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61. Case3 アズラィールのもう一人の息子

 四月十五日金曜日。

 先週末イタリアで過ごしたことが原因で、家の前にまた報道陣がたくさん集まっている。


 父様とアンジェラと僕で話し合いをした。

 僕はなぜかわからないけど、もう元の姿には戻れないと父様に伝えた。

 大人として生きていくから、アンジェラと一緒にいさせてもらいたいということも。

 父様には怒られたけど、僕たちは週の半分をイタリアで過ごすことにした。

 とりあえず、勉強は続けて二人とも日本で大学に入れるようにすることは約束した。

 報道陣が騒がしいので、本当の婚約発表をすることも決まった。


 僕から父様に、行方不明の残りの七名の救出を急ぐよう提案した。

 あまりゆっくりだと2年後の惨事に備える時間が無くなるからね。

 次の救出は翌日の決行と決めた。ターゲットはアズラィールの息子である徠神らいじんだ。

 拉致される経緯を調べた後に、まゆから出た後を追う。前回と同じようにやるつもりだ。

 今回はアズラィールとアンジェラが一緒に行くことになった。家族だからね。

 いつ頃いなくなったのか、地下書庫にある日誌を確認する。

 あった。緑次郎が記録を残していた。

 徠神は三十歳くらいで自宅の離れで神隠しにあったと書かれていた。

 一発で行けるかわからないけど、行ってみるしかない。

 アズラィールも呼んで母屋と離れの位置関係を教えてもらった。

 計画を練るうちに、アズラィールが救出とは関係のないお願いがあると僕に言ってきた。

 アズラィールはアンジェラが刀で切られて殺されそうになったすぐ後に日本を出た。

 その三年後、ドイツで病に倒れ僕が現代へ連れてきてしまった。

 彼の希望で現代で生きていくことを決めたのだが、妻のことやもう一人の息子徠神のことがやはり気がかりであったのだ。

「言いにくいんだけど、(りん)に会いたいんだ。会って手紙を渡したい。」

「そんなに心配なら、帰ればいいじゃないか?」

 アンジェラはそう言ったが、アズラィールには帰れない理由があった。

 アズラィールもアンジェラと同様、ドイツに渡る前まで封印の印である羽を模した首飾りをしていた。

 そのため、成長が遅く本来なら三十三歳なのだが、見た目が高校生か大学生ほどだ。

 アズラィールの父がそうしていた様に、同じ所に留まるのは限界だった。

「確かにね、現代なら美容整形とかアンチエイジングとかあるけど、さすがに百二十五年前だと周りがうるさくなりそうだよね。」

「それに、どんどん年が離れていく妻がかわいそうだ。」

 確かに、不安な要素ばかりだ。それに金髪碧眼が目立ちすぎる時代なので、家からは決して出て歩かない状態だったはずだ。

「じゃあさ、時々顔見に通ったら?年取らない病気になったって言ってさ。僕いつでも連れてってあげるよ。一回五分とかで、あまりボロが出ないように気を付けてさ。」

 とりあえず、一度手紙を書いてみて、それを渡しに行くってことになった。

 じゃあ、最初はドイツへ行った三年後頃がいいねってことになって、アズラィールを連れて行った。アンジェラは急にでかくなり過ぎた息子を見て怯えたら嫌だから…と言って行かなかった。


 翌日、現在の日時では、四月十六日土曜日。

 アズラィールは一八九五の朝霧家の離れに来ていた。

 僕と手を繋いで転移してきたのだ。徠神を寝かしつけている鈴がいる部屋の襖の外から僕が声をかける。

「すみませーん。お邪魔してもいいですかぁ?」

 鈴が慌てて近くにあった棒を手に取り警戒している。

 襖を二十㎝くらい開けて顔を出す。あっ、いた。すっごい警戒している。

「リンさん、遅くにごめんね。アズラィール、じゃなくて、徠竜(らいりゅう)を連れてきたよ。すぐ帰るけど、ちょっとお話しできるかな?」

 そーっと襖を開けて、アズラィールが見えるようにした。

「ら、徠竜様…。」

「鈴、元気にしてたか?すまない、あまり長くいられないんだ。手紙を書いてきたから読んでくれないか。徠神(らいじん)は大きくなったかい?」

「徠竜様…。」

 二人は抱き合って再会を喜んだ。

徠牙(らいが)もね、一緒に来るように言ったんだけれど、親より年取ってしまってる姿を見せるのが恥ずかしいと言って、来なかったんだよ。次来られるときは、もう一回説得してみるからね。」

