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614. 奇跡の出産

 日曜日に、大漁だった海の生物たちは、徠神のレストランに運ばれ、食べやすい大きさに加工された後、日本の朝霧邸、ドイツのフィリップの邸宅、そしてイタリアの我が家にもその日のうちに大量に運ばれた。運んだのはリリアナだ。

『出前番長』のリリアナとしては、鮮度のいいうちに美味しい食材を皆の所に運ぶという使命を感じているのではないかと思うほどの熱の入れようだ。

 クーラーボックスが5個も用意されている時点で普通の感覚ではない。

 昨日もマグロやダイオウイカが獲れたとメッセージを送った瞬間に戻って来て徠神の店に持って行った。営業終了時間に間に合わせるつもりだったらしく、無言でテキパキやっていたのが印象的だ。

 徠神達も美味しい海の幸の分け前をもらえるとあって、文句も言わずさばいてくれる。

 そして、今回の海の幸は、イタリアの我が家では海鮮丼となって、家族の胃袋におさまったのだ。

 マリアンジェラは酢飯を混ぜていた巨大なボールで食べたいと言い出し、止めるのが一苦労だった。出来上がった海鮮丼にラップをして、リリアナはリリィとアンジェラにも配達していた。

「リリィの調子はどうなの?」

 僕がリリアナが戻ったときに聞くと、顔色一つ変えずにリリアナは言った。

「まぁ、お腹の育ちは急に早くなった気がするけど。それ以外は普通よ。

 マリーとミケーレが生まれた時みたいに全然食事をとらないとかじゃないし。逆に食べすぎてるってお医者さんに言われてるもの。」

「うわっ…想像できないな。」

「あのお腹じゃ、産んだ後にたるんじゃって大変だと思うわ。」

「マジ?」

「マジよ。あれじゃ100年の恋も冷めるわよ。」

 げげげ…そういうのは困るな…。


 5月11日、木曜日。

 いよいよ出産予定日だ。

 何時に生まれるかわからないから、アンジェラは前日の夕方から泊まり込みで付き添っている。僕や子供たちは普段通りに学校へ行き、学校が終わったら駆けつけることになっている。

 さて、どんな出産になるのか…不安と楽しみとで胸がいっぱいだ。


 イタリアでのお昼頃、今日も普段通り、学校へ行く、アメリカでは朝だ。

 アメリカの家に転移した後、ニコラスとミケーレが手を繋ぎ、僕とマリアンジェラが手を繋いで、毎日通る同じ道を歩いて行く。

 そこで僕とニコラスのスマホにメッセージが入った。

『もう生まれそうだ。悪いが学校へ子供達を送ったらライルは一度こっちに来てくれないか?』

 アンジェラからのメッセージだ。え…僕行かなきゃダメなのか?

 正直言うと、身内が痛そうにしていたりするのは見るのを躊躇してしまう。

 きっと出血するだろうし…。あぁ…ちょっとゆううつだな。

 僕は夫じゃないし…出産のときに立ち会っていいものだろうか?

 うーむ…。悩んでいるとニコラスから一言言われた。

「ライル、きっとね。リリィがそう望んでいるんだと思うよ。」

「うーん…そうなのかなぁ…。まぁ、とりあえず行ってみるとするか…。」

 僕は子供達をキンダーへ、ニコラスを図書館へ送った後で、また徒歩でアメリカの家に戻った。

 スマホで学校のシステムに今日は家族の事情で休みを取ると入力し、家の中に入った。

 普段使っていない静かな家だが、アンティークの立派な家具や置物は揃えてある。

 僕はその中でも天使の置物が手に持っている振り子時計が気に入っていた。

 シーンと静まり返った空間に『カチ、カチ』と静かに時を刻むのだ。


 その時、急に耳鳴りのような『キーン』という音がした。

 ん?さっきまで振れていた振り子が止まり、世の中の音が消えたようになっている。

 ミケーレの能力か?時間を止めるあれだろうか?

 僕は慌ててミケーレのいる場所に転移した。

 さっき登園したばかりのミケーレは上着を脱いで学習用具を自分のロッカーから出している最中の様だ…。が…ミケーレは動いていないミケーレも固まっている。マリアンジェラも同じようにボールを頭に乗せてふざけたまま固まっている。


 僕は、彼らをそのままにしてリリィの病室へ転移した。

 いない…。もう出産するために分娩室に入ったのだろうか?

