表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
611/696

611. 出産準備(1)

 4月15日、土曜日。

 昨日、とんでもない事件があった直後だが、皆の気持ちの切り替えは早いもので、もう次の興味に飛びついていた。

 それは『お見舞い』だ。

 リリィが予定より早く入院して4日目、リリィのお腹の大きさが尋常ではない事は皆わかっていたので、入院して逆に安心しきっていた。

 ところが、この『LUNA』関連のドタバタで見舞いには行けていなかったのだ。

 音を上げたのはリリィだった。アンジェラに朝早く電話をかけてきて、電話口でメソメソと泣くらしい。その理由が『アンジェラがいないとお腹の赤ちゃんが暴れる』との事だった。

 うぅむ。最近はアンジェラは家で仕事していてもずっと書斎だったし、リリィはお腹が重いと言ってベッドから動いていなかった気がするのだが…病院のベッドだと思うと寂しくなるのか、変な言い訳をしてアンジェラに毎日来て欲しいと言っている様だ。

 まぁ、あと一カ月弱あるのだから、なるべく神経をすり減らすことなく健全に過ごしてもらわないとね。

 そんなわけで、学校が休みの今日は、ミケーレとマリアンジェラもアンジェラと一緒に車に乗ってお見舞いに行くことになったのだ。

 僕とニコラスにも声がかかったが、病院であまりたくさんの家族が出入りしては、他の妊婦さんに申し訳ないので遠慮した。

 それにアンジェラ一人でも目立つのに、図体のでかい二人が加わると更に目立って仕方ないからね。とりあえず、お見舞いに持って行く、リクエストされた食べ物の『ちらし寿司』と『スィーツ』を日本の朝霧邸から運ぶのを手伝った。


「こんなにたくさん必要なのかな?」

「さあな…注文は直接リリアナがしているはずなのだが。」

「そう…じゃ大丈夫なのかな…。」

 僕とアンジェラの会話である。とても2人前とは思えない量だ。まぁ、マリアンジェラも行くのだから、それを見越しての量なのだろう。

 リリアナはいわゆる『出前番長』である。アンジェラが作ってくれたクレジットカードで、食べたいものをガンガン注文し、日本の食べ物の場合は朝霧邸に配達される。そして、かえでさんが『着いた』とメッセージを送るとリリアナが回収しに行くのだ。そしていつも丁度良い量を見極めている。

 アンジェラに食べ物を渡し、見送った後、意外な人物が家にやって来た。


『ピンポーン』と呼び鈴が鳴り、僕は咄嗟にセキュリティカメラの映像をチェックした。

 それは、うちの執事のアントニオさんだった。

 普通に入ってくればいいのに…どうしたんだろう?

 そう思いながら、エントランスを開けると、アントニオさんの後ろには大きな箱を5段くらい抱えた大柄のファッションデザイナー、あのゴンザレス姐さんがいたのだ。

「あ、アントニオさん、どうして自分で開けないの?あっ…」

 アントニオさんの両手にもバカでかい紙袋がぶら下がっていた。

「申し訳ございません、ライル様…。ことのほか荷物が多く手がふさがっておりまして…。」

「あぁ、そういうことなら気にしないで…って…ゴンザレスさん、家に来たの初めてだよね?」

「あ~ら、ライルちゃん?また大きくなったんじゃない?いつ見てもハンサムねぇ。

 そうなのよ、アンジェラ様ったら、奥様もリリアナ様も出来上がったお洋服を取りに行けるような状況じゃないから持ってこいって言うのよ…。LUNAちゃんの衣装作成で急がしって言うのに…もぉ…。」

