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618. ここに来た理由

 6月11日、日曜日。夜明け前。

 僕とニコラスは、音を立てないようにそーっとアンジェラの寝室へ向かっていた。

 その部屋に近づくと、廊下に漏れ聞こえるリリィの声…。確かにこんなものを毎日夜通し聞かされてはたまったものじゃない。ニコラスも目が点になっている。

 僕はアンジェラの上に乗っているリリィの背後から近づき、首筋に手を置いた。

 リリィが前倒しにアンジェラの上に寝そべると、アンジェラが起き上がろうとした。僕はリリィの体の陰に隠れたまま近づき、アンジェラの首筋にも手を置いた。

 二人の意識…いや…4人の意識を刈り取ったのである。


 完全に夢の中に入ったところで、アンジェラとリリィの胸に手を当てると白い光の粒子が体から浮き上がり、それぞれルーとアディの体が実体化した。

 分離に成功したのである。

 僕のこの能力はどうやら彼らにも有効な様だ。朝まで起きないように念入りに夢の奥深くに留まらせ、アンジェラ達の寝室に置かれたベビーベッドにルーとアディを寝かせた。

 とんだエロ大天使である。自分達の子孫とも言うべき二人の体を乗っ取り、快楽に走るとは…。

 僕とニコラスはアンジェラとリリィを僕の寝室のベッドの中に物質転移で移動させ、二人を起こした。

「ん…あ、あれ?ここ…きゃっ、ライルとニコラス…。私達どうしてここに?」

 全裸の上にブランケットをかけた状態で目を覚ましたリリィは状況が全くわかっていない。

 アンジェラも数秒後に目を覚ました。

「あ、あぁ…体がだるい。どうして私達は全裸でこんなところにいるのだ?」

 僕はここ数日の状況を説明した。


「え…?アディとルーが私達の体に憑依して、XXしてた?ってこと???」

「そうなんですよ。ミケーレが傷ついてしまって、かわいそうにご飯もほとんど食べていません。」

 ニコラスにそう言われ、悲しい顔をする二人。しかし、どうもここ一週間の記憶は途切れ途切れであるようだ。恐るべし、ちびっこ大悪魔達。

「ライル、それで、何か策はあるのか?」

 アンジェラが僕に聞いた。

「ルー、ルシフェルは自分由来の人にしか憑依できない。アディ、アズラィールも同様らしいんだ。彼らにはない…その、下半身の形状を知って、興味本位で…まぁ、XXしたのだと思うんだけど…。これ以上被害を出さないように彼らに暗示をかけようと思うんだ。」

「どういう暗示なの?」

 リリィは恥ずかしそうに胸を隠しながらも、しっかり話は聞きたい様子だ。

「まず、憑依出来ない様に暗示をかける。ライアンとジュリアーノにかけているのと同じように、許可なく憑依させないということだ。あと、二人は精神の掌握を得意としている様なんだ。それも出来ればやめさせたい。」

「そんな事が起きていたというのに、全く覚えていない。私たちはいいように使われていたのだな…。」

 まさしく、体を酷使させられていたのだけれど…、まぁそれはさておき…僕は二人にこう説明した。

「アディとルーには、赤ちゃんになりきるように暗示をかけようと思う。」

「え?意味わかんない…どういうこと?」

「ミケーレとマリアンジェラ、ライアンとジュリアーノが赤ちゃんの時の僕の記憶を見せて、その行動から外れないように仕向けようと思うんだ。」

 ミルクを飲み、抱っこされたら眠る。オムツが濡れたら泣き、替えてもらったらご機嫌になる。そんな感じの事だと思ってもらいたいと僕は二人に説明した。

 二人が納得してくれたところで、『それも数ヵ月もすれば、ジュリアーノ達みたいに普通の食事をとりたがるだろうけどね。』と付け加えた。


 僕たちはアンジェラとリリィを彼らの部屋に戻した後、二人が見守る前でアディとルーが眠ったまま、夢の中で暗示をかけた。

 あとは、朝起きてからの反応を確認することとなった。


 朝になり、赤ちゃんの鳴き声が家中に響いた。

『ふぇぇーん』

『びぇーーーっ』

 なんだか新鮮な気分だ。

「大丈夫そうですかね。」

「そうだね。」

 ニコラスと僕のベッドの中での会話である。その後、朝の身支度を済ませ、ダイニングに行くと、ミケーレとマリアンジェラが哺乳瓶を手に持ちミルクをアディとルーに飲ませていた。