「…。また行ってしまわれるのですか。」

「すまない。また来るよ。」

 僕はなかなかアズラィールから離れようとしない鈴に一歩室内に入って話しかけた。

「徠竜をまた連れてくるから、出稼ぎに行ってると思って待っててくれる?」

「て、天使様?」

「あ、そうです。こんばんは。」

 鈴は頷き、頭を下げた。

「じゃ、またね。二人とも元気だから心配しないでね。」

 アズラィールの手を取りその場を後にした。


 家では、アンジェラがニヤニヤして待っていた。

「アンジェラ、超気持ち悪い。」

 アズラィールがアンジェラをいじっている。

 年は逆転してるけど、この父と息子はとても仲がいい。

 そうだよね…アンジェラのこと助けるために、ドイツまで渡ったり、一か八かの賭けをして僕に助けを求めたり、アズラィールはいつもいいお父さんだ。


 さて、一回目の依頼は終了。

 次はいよいよ救出だ。

 徠神三十歳頃の年代で、徠神の気配を探す。

 神隠しに会う前の徠神をイメージしてアズラィールとアンジェラと手を繋ぎ転移する。

 離れの物置の横にでた。

「ちょっとここで待ってて。」

 僕は翼を広げて離れの屋根の上から、さかさまになって、襖の隙間から中をのぞく…。

 その後、二人のところに戻った。

「徠神、いた。寝てる。」

 しばらくそこで待ってると、塀の上に縄をかけ、侵入しようとしている三人組が現れた。

 刃物を持ってる。三人組は、突然襖を開けると徠神の妻と子供達がいるのに堂々と中に入り抵抗されることなく徠神を縛り上げ、担いで連れ去ってしまった。

「ねぇ、睡眠薬とか盛られてたっぽいね。」

 二人は頷いた。

 僕は一度会った人間のところであればどんな次元でも行くことが可能なので、三時間後の徠神、六時間後の徠神という少し先の時間への転移を続け追跡した。昼夜馬車の中で縛られたまま、三日後に徠神は神戸の教会へ連れてこられた。

「ここか…。」

 僕たちは少し離れたところから徠神が運び込まれるのを確認した。

 夜の教会の内部に転移する。アンジェラが物陰からスマホで動画を撮影する。

 祭壇の前に大きな魔法陣が描かれている。

 暗闇に青く浮かび上がる魔法陣のところに気絶させられた徠神が連れてこられた。

 四人の神官のような恰好をした男が魔法陣の四隅に立ち、呪文の様なものを唱え始める。

 魔法陣の中央に横たわった徠神の背中に、神官の一人が黒光りのする金属でできた杭を打ち付けた。

「うぉー。」

 気絶していた徠神からの大きなうめき声が教会内に響く、その場に落雷の様な光が落ち、目がくらんだ直後、徠神の体は跡形もなく消えていた。

 僕らはその場を後にした。


 数分後、僕は同じ場所の約二日後の深夜のその場所に転移してきた。

 もうすぐ徠神が出てくるはずだ。

 光の粒子が現れ、実体化してゆく。

 僕たちは駆け寄って、アンジェラとアズラィールが徠神を両方から抱えた。

 僕たちは三人で、現代の僕の家に転移した。


「つ、疲れた…。もうへちょへちょ~。」

 正直な感想だった。こそこそ嗅ぎまわりながらの追跡が一番疲れる。

 出発したのは午前十時、戻って来たのは午後九時。

 以前左徠や未徠にしたのと同じように体をきれいにしてパジャマを着せ、空いている部屋へ移動させる。

 これからは意識が戻るまで交代で付き添うことになる。

 今回は未徠も体調に問題がなければ付き添ってくれるそうだ。

 幸いなことに、徠神は拉致後三日でどこかに送られており、何年も眠らされてはいない。回復も早いだろう。

 それに、未徠が点滴を用意した。お医者さんだからね。未徠は石田刑事の協力もあり、無事に戸籍の復活と医師としての復活も完了している。


 どうにか、三人の長い一日が終わった。

 最初の付き添いは父様が、次は未徠がやってくれた。

 僕とアンジェラは入浴後ベッドに倒れ込んだ。




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