づかないように監視しているようだ。

 僕はその木陰の位置のまま、事件が起こったとされる日まで時間を遡った。


 目を閉じて開けると、そこには今まで見えていた警察官たちは消え、シーンと静まり返った城跡があるだけだ。

 ぴったりと木の後ろに隠れ様子をうかがっていると、1台のスモークガラスの黒いワゴン車が一番近くの駐車場まで入って来たところで、目隠しとサルグツワをされ、後ろ手に腕を拘束されているおじい様と父様が車から引きずり出され乱暴にアジトの入口に連れて来られた。

 二人ともまだ意識のある状態だ。

 ワゴン車からは4人の拉致犯が降り、おじい様達を連れてアジトへと入っていった。


 僕はおじい様達を見つけた時に侵入した荷物が多く置かれた部屋へと転移して様子をうかがった。

 そして、人目につかぬよう場所を移動した。セキュリティカメラの映像を監視している部屋のモニターが見える位置の壁の中に潜み、監視カメラの映像で一部始終を確認するためだ。

 おじい様達は病室のような個室にそれぞれ引っ張って行かれた後に白衣を着た研究者のような恰好をした者たちに、ほぼ同時刻麻酔のようなものを注射器で打たれ、あっという間に気を失う様子が確認できた。その男たちは二人の衣服をはぎ取り、簡易ベッドのような台の上に二人を寝かせた。

 その直後、術衣を着た男たちが更に2人ずつ、それぞれの部屋に入り、中で心拍数や血圧などのモニターに接続し始めた。いよいよである。ここまでの時間、わずか10分程度である。


 なにやら、その中の一人が誰かと携帯電話で話しながら指示を受けているようだ。

『はい。はい…。わかりました。腎臓は片側だけで、肝臓は全部ですか。でも、それでは死んでしま…、あ、はい。わかりました。』

 男はそう言って携帯電話を切り、もう一つの部屋へ壁に設置されている電話機で内線通話をし始めた。

『教授からの指示だ、腎臓1つと肝臓を全摘だ。死んでもかまわないということだ。摘出が終わったら閉じてくれ。血管は縫合して無駄にせず、血液を最後に搾り取れとのことだ。取り出した臓器は用意している容器に入れ迅速に輸送すること。』

 内線通話を受けた方の部屋の術衣を着た2人は顔を見合わせ困惑しているようだ。


『マズイ…肝臓を全部取られては生きていられるはずはない。』

 僕は直感的にそう思った。

 僕は危険であることを承知で、監視している男の背後に立ち、首筋に手を当て、一瞬で眠らせたのだ。その男を倉庫になっている部屋に隠し、僕はその男に変化した。

 僕は犯人の一人のふりをして、急いで手術を行おうとしている部屋へ走った。

 ドアを叩き、開けさせる。ドアが開き白衣の男が出てきた。

「なんだ、今手が離せない。要件を言え。」

「…」

 その男が僕の目を見た瞬間、僕は赤い目を使って命令した。

『手術の指示を出した男を連れてこい』

 白衣の男は黙ったまま、室内に戻り、術衣を着た男に耳打ちをした。

 そして術衣を着た男がドアのところまで来た時にその男にも赤い目を使って命令したのだ。

『肝臓は三分の一以上残せ。絶対に殺すな。血液は1リットルまでしか採取するな。いいか、絶対に殺すな。』

 男の目に赤い輪が浮かび、スッと消えた。

 僕はもう一つの部屋にも行き、同じことを命令した。

 臓器の摘出が始まってから2時間ほど経っただろうか、どうやら摘出が終わったようで動きがあった。血液はパックに入れられ、臓器はクーラーボックスのような容器に入っているようだ。

 拉致犯の4人が臓器入りのクーラーボックスを持ちワゴン車に乗り込むのを確認した。僕は監視していた男を元の監視モニターのある部屋に戻し椅子に座らせ、ワゴン車の後を追うことにしたのだ。


 走って追いつくようなスピードではないため、僕は翼を出し地上からは僕のことを判別できないほどの高度を保ちながら飛んで後を追った。

 意外にも、車は父様が昔毎週のように通い研究を行っていた大学の研究所の駐車場で一度止まり、臓器移送用の緊急車両に乗り換えたのだ。

 何がどうなっている?違法に取り出された臓器をいったい誰に移植するというのだ。

 緊急車両はそのまま近くの空港まで移動した。そしてそのまま二人の男が臓器を持ったまま空港内へ姿を消し、最終的には航空機に乗り込んだ。

 チャーター機などではない、一般の旅客機だった。

 遠くから姿を追いつつ、航空機の行先を探ると、それは国外、上海へ行く便だった。

 ここまで来るのに約2時間経過している。


 リスクを考え、僕は行動に出た。航空機が飛び立ち、もう後戻りできない状態になったところで航空機の中のトイレに転移したのだ。トイレの中でシートベルトを外しても大丈夫だというアナウンスを待ち、トイレから出た。

 東洋人が多く、自分の姿のままでは目立つため、さっきの監視員の姿に変化した。

 幸い二人の運び屋は少し離れた別々の座席に座っていた。クーラーボックスは横の座席に置かれている。

 背後から近づき、二人の運び屋を眠らせ、クーラーボックスと共に日本の病院へと転移した。臓器の奪還に成功したのである。

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