 躊躇などしていられない、きっと何かあったのだ。僕はアンジェラのいる場所に転移を試みた。

 白衣の様な物を着て、帽子をかぶり、マスクをしているアンジェラがいた。

 リリィの手を握り、汗ばむリリィを励ましているようだ。

 ちょっと失礼して、分娩台の医者の手元を覗いた。敷かれた血だらけの紙の上にちょこんと座っている赤ちゃんが一人いる。

 え?座っている?って変じゃね?と思った時、赤ちゃんが振り向いた。

「あ…う、動いた…?」

「ぶー。」

 ってことは、こいつが時間を止めたのか…。え?どうしよう…どうなっちゃうのこれ…。


 その驚きはまだ続いた。その赤ちゃんの横にキラキラが…と思ったら、もう一人がそこに出て来て座った。二人ともへその緒と胎盤を引きずって動きにくそうだが…。

 後から出てきた方の赤ちゃんが僕の目を見た。

「ばぶっ」

「いや、ばぶって言われても…」

 赤ちゃんは台から身を乗り出してこちらに手を伸ばした。

「あ、あぶない!」

 僕はとっさに落ちないように支えた。そうしたら、聞こえたのだ…。普通に心に話しかける大人の声。

『ライル…まだ赤ちゃんの口では話せないから、触ったところから伝えるね。』

「あ、アズラィール?」

『正解!』

「どうして、こんなことに?」

『それは、家に行ったら話すけど、皆には内緒にしておいてくれ。』

「あ…あ、うん。で?何がどうした?」

『あまりにも美味しい物ばかり食べるから、ちょっと私達が大きくなりすぎてだな、このままではリリィが死にそうだったのだ。だから転移で出ることにしたのだが…』

「ちょ、ちょっと待って。今時間止まってるよね。」

『そうだ。ルシフェルに時間を止めてもらってから出てきたのだ。タダな、これを見られると大変なことになってしまう。』

「そ、そうだよね。いきなり出現はマズイ。」

『だからだな…その医者たちに私達が普通に出て来た夢を見せてくれ。その直後に時間を動かす。』

「は、はぁ…それで僕を呼んだの?」

『ご明察。アンジェラはさすがルシフェルの子だけあって勘がいいね。察してくれたようだ。』

「じゃあ、夢を見せるけど、落ちないようにそっちに寄ってて、寝転がってないと…不自然だろ?僕が消えたら時間を動かして。」

 先に外に出ていた方の赤ちゃんが頷いた。

 うわぁ…そんな見たことない光景を、想像だけで夢で再現するって難しすぎる…。

 しかし、なんだかんだ言いながら、医師と看護師全部で5名の額に手を当て、夢を見せた。

「よし、多分大丈夫だ。じゃ、僕は外にいるよ。」

 二人はニッコリ笑った。

 僕は分娩室の外にあるトイレの中に転移し、手を洗ってから廊下に出た。

 慌ただしく看護師たちが行ったり来たりしている。

 数分後、分娩室のドアが開き、きれいにされた双子の赤ちゃんが看護師に抱っこされているのが見えた。

「ふぇぇぇっ」

「ふえっふえっ」

 どうやら赤ちゃんが泣いているみたいだ。きっと、演技なんだろうけど…。

 アンジェラが一人の赤ちゃんを抱いてきた。

「おぉ、ライル来てくれたか。見てくれ、綺麗な子だろう。二人とも息子だ。

 こちらは、ルシフェルだ。」

「え?こっちがルシフェル?」

 どうもさっきと反対の気がする。

「アンジェラ、よく見て…こっちがアズラィールだよ。な?」

 赤ちゃんが頷いた。

「う、う、う、うわぁ…。お、お、お、おまえは…」

「アズラィールだよね?」

 また赤ちゃんが頷いた。アンジェラ、痛恨の白目がちである。

「あぁ、バレちゃったかもね。」

 赤ちゃんが眉間にシワを寄せた。

「仕方ないよ。自分で頷いたんだもん。」

「ぶーーー。」

 アンジェラは赤ちゃんの足につけた名前のタグを書き直していた。

「こっちがアズラィール、あっちがルシフェル…」

 ずっとブツブツ言っている。ちょっと刺激が強すぎたようだ。


 医師は赤ちゃんの重さを測り驚いていた。1人約6kg。普通の倍の大きさだ。

 パッと見、普通の赤ちゃんだが、結構手足が長い。そりゃあお腹もあれだけの大きさになるってもんだよ。

 すっかり落ち着いたリリィと赤ちゃんを二人並べてアンジェラも一緒にスマホで写真を撮った。

 そしてニコラスに送った。ニコラスからすぐに返信が来た。

『まさしく、天使ですね。かわいい。』

 リリィは3日後に退院することになり、僕はアンジェラを置いて一足先に家に戻ったのだ。

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