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648. 夢の中で(5)

 朝霧邸の部屋に戻ると、僕、小さいライルは走ってクローゼットの扉を開け、ごちゃっと丸まったままクローゼットの床に置かれているブランケットの上に、薄暗い中でほんのりと金色に輝く羽を見つけ、大きいライルの方を見た。

「お兄ちゃん、これ、この羽を触ったら、クローゼットの外でドアが閉まる音がしたの。」

 そう言いながら、僕はその羽を手に取った。

 それは一瞬の事だった。僕は金色の光の粒子となり、その場でサラサラと崩れ落ちた。

 大きいライルがとっさに掴もうとしたが、それは空中で何も掴まず、虚しく空を切った。

「しまった…」

 大きいライルがそう言ってる声が聞こえた。何の解決方法も見いだせないまま、僕は大きいライル置き去りにしてどこかに転移したのである。そして、自分の意思では過去や未来に行き来することをコントロールできない状態のままその場から消えたのだ。


 その一瞬後、大きいライルの羽を触って、どこかに転移してしまった僕、5歳のライルは、少し冷たい物体と布のすき間にぎゅうぎゅうに入った状態で実体化した。

『うぅ…く、苦しい…』

 視界は布で遮られていて薄暗く、上半身の身動きが取れず足をバタバタしていると、急に視界が開けた。誰かが布をよけたのだ。


 そこには数人がずらっとボクを囲むように覗き込んでいた。そして、驚いた様子で声をあげたのはボクと同じくらいの男の子だった。

「あっ…」

「えっ?アンジェラちゃん?」

 僕が男の子にそう言うと、その子は僕のその言葉を聞いて、横に立っているすごく大きなおじさんを見上げて言った。

「パパ…この子ってライルだよね?」

「あぁ…そうだな。」

 少し低いけど頭に響くきれいな声で大きなおじさんがそれに答えた。

 何がなんだかわからず、男の子とおじさんの顔を見ていると、反対側にいた女の子が僕の顔を覗き込んで泣きながら言った。

「なんでちびっこが出てくるのよぉ、うぇぇぇん。」


 僕は困惑しながらも体を起こして周りを確認した。

「う、うわっ…。お兄ちゃん、どうして?」

 僕は大きいライルのパジャマの中に転移していたのだ。少し冷たい物体だと思ったのは、その大きいライルの体だった。どう見ても息をしていない。血の気のない青白い顔と、全く動かないその体を見て、僕は大変なことが起きていると気付いたのだ。


 泣いて大きいライルの体にすがりつく銀髪の女の子、そうだ、これはマリーちゃんだ。

 2年ほど前に度々来ていた場所で見た、未来の僕の家族の一人…。

 そして、さっきの男の子はアンジェラちゃんの息子のミケーレちゃんだ。

 全て思い出した。この2年間、うっすらとお城に滞在した記憶などはあったが、その記憶も徐々に薄れてしまっていた。実際会って初めて記憶が呼び起された。

 僕はもう一度大きいライルの顔を見る…。さっきまで僕を抱っこしてお城にご飯を食べに連れて行ってくれたお兄ちゃんだ。

「あ、あの…お兄ちゃんどうしちゃったの?」

 僕はとっさに質問をした。大きいおじさんがそれに答えた。

「夜中にマリーがライルの体が冷たくなっていることに気が付いたのだが、原因がわからないのだ。」

「アンジェラ…、きっとライルは死んでしまったのよ。生身の体を持たなくなってしばらく経つもの、核が姿を維持できなくなったのかもしれないわ。だって、核が、核の動きが全く見えないの。」

 薄い色の金髪の女の人が声を震わせてそういった。

 あ、この大きなおじさんがアンジェラちゃんなんだ。あいまいな記憶と、天使の羽のコレクションに書かれている名前を思い出した。

「リリィ…」

 アンジェラちゃんがそういった時、とっさに僕は口から言葉を発していた。

「あの…こんな時にごめんなさい。僕、うちの父様とおじいさまを助けてほしいの。」

 そこにいた全員が僕の顔を見た。

「どういうことだ?」

 アンジェラちゃんが、険しい顔で僕に聞いた。


 僕は、家で起きた拉致事件と大きいライルが突然現れたこと、そのライルは今、ここに横たわっているライルと同じパジャマを着ていたこと、そして、拉致された父様とおじい様が病院で死にかけて、大きいライルが『封印の間』と呼ばれる場所に連れて行ったことを話した。

「お兄ちゃんが、時間を超えられないって、元の場所に帰れないって言ってて…。」

 僕がそこまで言った時だった。マリーちゃんが僕の頬をむぎゅってして言ったんだ。

「ちびっこライル、私のライルが死んだらあんたのせいよ。あんただけ、こんなとこに来てないで早くライルを返して。」

「僕のせい?」

 頭の中が混乱して、罪悪感と後悔と、不安とネガティブな感情がどっと膨れ上がった。

「僕が誰か助けて…って思ったから、お兄ちゃんが死にそうになってるんだ…。」

 僕は横たわる大きいライルの手を取りギュっと握った。

「ごめんなさい。」

 僕が絞り出すような声でそう言った時、僕の体はまた光の粒子になって目の前が真っ白になった。


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