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612. 出産準備(2)

 その日の夕方の事だ。アンジェラがメッセージを送って来た。

『ライル、すまないが今日は病院に付き添うことにした。悪いが、子供達を迎えに来てくれないか。私の言うことを聞いてくれないのだ。』

 え?どういうこと?子供達がアンジェラの言うことを聞かないなんて普段あり得ないことだ。


 僕はニコラスにそのことを伝え、一人で病院に行くことにした。

 アンジェラの芸能事務所のローマ支店、そこの会議室に転移する。少し事務所に顔を出し、スタッフに挨拶をした。一応、僕はここ所属のタレントだからね。

 そして、歩いて数分の場所にあるリリィが入院している病院へ徒歩で移動した。

 4月だというのに、かなり太陽の日差しがきつくて気温が高い。

 そうはいっても、僕には温度が高いのはわかるが、不快さや体調への影響はない。

 あっという間に病院に到着した。

 総合病院ではない個人で開業している産科の病院だが、VIP…特に著名人や富裕層を相手に完全なる個室で対応してくれる数少ない病院だ。

 個室も広く、中にはミニキッチンやトイレはもちろん、ドレッサーやソファまであり、ちょっとしたリゾートホテルの様だ。

 リリアナが入院している時にも何回も来ているし、自分がまだリリィと同じ体に入っている時に、ここで出産したのだ。ある意味『なつかしい』。


 受付で面会の用紙に記入して中に入れてもらった。

 受付のお姉さんと看護師さんは僕を見て頬を赤らめている。

 え?何?僕…何か変?思わずガラスに映る僕の姿を見るが…別にいつも通りだ。

 鼻毛でも飛び出しているのかと心配するじゃないか…。

 リリィが入院しているという部屋の前に到着しノックをすると、スライド式のドアが少しだけ開き、中からマリアンジェラが顔をぴょこと出した。マリアンジェラが小声で言った。

「あ、ライル…。今ね、やっと寝たから静かにして欲しいのよ。」

「え?リリィか?」

 僕もつられて小声になる。マリアンジェラがカクカクと首を縦に振った。

 そーっと音を立てないように中に入ると、ベッドになぜかアンジェラも横たわり、リリィに腕枕をした状態で、リリィの肩をトントンしながら、アンジェラが持ち歌を静かに耳元で歌っているではないか…。

 僕はマリアンジェラを捕まえて、小声で聞いた。

「何、あれ?」

「うーんとね。ママがぁ、泣くから、子守歌の代わりにパパが歌ってるの。」

「なんで泣くの?」

「あ、それは…。ちょっとこっち来て。」

 マリアンジェラはテーブルの上のスマホを手に取り、そーっと部屋から出て、ビジターと歓談できるようになっているお茶やドリンクを飲める場所に行った。

 手際よくカップにココアを2つ注いで、僕にも1つ渡してくれる。

「座ろ。」

「あぁ、うん。」

 用意されているカフェテーブルに着席し、ココアを一口…ん、美味しいかも。

「ここのココア美味しいよね。」

 マリアンジェラがニンマリにして言った。

「そうだね。」

 僕もニンマリしてそう答えた。

 マリアンジェラはスマホの動画をさいせいし始めた。

「これね、リリアナが撮ったやつ。パパが来る前にはこんなだったんだって。」

 そこには、なんだか奇妙な光景が…。リリィのお腹の内側が、グニャグニャと波打っている。

「うわっ、ナニコレ?まるでエイリアンだろ…。」

「家にいるときにも時々はちょっとなってたらしいんだけど…病院に入院した途端ひどくなって、痛くはないけどママがおびえちゃってひどかったって。」

「確かに、怖いな…。お医者さんは、何て?」

「うーん…エコーとかで調べてもらったけど、お医者さんがいるときは動かないんだって。

 特に問題ないですよって言われたんだって。」

「それで?」

「あ、うん。あのFBIのこと、リリアナに言ってあったから、昨日までは我慢してたけど、今日はもう無理だって言ってて、パパが来たら『抱っこ』って言って、またすっごい泣くんだよ。」

「何か変だよな…。」

「うーん。そうかも知れないけど、マリーにはどんなのが普通かわかんない。」

「この前お腹の中の赤ちゃんが透けて見えたんだけど、こっちをガン見してたんだよ。」

「えぇぇ、きっも。ま、結局…パパがお歌うたってあげたら、お腹の方は動かなくなって、ママもスヤスヤ寝ちゃったんだよね。」

「それで泊まるって言ってるのか?」

「うん。ママ、火曜日からあんまりご飯も食べてなかったんだって。さっきはものすごい食べてたけど。ちらし寿司美味しかったからかな?ふふん。マリー、遠慮してちょっとしか食べなかったもん。」

「え、えらいな…マリー。」

 マリアンジェラはこっくりと頷きながらニンマリしている。

「あ、そうそう…ミケーレがヤキモチ妬いちゃって、帰らないって言ってるからライルに来てもらうってパパが言ってた。」

「そういうことか…。」


 結局、病室に戻った僕はマリアンジェラとミケーレを連れ、ローマの事務所の会議室から自宅に転移して帰宅した。

 ミケーレとマリアンジェラ、そしてライアンとジュリアーノを翌日遊園地へ連れて行くと約束して説得したのだ。

 リリアナは病室に残っていたのだが、1時間もしないうちにリリアナだけ転移して家に戻って来た。


「あれ?リリアナ、病院はいいのか?」

「ふん。もうやってらんないわよ。子供達が居なくなった途端、ずっとチューしてるんだもの。見てるこっちが恥ずかしくなるわよ。頭にきたから帰って来ちゃった。

 アンドレー。アンドレー、どこにいるのよ…。もお!」

 多分、自分もチューしたいってことなのかな?

 アンドレを見つけたリリアナはアンドレを引っ張ってどっかに行ってしまった。

 1時間くらい経った後、ヨレッとしたアンドレが寝室から出てきたことは、僕だけの心に留めておこう。幸い、その間もダイニングの大きいテレビで、ニコラスが選んだ子供ウケするビデオを再生していたせいか、子供たちは大人しく鑑賞していたのだ。


 その後、出産する日までアンジェラは病院へ毎日通うことになる。

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