 なんとも微笑ましい光景だ。

「おはよう、アンジェラ、リリィ、マリーとミケーレ…そしてアディとルー。」

「ばぁぶ」

 哺乳瓶を咥えながら、自分の膝を叩き抗議している様子のアディ。

「ぶぶぶー」

 哺乳瓶を咥えたまま文句タラタラのルー…。どうやら彼らの中身はそのままのようだ。

 マリアンジェラはガーゼでアディの口の周りを拭いてあげながら、にっこりして一言言った。

「やっと弟が出来たって実感したわよ。」

「本当だよ。」

 ミケーレも同意見のようだ。

 子供達が食事中の間は、僕とニコラスが赤ちゃんの世話をしてあげた。

 しかし…中身はアディだ。文句がすごかった。

『ライル、ひどいじゃないか、私達、赤ちゃんのまま何も出来ないんだぞ。』

「おーよちよち、アディちゃんはおりこうちゃんでちゅねぇ。ミルクの後はオムツの交換ですよ~。」

 オムツを交換してあげると途中で開き直ったのか、こっちを見る目が怖い。

「睨んでも何も変わらないよ。自制できるようになるまで能力は使えないままだよ。

 大体…何しにこの世界にわざわざアンジェラとリリィの子供にまでなって生まれて来てるのさ。XXするために来たんじゃないだろうね?」

『そ、そんな事をするために来たのではない。ちゃんと理由はある。』

「じゃあ、いい子にしててよ。あんなこともうしないでよ。」

 僕が諭すように言うと渋々うなずいたアディだった。

 ルーは、神々の住む家にいるときは落ち着いた紳士的な感じだったが、ここではまるで違う。気に入らないとすぐに『びぇーん。』と大きい声で泣く。そしてリリィに抱っこされるとニタァと笑う。


「ところで、アディとルー…僕にはどうしても知りたい疑問があるんだけど、聞いていいかな?」

 一瞬、目を合わせないようにアディの目が泳いだ。僕はアディを捕まえ目を見て聞いた。

「ねぇ、君たち…この世界の唯一神なんだろ?こんなところに来ていたらダメなんじゃないか?」

 アディは口を開かなかった。そして、ぎゅと口を閉じたまま、うつむいた。

 どうしても言いたくない様だ。だが、ルーの方は少し違った。

 僕の側にハイハイしてくると、僕の膝に掴まり立ちをしてルーは僕に触れた箇所を通して言った。

『神々の住む場所にはバックアップを置いてきた。能力は半分になるが、一時的なことだから特に問題は無いだろう。』

「他にも神様がいるってこと?」

『いや、そうではない。現在は私たちが本体から分離して存在しているということだ。』

「え?よくわからないよ…。」

『マリアンジェラと同じことをしたのだ。この地に生まれる予定の命に与えられる核に自分の核を…』

 その時、アディが後ろから超速ハイハイをしてきてルーの口を小さな手でふさいだ。

「ばっぶぅ。」

『アディ…口で話しているわけではないから、そこを押さえても意味がないと思うぞ。』

『え?あー…ははは、ほんとだぁ…。』

「きゃははは…」

 赤ちゃんは二人で向かい合って笑い転げた。

 ルーの話はそこまでとなった。しかし、かなりのヒントはもらった気がする。

 そう、彼らには神として、僕らに言ってはいけない何かがある。

 そして、どうしても肉体を持って、この世界に降臨しなければいけなかった理由もあるのだと僕は素直に考えた。

 6月のもうむせるほどの熱を帯びた風が、外の木々を青々と繁らせるような日だった。

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