650. 夢の中で(7)
僕は小さいライルを連れ、彼が存在する元の時間に戻ってきた。
その足で、すぐに朝霧邸の敷地内のおじい様が開業している医院に向かった。警察が現場検証をした後、かえでさんが施錠したようで、ドアには鍵がかかっていた。
やむを得ず僕らは室内に転移で入った。
おじい様が言っていた診察室のデスクの引き出しを開け、血液を保管する施設の手がかりを探したのだが、ほとんど何も入っていない状態だった。
現場検証でなのか、あるいはおじい様達を襲った犯人たちによるのかはわからなかったが、室内はかなり荒らされており、もしかしたら僕たちが今探している物も持ち去られてしまった可能性がある。
僕がそう考えて、一度封印の間のおじい様の記憶を見てこようと思った時だった。
小さいライルは、引き出しの中に手を入れて奥の方まで探り出した。
「どうした?何か見えたのか?」
「あ、あのね、紐が引っかかってるみたいだから…。」
引き出しと同じ高さの目の位置から、小さいライルは奥の方に何かを見つけたようだ。
青い紐が指に触れ、その端を引っ張り出すと、その先には大学病院のIDカードがついていた。
小さいライルがポツリと言った。
「そういえば、おじい様、毎月大学病院に行ってた。」
僕は小さいライルを連れて封印の間へと移動し、おじい様の記憶を読んだ。
たくさんの情報が頭に流れ込んできた。
「ライル、よく見つけたな。このIDを見せれば大学病院の施設に保管されている血液を使うことができそうだ。」
小さいライルは意識無く横たわるおじい様の体を見つめたまま、僕の言葉に少しだけ反応した。
「お兄ちゃん、早く助けて。」
僕たちは朝8時になるのを朝霧邸の自室で仮眠して待ち、大学病院へ行ったのだった。
おじい様のIDカードを受付に見せ、事情を話すと、まるで事件の事を知っていたかのように即時に血液が用意された。クーラーボックスに入れられた血液のパックを持ち、僕たちはおじい様と父様が搬送された病院へ一旦戻ったのだ。
病院から石田刑事へと連絡が行き、石田刑事はすぐに警察官数名とともに駆けつけた。
「君たち…朝霧さん達は今どこにいるんだ…。」
警戒しながらも、平静を装って石田刑事が僕に問う。
「輸血の準備ができたらすぐに連れてきます。」
僕がそう言うと、石田刑事は病院の関係者にすぐに作業を開始するよう要請した。
あとは本人たちが戻るだけという段階になり、僕は封印の間からおじい様と父様を病院へ移動し、彼らが元々横たわっていたICUのベッドへと寝かせたのだ。
「おぉ…本当に何が起こっているのか、俺にはさっぱりわからないな」
そう言いながらも、石田刑事は静かに見守ってくれている。
保管されていた二人の自己血を輸血し、二人とも命の危険は回避されたのである。
しかし、取り出された臓器は元には戻らない。僕はそれらをどうにか回収しなければいけない。
まずは石田刑事に臓器が取り出されている現状の証拠を病院の協力のもと至急作成してもらえるよう頼んだ。立件できなければこの状態で二人を危険な状態にしている意味が全くなくなってしまうからだ。
極端なことを言えば、拉致された時点に転移して犯人を皆殺しにだってできるのである。
二人の体は詳細に検査され、MRIの画像等から病院が一通りの証拠を作成してくれた。
同時に僕は自分の能力を使い、欠損している臓器を把握した後、すっかり疲れて眠ってしまった小さいライルを朝霧邸へと連れ帰り、かえでさんに託したのだ。
さすがに5歳児を連れて大人を二人も簡単に拉致する奴らの中に入っていくのが得策とは言えないからだ。
僕はかえでさんに絶対に小さいライルを一人にしないことを約束してもらい、その場を後にした。




