64. 僕たちの最初のストーリー
僕とアンジェラは意図せず転移していた。
どこだかわからない場所に…。
やたらと白っぽいくらい明るい庭園。青く輝く池があって…。ヨーロッパ風の豪邸。
「あ、ここ天使の住んでる家だ。」
「え?」
アンジェラは顔が強ばる。何か起きてもアンジェラには二人を守れるような能力がないと本人が一番よくわかっているからだ。
僕はアンジェラを引っ張って、草むらの陰に隠れた。
豪邸の中から二人の天使が出てきた。どの角度から見ても、アンジェラと僕、そのもの。
違うのは肌の質と衣服を纏っていないいないことぐらいか…。
二人は楽し気に池に入り水浴びを始める。
その時、黄金色に光る何かが僕にそっくりな天使に向かって放たれた。
「あっ。」
それは、以前見たのと同じ光景、でも違うのは僕が彼女の中に入っておらず、外から見ていると言うことだ。
アンジェラと同じ顔を持つ天使は、自分の愛する人が目の前で傷つけられてもただ茫然と抱きしめるばかりだった。
しかし、次の瞬間、怒りに震える彼は、変貌を遂げる。
体は、筋肉質になり、一回りも二回りも大きく変化し、頭には二本の角が生え、白く輝く翼は灰色の翼へと変わってしまった。
「ア、アンジェラ、どうしよう~。かわいそうだよ~。」
「まて、落ち着け。もう少し様子を見るんだ。」
そこへ、アンジェラに似ているけれど、少し髪型が違う天使と、ライラにそっくりな僕より少し小さい天使が現れた。
「ルシフェル、残念だがお前には地獄に落ちてもらう。その女が俺のものにならなかった報いだ。」
そう、男の天使が言うと、女の天使も続いた。
「むかつくのよ。あなたたちがいると。」
何だ、よくわかんない。でも、嫉妬とか妬みとか、そういうことで、ライルと同じ顔の天使は矢で射抜かれたらしい。
矢で射抜かれた天使は、その後金色の光の粒子になり体が消滅した後、金色の核に刺さった矢がその核を粉々にした。核の欠片が飛び散ってゆく…。
「うぉーっ。」
ルシフェルが咆哮をあげる。
自分自身の体に腕を突っ込み、自分の核を取り出し、さっき飛び散った核の欠片の飛んだ方向に投げつけた。
「あっ。」
僕は、涙が止まらなかった。アンジェラは僕のために死んで、追いかけてきてくれたんだ。
ルシフェルの体は、その場に倒れたまま微動だにしなくなった。
僕は、アンジェラと手を繋ぎイタリアの現在の家へと転移した。
涙が止まらなくて、上を向けなかった。
でもアンジェラが優しく頭を撫でてくれて、ぎゅっとしてくれた。
「二人でここで生きていこう。命に限りがあっても、私は今が一番幸せだ。」
アンジェラが指輪をはめてくれた。
「うん。」
僕たちは朝までそのまま泣き続けた。




