599. 二人の意見の食い違い
僕たちがイタリアの家に着いた時、アンジェラは僕の部屋のクローゼットの入り口から中に向って仁王立ち状態で僕を待ち構えていた。
「ライル、ちょっといいか。」
いきなり声をかけられ、ビクッとしたくらい、転移で出た直後に名前を呼ばれたのだ。
「うぉっ。ビックリさせないでよ。」
他の皆も同様にビクッとしている。
「悪い。急いでるんだ。」
僕は手に持っていたマリアンジェラの荷物をニコラスに渡し、アンジェラと共にアンジェラの書斎に移動したのだ。
「ライル、さっきの航空宇宙局の記者会見は見たか。」
「うん。ライブで中継されてた。レオーネ教授が横の方に映ってたよ。彼が働きかけてくれて航空宇宙局が動いてくれたんだね。」
「あぁ、レオーネ氏からメッセージと資料が少し前に送られてきた。これなんだが…。」
ファイルで送られてきた資料を印刷したものだ。アンジェラは僕にその資料に目を通すよう言い、読みながら聞くように僕に言った。
「ライル、覚えているか?」
「え?何を?」
「リリィがアメリカの博物館で月の石に触れた時のことだ。」
「もちろんだよ。まさか未来の月に行って、小惑星と月の衝突に巻き込まれるなんて思わな…。あ…、そうだ。あの時は、月に小惑星が激突して、リリィの核に傷がついたんんだ。」
「それもそうだが…、月が小惑星の衝突で大きな岩石を地球に飛び散らせたのだという認識なのだが、合っているか?」
「確か…そうだ。小惑星だけじゃなく、砕けた月がヨーロッパや海に落ちて…。
ものすごく高い山以外は、大量の岩石が落下したせいで海から津波が押し寄せ、壊滅的な状態になったと思われる。実際は詳細までは見ていないけどね。」
「あぁ、わかっている。大天使達に未来には故意に行かないように言われたのだったな。」
「そうなんだ。過去には行ってもいいけど、未来に行ってはいけないと言われたんだ。
リリィが行ってしまったのは、故意ではないから咎められはしなかったけど…。」
「ライル、マリアンジェラの今回見た夢といい、航空宇宙局の記者会見といい、私達が考えていた結果と違う未来になっているのではないかと、私は不安を感じているのだ。」
「そ、そうか…。朝から感じていた妙な違和感は、それだよ。」
僕も、とても不安な気持ちになっていた。それはマリアンジェラも同じだ。
マリアンジェラは、地球と共に僕が爆発し、消滅した夢を見たのだ。
アンジェラは、僕が目を通している資料の、ある部分を指差して言った。
「2022年に実施した小惑星の軌道を変える実験…覚ええいるか?」
「動画サイトで見たことはあるよ。カメラを積んだ無人ロケットを小惑星にぶつけて進行方向を少し変えるっていうあれだろ?」
「そうだ。あれと同じことをやる予定だとそのページのこの部分に書いてある。」
「ふーん、いいじゃないか。人間が自分たちの身を守る選択をするというだよね。」
「まぁ、それはそうなんだが…。」
何か不安そうなアンジェラに、僕はあまり深く考えずに言った。
「まだ起きていない、計画の段階だからね。もう少し具体的になってからじゃないと何もわからないよ。」
「そうではあるのだが…。」
アンジェラはどうしてもマリアンジェラが見た夢が気になっているらしい。
「アンジェラ、僕も君も小惑星の月への衝突を、僕たちでどうにかしようと考えているだろ?」
「まぁ、遠からず…だがな。」
「え?どういう意味?」
「どうにもならないのではないか、と思っている。なるようにしかならないというかな。」
「…そうかな。」
「いくら私達があがいても、小惑星は月に衝突し、地球は壊滅的な状態になる。」
「それじゃあ、僕たちの生活は?家族の命は?」
「ライル、それは神にしかわからないのだということではないか。」
「神…。」
僕たちは、そこで起きてもいない事に議論する無意味さを感じ、それぞれ何か策が思いついたらお互い教え合うことを約束し、解散したのだ。




