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615. アディとルー

 5月14日、日曜日。

 リリィと赤ちゃん達が退院する日だ。午前10時に迎えに来て欲しいと言われたそうで、アンジェラは朝からそわそわしている。

 ダイニングで朝食の最中に、アンジェラのあまりのそわそわぶりに苛立ったマリアンジェラの辛辣な一言を浴びることになった。

「パパ、でかい人がウロウロするとさ、ちょっとじゃまくさいから座ってなよ。」

「お、そ、そうか…。そうだな…。」

 え?何納得してソファに座ってんだよ、『でかい人』『じゃまくさい』自覚してたのか?

「アンジェラ、何をそんなにそわそわしてるのさ。」

 僕が聞くと、少し眉をひそめて捨てられた仔犬みたいな目をしてすごい小さい声で僕に耳打ちして言った。

「なぁ、ライル…あれ、あ、いや…あの赤ちゃん達は…あれだろ?あっちの方々なんだよな?」

「あ、あぁ…、この前見たまんまだと思うよ。言っちゃダメって言ってたけど。」

 僕も小声で耳打ちして返す。

 どうやら、神達が家に自分の子としてやってくると知ってしまった事で、対応に困っている様だ。

「うーむ。やはり敬語で話すべきか…。」

「いや、それは変だよ。何か意図があってこっちの世界に降臨するならさ、それはただのアンジェラの息子たちなんだから、今までミケーレやマリーに接してたように普通でいいんじゃないの?それに赤ちゃんの口じゃ普通にしゃべれないって言ってたし。」

「そ、そうなのか?」

「あ、言っちゃった。あはは。ま、そう言うことで、普段のままのアンジェラパパがいいいんじゃないの?」

「そ、そうか?」

「僕はアンジェラが世界で一番のパパだと思ってるよ。僕のパパにしたいくらいさ。」

「え?ライル…そ、そんなこと想ってくれていたのか…。」

「うん。でもさすがに散々チューした相手とは親子にはなれな…」

 言いかけたところで、アンジェラに思いっきりハグされた。ぐえっ、潰れる。

 褒められてうれしかったのか、アンジェラも僕のことを実は息子の様に思ってくれていたのかはわかんないけど…僕をぎゅーっと抱きしめて少し落ち着きを取り戻した様だ。

「お前の言う通りだ。普通にしていればよいのだな。」

「そ、そうだよ。」

 急に自信を取り戻したように凛とした姿に戻ったアンジェラに、こっちも姿勢を正してしまう。僕たちのやり取りを見て、ニコラスがうらやましそうにこっちをガン見していたのが見えた。


 リリィを迎えに行く時間になった。車に乗れる人数に制限があるので、今日は子供達と一緒にアンジェラだけを送り出した。

 リリアナとリリィが赤ちゃんを一人ずつ抱いて車に乗ってくる予定だそうだ。

 僕とニコラスが提案して、ランチを子供達と一緒に作ることにした。

 称して『おかえりなさいランチ』だ。

 ミケーレの意見から、リリィが大好きなパンケーキにいっぱいのベリーとホイップをのせて並べようということになった。そしてマリアンジェラの意見から、ベリーで文字を書くことになった。

『WELCOME BACK LILY』

 マリアンジェラとミケーレは、アンジェラの父であるアズラィールから買ってもらったという子供用のエプロンを着けて、真剣な顔で取り組んだ。

 ホットプレートを使って上手に焼いていく。二人ともずいぶんと大きくなったんだなと感じる光景だ。しかし…マリアンジェラは、『ちょっと失敗した』と言っては、口の中へ入れていわゆる『廃棄』しているつもりの『つまみ食い』が多いのは困ったものだ。

