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647. 夢の中で(4)

 同じ状況であったため、父様とおじい様は1つの病院に同時搬送された。

 変わってしまった過去で、リリィと徠人が搬送された病院だ。

 この辺りでは一番の大きい病院なのだ。


 僕たちが病院に着くよりも先に父様達への緊急医療センターでの処置は開始されていた。

 裏口に案内され、処置室の前で待つように言われた。

 処置室の前の廊下でベンチに小さいライルと一緒に腰かけて待つこと3分、処置室の中から嫌な慌ただしさが外までもれ伝わってくる。

 医療関係者から現状を聞き出した石田刑事が、走ってこちらへ向かってきた。

「ライル君、気をしっかり持ってよく聞くんだ。君のお父さんとおじいさんなんだが、ここへ運ぶ途中で一度心臓が止まってしまったそうで、おじいさんは心拍が戻ったが、お父さんはまだ処置中だそうだ。」

「何が起こっているんです?眠らされていたのではなかったんですか?」

 僕は小さいライルの代わりに早口で聞いた。

「そ、それが…まだはっきりとはわからないが、どうも臓器を抜き取られたような空洞が腹部にあり、しかも血液の量も普通じゃ考えられないくらい少ないと、だから血圧が低下して心肺停止に…」

 僕には、それが変わってしまった過去に予知夢として見たアンジェラの姿とダブって思い起こされた。

 あの、天使を喰らうことを目的としているやつらに、やられたに違いない。

「くっ、くそっ。僕がもっと早く来れば…。」

「ら、ライガ君だったかな、それは君のせいではない。そんな風に考えてはいけない。」

「すみません、石田さん。医師に確認をお願いします。現状の説明と回復の見込みを聞きたい。いや、処置室に入れてくれないか聞いてもらえませんか。生きているうちに会わせて欲しいんです。」

「し、しかし…今の状況で入ることは…難しいのではないかと思うのだが…」

「じゃあ、決定権のある責任者をここに呼んでください。」

「あ、あぁ…わかった。」

 石田刑事は急いで受付の方へ走り、そのまま事務室の奥の方まで入っていった。

 小さいライルが心配そうに涙を目にためながら僕を見上げて言った。

「お兄ちゃん、父様とおじい様どうなっちゃうの?」

「僕が、死なせたりしないさ。」

 僕のその言葉を聞いて、小さいライルも気を引き締めるように頷いた。

 ほどなく、緊急医療センターの責任者である医師を連れて石田刑事が戻ってきた。

「家族の方ですか?現在緊急処置を行っており、中に入れるわけにはいかな…」

 責任者がそう言いながら僕の目を見上げた時、言葉が止まった。

「中に入れて下さい。生きているうちに会わせて下さい。責任は僕が取ります。」

 僕がそう言うと、責任者は無言のまま処置室のドアを開け、手招きで『どうぞ』と言わんばかりに合図をする。そう、僕は赤い目を使ったのだ。

 小さいライルと共に処置室に入った。

 父様とおじい様の二人は全裸にシーツをかけられていたが、その脇から数十もの管が体中から出ているのが見えた。

「回復の見込みは?」

 その僕の問いに、中にいた数人の医師たちは下を向いたまま目を伏せた。

 見込みはほぼないということなのだろう。


 血液を採取されていたのか、あるいは何かの実験をされていたのか…なんとも惨いことをするものだ。

 こんな感傷に浸っている暇はない。

 二人の心拍は微弱ながら再開していたが、血液量が少なく血圧が極端に低くとても危険な状態だった。どうやら輸血しようとして検査を行ったが、合う血液がなかったようだ。

 その時、僕に出来ることは一つしかなかった。

 僕は石田さんに向かい言った。

「これから見ることは現実です。でも、口外せず少し僕に時間を下さい。」

「何を言っているんだね、ライガ君、君のおじいさんと伯父さんが死にかけているんだぞ。」

「わかっています。二人を助けるためにこうするのですから…。」

 そう言って、僕は小さいライルを抱き上げると並べて置かれた二人のベッドの間に立ち、翼を広げた。

 僕の翼につられて、小さいライルも翼が飛び出る。

「な、なんということだ…」

 僕はそっと二人の頬に触れた。二人と僕と小さな僕の4人の体は金色の粒子となってその場から跡形もなく消えた。


 この時、僕は封印の間に死にかけている二人を移動させたのだ。

 僕は簡単に小さな僕に説明した。

「ここには来た事あるか?」

「お兄ちゃん、父様とおじい様をどうするの?早く病院に戻らないともっと悪くなっちゃう…。」

「ライル、ここはね、不思議な力が働いている場所で、病気が進行したりけがが悪くなったり状態が異常だったとしても悪化することのない場所なんだよ。」

「え?悪くならないの?」

「そうだ。その代わりよくもならない。」

「え?じゃあ、父様とおじい様はどうなっちゃうの?」

「ここで状態を維持しながら、方法を考える。そして時間がかかっても治すさ。」

「治せるの?」

「いいか、覚えておくんだ…。僕、そしてお前も、怪我や病気を治す能力がある。ただし、失った部位までは戻すことはできない。例えば、腕や足を切り落とされたり、臓器を取り出された場合だ。血液もそうだ。」

「さ、さっき臓器を取り出したんじゃないかって刑事さんが…。」

「喰われてなければ、取り返してくればいい。ただ、1つ問題があるんだ。」

「何?」

「今回、僕は自分の意思でここに来ていない。だからだと思うのだが、時間を超えての移動ができないんだ。それができなければ、できることが限られてしまう。ライル、僕を呼んだりしていないか?どうしてここに転移してきたのかがわかれば、解決すると思うんだ。」

 僕のその言葉に小さいライルがハッとしたような顔をした。

「お兄ちゃん…お兄ちゃんの羽…を、僕、今日、クローゼットの中で触ったかも…。」


 どうやら、小さいライルは二人がいなくなってしまったあと頼れる人がおらず、クローゼットの中でじっと静かに過ごしているうちに、以前聖ミケーレ城でクリスマスパーティーをしたときに集めたみんなの羽のコレクションブックを懐中電灯で照らしながら眺めていたそうだ。

 その時にどうしてこんなことになったのかと、悲しくて誰かに助けてほしいって思った時、僕の羽がコレクションブックから外れて落ちて、思わず触ってしまったそうだ。

 いつもなら、羽の持ち主のピンチに駆けつけ、僕自身が手助けしていたのだが、今回は逆に羽を採取した時の僕から、きっちり同じ年月過ぎた先に生きている僕を召喚したような状態だ。

 まだ、どうやったら戻れるのかさえわからないが、まずはそのコレクションブックの羽を確認する必要がありそうだ。僕は父様達の体を封印の間の中に寝かせ、小さいライルを連れて封印の間を後にした。

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