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637. 新たな拠点

 広いリビングの真ん中に置かれた大きなテーブルに載せられた豪華な料理に圧倒されていると、マリアンジェラが僕の腕からアディとルーを下ろすように二人の服を引っ張った。

「ライル、次はマリーの番だよ。」

「え?抱っこして欲しいの?」

 僕が半笑いで言うと、少し頬を膨らませて僕の横に立ち、僕と手を繋いだ。

 そして、キラキラで覆われると、マリアンジェラはいつもの僕と同じ年くらいの大きさに変化へんげした。

「ん?どうして大きくなったの?」

「らって、パパが子供はギラギラのナイフは使っちゃだめって言ったんらもん。」

「ギラギラのナイフ?」

 僕が聞き終わるのと同時にマリアンジェラの繋いでいない方の手がスッと上がったかと思うと、そこには確かにギラギラと刃を光らせたナイフが…。

「ちょ、ちょっと…何やってんのさ。危ないから置いて。」

「らめ。」

「どうして。」

「マリーね、ライルと一緒にこれやりたかったのよ。」

 そう言ってマリアンジェラは僕の空いている方の手でナイフとマリアンジェラの手を握らせた?

「怖いんですけど、何かの儀式?」

「ぎしき?…うん、そう、ぎしきよ、ぎしき。」

 僕は意味が解らず突っ立ってると、ぐいっとマリアンジェラに引かれ、食べ物が載ったテーブルの前に進んだ。

「では、皆さん、はくしゅ、よろしく~」

『パチパチパチ』と皆クスクス笑いながらちょっとだけ拍手をした。

「では~、このおーっきな七面鳥の丸焼きに、マリーとライルの愛のナイフ、にゅうとーですっ。」

「はぁ?」

 呆れてる間もなくナイフを持っている手が強引に引っ張られ、巨大なローストターキーの真ん中にグサッと突き刺さる。

 どうやら、動画で見た結婚式のケーキ入刀を真似したかったらしい。

『ギシキ』とやらは一瞬で終わり、アンジェラにナイフを回収された。マリアンジェラは、アンジェラが上手に切り分けたターキーの足を丸ごと一本もらい、ニコラスが用意した椅子に座ると、次の瞬間には元の大きさに戻り、満面の笑みでかぶりついている。

 他の子達もターキーに夢中だ。アンジェラとリリィはルーとアディを膝に乗せ細かく切った食べ物を流れ作業の様に食べさせている。どうやら二人はマリアンジェラと同じく底なしの胃袋を持っている様だ。


 一人、黙々と少量ずつ取り分けた食べ物をきれいに落ち着いた様子で食べていたミケーレが、ナプキンで口の周りを拭くと僕に質問をしてきた。

「ね。ライル。僕もね、ライルの行ってる大学に入りたいの。どうやったら行ける?」

 まだキンダーのミケーレだ、まだまだ先の事だが、子供だと馬鹿にはできない。

「ミケーレ、今通っている学園は飛び級ができるから、真面目にきちんと勉強して、3年生くらいになったらアンジェラに相談してごらん。僕の時みたいに学校が判断してくれて上の学年に行けたら、早く大学にも行けるよ。」

 そう僕が言うと、アンジェラが口を挟んだ。

「ミケーレ、もし学んでいる内容が幼稚で、自分はもっと先に進みたいと思った時だけ飛び級をするのだぞ。

 無理にする必要はない。」

「うん、わかった。」

「ミケーレは何になりたいの?」

 僕が何の気なしに聞いた言葉に、アンジェラが無関心なふりをして、聞き耳を立てている。

「僕ね、パパのお仕事手伝うんだ。だから、社長さん。パパは、会長になるからね。」

「おぉ、そうか。さすが私の息子だ。ミケーレ、困ったことがあったら何でも言うんだぞ。」

「うん、パパ。ありがと。」

 そんな会話など聞こえないのか、マリアンジェラはターキーの足を完食し、違う食べ物をニコラスに取り分けてもらっている。ニコラスはすっかりマリアンジェラの子守が当たり前になっているようだ。