 色々とドタバタはあったものの、どうにかお昼に間に合いそうだ。

 ベリーは敷地内の森の方にに実っているブラックベリーとラズベリー、そして年が明けてから温室へと移動していた大きなプランターに植えてあるブルーベリーの果実だ。

 食べる1時間ほど前に洗って砂糖をまぶして軽く砂糖漬けのようにしてある。

 プチプチ新鮮なのもいいが、酸味を柔らかくしてパンケーキにはこっちの方が合う。


 どうにか並べ終わった時、ちょうどよいタイミングでインターホンが鳴り、ドアが開いた。

 エントランスに駆け寄る四人の子供達…赤ちゃん達との初対面である。

「うぇるかむ とぅー あわぁ はうす。」

 マリアンジェラが大きな声でそう言うと、他の子達も続いた。

「ママ、おかえりー」

「あかちゃん、はじめましてー」

「ちわー」

 アンドレがジュリアーノの『ちわー』がツボにはまって笑いを堪えるのに必死である。

「おかえり、リリィ」

「おかえりなさい」

「さぁ、中に入って、子供達からのメッセージを見てあげてください。」

 アンドレがダイニングに行くよう促すと、リリィはすでに涙目で頷きながらダイニングへ入って行った。

「わぁー…すごい。おいしそう。ミケーレ、マリーお手伝いしたの?」

「僕とマリーで作ったんだよ。二人だけで。」

「じゅりあーにょはおさらはこんだ。」

「らいあんは、フォークはこんだよ。」

「そう、えらい、偉いね~、みんなありがと。」

 ダイニングテーブルのその並べられたお皿の横にに赤ちゃんが二人置かれて写真撮影されてた。


「あ、ママ…赤ちゃんがベリー食べちゃった。」

 ちょっと目を離したすきに、アズラィールの口の周りにベリーの汁がついていた。

「ええっ、どうしよう…大丈夫かな?」

 おろおろするリリィを見かねて、僕が口を開いた。

「アズラィール、口開けて。」

 僕が言うと、真っ青な色をした口の中を開けて見せてくれる。どんだけ口にいれたんだよ…。アズラィールに触ってみると、頭に言葉が流れ込んでくる。

『ライル、そっちの白いふわふわしたのも食べさせてくれないか…』

「え?ホイップ?そりゃダメだろ…アズラィールが食べていいのはおっぱいだけだぞ。」

『えーーー、そんなの嫌だぁ…』

 そう頭の中に流れ込んできたとたん、赤ちゃんが泣き始めた。

「うぎゃー、うぎゃー、ほえっほえっ、うっぎゃー」

 マジか…そんなにホイップが食べたいのか?

『白いの食べたいー。うぇーん』

 僕はアンジェラに耳打ちして聞いた。ベリーを食べて気持ち悪くて泣いているかと思っており、病院に連れて行った方がいいかと思っているからだ。

「アンジェラ、ホイップが食べたくて泣いてるだけだから…こっそりちょびっとだけあげてくれないか?」

「ら、ライル…本当なのか…なんだかちょっと心配だが…。」

 その時今度は僕たちの後方から叫び声が聞こえた。

「や、やだー」

 リリィの声だ。今までおくるみに包まれていた赤ちゃんが、おくるみを自分で剥し、ハイハイしてホットケーキにがっついていた。ルシフェルの方だ。

「んまー」

 そして、慌てて抱き上げようとするリリィの手をバシッと払いのけた。

「きゃっ」

 リリィは恐怖の動く人形でも見るかのような怯えた顔でルシフェルを見た。

 これは結構いきなりやらかしてると思うんだけど…。


 そこで、いきなりのマリアンジェラ登場だ。

「あーーーっ。なんだ、アディとルーじゃん。どしてうちの子に生まれちゃってるの?

 ねぇ、神様やってないとまずいんじゃないの?」

「アディとルー???」

 リリィがマリアンジェラに聞いた。

「あ、そっかママは覚えてないかな…夢だと思ってるのかもね。一回行ったことあるよ。

 神々の住む場所にいた大天使の二人、アディとルー。

 で…なんでここに生まれているのよ?」

 アズラィールが僕の指を掴んだ。

『こっちに来る方法がこれしかなかったんだ』

 僕が、それを代弁する。

「こっちに来る方法がこれしかなかったんだって。」

「にゅ?で…何しにきたの?」

『…それは…まだ言えないけど…まずは、美味しいものを食べに…かな。』

「おいしいもの食べにきたらしい…」

「むぅ…マリーもそれ、わかるけど…、さすがに生まれたばっかりでそれはドン引きよ…。ま、まさかアディ…ママのおっぱいも吸った?」

 アズラィールがこっくりと頷いた。リリィがものすごく赤面している。

 アンジェラの魂の抜けたような間抜けな顔が一生忘れられないような一日となった。


 この日から、二人は『アディ』と『ルー』と家族から呼ばれることになる。

 え?なぜ『ルー』かって?マリアンジェラは、アズラィールが『神々の住む場所』でイチャイチャしている時に『ルー』とルシフェルの事を呼んでいたのを聞いたらしいのだ。

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