「あ、じゃあ、とりあえず入って下さい。お茶でも入れますよ。」

「ライル様、お茶は私が…。」

「あ、じゃあアントニオさんにお茶はお願いした方が美味しくなりそうだから、お願いします。荷物、運ぶよ。」

 そう言ってアントニオさんの手にぶら下がっている紙袋を受け取り、アトリエに持って行った。ゴンザレスさんは家の中を見ながらずっとため息をついている。

 主に壁に掛けられている絵画を見てのため息だ。

 そして、サンルームに咲いているミケーレの青い薔薇を見て、また深くため息をついている。

「はぁ~、いいわぁ。なんだか夢のお城にいるみたい。」

「いや、ここは普通の家だけど…。」

「ゴンザレス様、お茶が入りましたので、ダイニングにどうぞ。」

 アントニオさんの呼びかけでダイニングに移動した。

 そこへ、散歩から戻ったアンドレとニコラス、そしてライアンとジュリアーノと鉢合わせに…。

「きゃあ♥なに、なに?あの小さかった赤ちゃんが一年でこんなに大きくなっちゃったのぉ?」

 どうやらベビー服を調達しにゴンザレスさんの所にリリアナは子供達を連れて行ったことがある様だ。

「あ、だあれ?」

「この人はゴンザレスさんていって、アンジェラがお洋服を作ってもらってる人だよ。」

 僕が説明すると、双子は手を繋いだままお辞儀をして言った。

「こんちはー。ライアンです。いつもお世話になっていまーす。」

「ちわー。じゅりあーにょれす。おせわでーす。」

「あらっ、二人とも偉いわね。ゴンザレスです。よろしくねっ♥

 そして、なんて可愛らしいのかしら…。あぁぁぁっ、二人に着せたい服のイメージが膨れ上がって来るわぁ…。」

 まるで一人漫才のようでかなり面白い。そこでアンドレが口を開いた。

「ゴンザレス、今日は何用だ。」

 アンドレ…とんでもなく偉そうである。

「あ、アンドレ様…今日はリリアナ様からご注文の子供服と、新しくお生まれになる赤ちゃんのお洋服もお持ちしました。こちらは、アンジェラ様からのご注文です。」

「そうか、ご苦労。今日はアンジェラもリリアナも出ているのだ。」

「大変ですね、奥様入院されたとか…。」

「あぁ、どうも異常にお腹のこどもが育っているらしくてな…。」

「まぁ…痛そうなお話ですのね。」

 そこで、ニコラスが冷蔵庫からスィーツを出して言った。

「よかったら、あなたも食べて行きなさい。」

「え?いいんですか?う、うれしー…って誰????ライル様…がこっちにも…?」

 そんなに似てるのかなぁ…。家では間違えられることもないから気にしてなかったけど…。

「私はライルの伯父だよ、ニコラスだ。アンドレの弟だよ。」

「…うっ…。どうしたらこんなに美形ばっかり生まれるのか教えて欲しいわっ。」

「ねぇ、もお食べていい?」

 ライアンの催促に、ニコラスが準備を進めてくれた。

 ライアンは自分でフォークを使って、ジュリアーノは半分フォークで、半分手づかみで…。

 横のニコラスがベビーシッターのごとくジュリアーノの世話をやいている。

 アンドレは少し子供の世話で疲れているのか、元々色白の顔であるが、目の下のクマが黒い。

 20分ほど経った時、アントニオさんがゴンザレスさんを迎えに来た。

「お待たせしてすみません。車、表に回しましたのでどうぞ…。」

 ゴンザレスさんは少し残念そうな顔をしながら、帰りの挨拶をした。

「お会いできて光栄です。アンドレ陛下。そして、ニコラス王子殿下。

 二人のちびっこ王子さまも…。すごいお洋服作るから楽しみにしていてくださいねっ。」

 え?ゴンザレスさんはアンドレとニコラスの素性を知っているの???


 アントニオさんとゴンザレスさんが帰って行った後で、アンドレに聞いた。

「アンドレ、ゴンザレスさんってアンドレ達の事、知ってるの?」

「ライル…『ユートレアの伝説』って絵本あったのを覚えているか?」

「あ、最初に見つかったやつだね。」

「あの絵本は、どうやら絵や内容をコピーされて、昔一般に大量に出回ったらしいのだ。」

「まじ?」

「あぁ、そして、その話には続きがあったのだ。行方不明だった双子の弟ニコラスが無事に帰って来て、私の代わりに王位に就いたというものだ。」

「へぇ…事実とは異なるお話だね。」

「まぁ、そうだな。しかし、ご親切に我々の顔が描かれていてな。そのまま本人とわかるほどの絵なのだよ。ゴンザレスは幼少の頃その絵本がお気に入りだったそうでな。最初はアンジェラの事を私だと思ったそうなんだが、私が現れて納得がいったそうだ。ニコラスに会ったのは初めてだから、またあの絵本の事を思い出したのだろう。」

 なんともメルヘンな話である。ゴンザレスさんもアントニオさん同様、アンジェラを崇拝する人の一人だ。


 その夜、家に帰って来たアンジェラが出来上がって来た赤ちゃんの服を見て鼻の下を伸ばしていたのは言うまでもない。やっぱり子煩悩…というか、アンジェラは世界一のパパじゃないかと思う僕だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