 そんな時リリィが言った。

「あれ?ミケーレ…ミケーレは芸術家になるのかと思ってたのに、違うのね。」

「そうだよ、あんなすごいブロンズ像の大作作ってさ、絶対大物になると思う。」

 僕もリリィの意見に賛成だ。ミケーレはすました顔で静かに言った。

「大丈夫。絵とかは社長やってても描けるもん。それに…」

「それに?」

「絵ではパパにかなわないから、僕は趣味程度でいいんだ。」

 大人な発言に、アンジェラは苦笑い、リリィは驚きの表情だ。

「そんなこと言わないで、描いたらいいんじゃない。そしたらそこの壁に飾ってさぁ。」

 マリアンジェラが適当な感じでそう言って指差した先には、ものすごく大きな白い壁があった。

 なんだか、ミケーレの目が壁に釘付けになり、数秒固まり、そしてミケーレが言った。

「ここで飾るのだったら、描いてもいいかな?」

 僕は一瞬クレヨンで描いたような画用紙を想像し、戸惑ったが、アンジェラは二つ返事でこう答えた。

「ミケーレ、やり遂げるなら私は応援するぞ。」

 ミケーレはコクリと頷いた。

 まさか、ミケーレが翌日から数ヵ月をかけ大作に挑むとはこの時はまだ思いもしなかった。


 僕達は2時間ほどかけて食事を終え、その日はその家に泊まることになったのだ。

 いつもとは違う雰囲気で、夕方にはバックヤードで子供達が走り、転がり、笑いと泣き声が入り乱れた日となった。最後に皆でリビングに集まり、記念撮影をした。

 僕を中心に、家族全員が寄り添い、笑顔のいい写真が撮れた。

 僕はその写真を後日プリントし、寮の部屋の壁にも飾っていたほどだ。


 一夜明け、僕をアンジェラが寮の前まで車で送ってくれた。

 早朝ということもあり、誰にも見つからずにすんなりと寮に入り、部屋に戻ることが出来た。

 部屋のドアにはメモが一枚貼り付けてあった。

『昨日は大丈夫だった?ケヴィン』

 どうやら騒動が気になったようである。僕はいち早く身支度をすませ、寮の共有スペースであるリビングのソファでスマホをいじっていた。

 ルームメイト達が起きて来て口々に同じことを聞いた。

「アンジェラ様は一体どんな用事でここに来たんだ?」

 僕は思わず吹き出しそうになったけど、真面目にこう答えた。

「アンジェラが、ここの近くに家を買ったと急に言いだしてさ、鍵渡すからって連れて行かれて、そこに家族で昨日泊ったんだ。」

 そう言って、僕は皆で撮った写真を見せた。ルームメイト達の何とも言えないため息交じりの声がおかしかった。

「はぁぁぁっ、神様は不公平すぎるよ。」

「う、うつくしー。」

「ちょ、ちょ、ちょっと、どうして同じ顔が何個もあるんですか。」

 しまった。アンドレは昨日は変装していなかった。

「あ、あぁ~それアンジェラの弟なんだ。凄~く、似てるだろ?」

「こ、ここ、こっち、こっちも…お、同じ顔…」

「あ、あぁ、そっちは僕の姉達だよ。姉妹だからね、そりゃ似るよね。」

「こ、この小さい子たちまで同じ顔…」

 ミケーレとライアンを指差して、スティーブンが目を見開いて言った。

「もう…仕方ないだろ兄弟姉妹、うちは皆同じような顔なんだ。」

 僕は隠すようにスマホをポケットに入れ、話を逸らそうとした。

「急に外泊になってしまったけど、大丈夫だった?」

「ライル、あの後寮の担当者が来て、君の外泊届が出てるからって知らせてくれたよ。」

「ええっ、そうなの?誰が出したんだろう…。アンジェラかな…。」

「アンジェラ様ってそんなに君と親しい間柄なの?」

「え、普通親しいんじゃないの、姉の夫で同居してて…僕の本当の兄と言っても過言じゃないし。それに元々僕たちは血縁者だから。」

「え?君とアンジェラ様は血が繋がった親戚なの?」

「あ、うん何代か前のおじいさんが兄弟で…。」

「なるほど、おじいさん同士が兄弟か…。」

 あまりこの話には触れない方が良かったと、言った時に後悔したが、どうにか話題はそこからそれていった。


 その後、ルームメイト達と朝食を食べに食堂へ行き、通常の生活がまた始まったのである。

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