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629. 迷える仔ヤギ

 大学の寮の部屋に戻った僕は、さっきマリアンジェラがポイッと投げ捨てたユニコーンのぬいぐるみの入っている段ボールに最初に目を向けた。

 段ボールはそこにある、しかし、足が上に向いた状態で突っ込まれていたはずのぬいぐるみの足は見えなかった。

 僕はそーっと段ボールに近づき中を覗いた。

 中にいたそれは、僕の顔を見て『ビクッ』と体を震わせた後で、死んだふりをした。

「あはは…ミュシャ、死んだふりなんかしても面白いだけだぞ。」

 ユニコーンのぬいぐるみだった姿を、元通りの白い毛の長いヤギの様な獣に戻し、ぶるぶる震えながら僕の言葉に反応した。諦めた様子で、死んだふりをやめ、立ち上がると段ボールのふちに顎を乗せてこちらをじっと見ている。

「ミュシャ、お前…なんだかいつもより小さくないか?」

 いつもは、中型犬と大型犬の中間くらいの生まれてすぐの子ヤギの様な大きさであるが、どう見ても中型件よりも小さい。

 僕は少し嫌がるミュシャの体を持ち上げ、抱き上げて膝に乗せ、頭に手を当てた。

 ミュシャの今日の行動が記憶として流れ込む。

「なるほど…。」

 大体のところはマリアンジェラの記憶から想像した通りだ。少し違うところは、ミュシャから見たマリアンジェラだけが白い光のオーラを放ち、輝いて見えている。他の幼稚園児にはそういったものはない。

 その美しく輝くオーラを放つマリアンジェラをどうしても自分のモノにしたいという意欲がすごい。

 そして、記憶から、ミュシャは転移やすり抜けなどの能力はなく、目の前で転移する誰かに同調して、後をついていくことが出来る様だ。

 僕の車の中にマリアンジェラが転移するように眠らせて誘導したようだ。

 そして、姿を変える能力…これは相手ターゲットが意中の人物や物に変化することが出来る様だ。

 体がかなり小さくなっているのは…どうやら能力を使いすぎてエネルギーが枯渇しているみたいだな。

「ミュシャ、君がマリーを想う気持ちは本物だと思うけど。マリーは望んでいないようだよ。

 だから、悪いけどこういうことが起こらないように暗示をかけさせてもらうね。」

 ミュシャが怖がってブルブルと震えた。僕はそのミュシャの顔を自分に向け、赤い目で洗脳する。

『この世界にいる間は能力は使わない。そして、誰にも執着するな。ただの可愛いペットになるんだ。いいな。』

 ミュシャの瞳に赤い輪が一瞬浮き出た。

 僕は、部屋のドアに内側からロックをかけ、ミュシャを連れてイタリアの自宅に転移した。


 少し前にニコラスがマリアンジェラとミケーレと共に帰宅しており、ちょうど夕食をとっていた。

「げ、クソヤギ。連れて帰ってきたの?捨てて欲しかったのに。」

 僕がミュシャを抱いているのを見て、マリアンジェラが悪態をついた。

「もう大丈夫なはずだよ。ミュシャにはマリーが世界で一番美しく見えたんだ。でも、もう誰にも執着しないように命令したから…。」

「むぅ…。様子見る。」

「うん。そうして…。」

 ニコラスから怒られて泣いたこともあり、ものすごく頭に来ている様だ。

 そこにアンジェラが入って来た。ワインとコールドプレートを持っている。どうやら食事をしているニコラスと飲もうと思って持ってきたようだ。

「ライル、どうだった、入寮初日は…。」

「あ、あぁ…散々だったよ。そして、寮は完全な個室ではなかったから、戻らなきゃ…。部屋には鍵をかけてきたけど、ルームメイトが三人もいるんだ。」

「何…おかしいな。完全に個室だと手配した部下が言っていたのだが…。」

「仕方ないから、少しこのまま寮で過ごすよ。食事も食堂で食べないと不自然だし。」

「そうか…。毎日少しでも戻って顔を見せてほしいんだがな…。」

「うん。学園の寮の部屋から撤去した監視カメラを設置してみて、以前みたいに部屋に誰か来たら戻れるようにしたらいいかなとは思うんだ。」

「わかった。必要であればなんでも言いなさい。」

 なぜか、アンジェラはワインとコールドプレートをテーブルの上に置くと僕の手からミュシャを受け取った。


「ミュー、お前はどうやら悪い子のようだな。今度誰かにくっついて行って悪さをしたら、丸焼きになっても文句は言えないぞ。ん?なんだかこいつ…小さくなってないか?」

「あ…一応能力を使わないようにと誰にも執着しないように、暗示をかけたよ。

 そして…そうなんだよ。マリーについて行って、変化や色々と能力を使いすぎて枯渇したみたいでさ、小さくなったんだ。ほら、なんとか言えよ、ミュシャ…。」

 一瞬僕の方を情けない顔で見つめた後、少しのを置いて、ミュシャが口を開けた。

「ミュ~」

「ほ~ら、やっぱヤギじゃん。」

 マリアンジェラがどや顔で大きな一口を頬張る。

 それを見た僕らは大爆笑だ。それ以降、ミュシャが鳴くことはなかった。

 よほど『ヤギ』と言われるのが嫌だった様だ。ヤギって『ミュ~』って鳴いたっけか?少しハテナ?な僕だった。


 僕はミュシャをその場に残し、自室からセキュリティカメラなどの必要そうな物を持って寮の自室に転移したのだった。


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