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594. ライルの災難な春休み最後の日(5)

 僕の体はニコラスに主導権を握られたまま自宅のエントランスに入った。

 いつも転移で家に入るので、ある意味新鮮だ。

 中へ進むと、ワラワラと子供達が出てきた。

「ん?おじちゃま?」

「おにーちゃま?」

「うぅ…ニコタン?」

「ライルとニコちゃんだ!」

「よくわかったね、マリー正解!」

 そう言った途端、体が金色の光の粒子に包まれ、僕の体からパジャマ姿のニコラスが横に飛び出した。

「うわっ。」

『ドゴッ』と音がして頭を壁にぶつけている。

「あ、おじちゃま。」

 ライアンがニコラスに駆け寄り、頭をぶつけてうずくまるニコラスの頭をなでなでしている。

「ライアン、触るともっと痛いからフーフーしてください。」

「ん?ふーふー?」

 キョトンとするライアンを見かねてマリアンジェラが近づき、一瞬でたんこぶを癒した。

「ニコちゃん、ひどいじゃない。今日はライルの春休み最後の日なのに、マリーに内緒で二人でおでかけしてたなんて…。」

 少し涙目でマリアンジェラが言った。

「マリー、お出かけというより、ニコラスのために行ったんだよ。」

「え?そうなの?」

「うん、僕も最初はニコラスが僕といつの間にか合体してると思わなくて…ニコラスの代わりにフィリップ達を懲らしめてやろうと思ったんだけど…。」

「こらしめる?」

「あいつら、ニコラスをいじめてたんだ。」

「うっわ、さいてー。」

「それで、マリーに仕上げを手伝って欲しいんだけど、いいかな?」

「にゅ?マリーに?」

「そう。二人で行ってこよう。」

 マリアンジェラは機嫌を直して僕に同行することにしたのだ。


 僕はリリアナに、ニコラスの息子たちにと金塊を置いてきた詳しい日付を聞き出し、500年ほど前のその日に転移した。

 少し離れたところからリリアナ達が現れるのを見守り、レイナの弟が袋に入った金塊を受け取り、そそくさと隠すところを観察した。

「マリー、いいか?あいつが金塊を横取りしないように仕向けるんだ。さて、どうしようか…」

「マリーね、いいこと思いついちゃった。」

「じゃ、マリーに頼んでいいか?」

「おまかしぇ、されちゃう。うふふ。」

 マリアンジェラは嬉しそうに言った。


 マリアンジェラは子供の姿のまま、レイナの弟、ダニエルの側に行き、話しかけた。

「おじさん、よくばりとうしょつきは、よくないんだよ。」

「だ、誰だ、お前は?ここにどうやって入った。」

「ねぇ、聞こえた?よくばりとうしょつきは、バツをうけるの。」

「何を言ってやがる。」

 ダニエルがマリアンジェラを掴もうとした時、マリアンジェラが大人の大きさになった。

「な、なんだ。おまえ、何者だ?」

「私は、ニコラスとかフィリップの関係者よ。さあ、よく聞いて。あなたがもし、フィリップやルカ、そしてその子供達に嘘をついたり、彼らの財産を奪おうとしたら…」

「何、わけのわからない事を言ってるんだよ。」

「奪った大きさの分だけ、きもちわる~い虫が体をはい回るわよ。」

 マリアンジェラの目が赤く光った。ダニエルの瞳に赤い輪が浮き出た。

「何をふざけたことを…。」

「おじさん、試してみたら?その袋から、ほんの少し金を出して、自分の物にしてみて。」

 ダニエルは鼻で笑って本当に金塊の袋の中から、手のひらにのるほどの塊を取り出した。

 ずいぶんと素直である。

「ほら、何も起きないじゃないか。このくそガキが…。」

 マリアンジェラは黙ってニヤリと笑うと、一言言い残した。

「フィリップとルカに必ずこれを渡してくれないと、あなたが困るわよ。」

 その時だ。ダニエルの手のひらの上の金塊が真っ黒く変色し、ポロポロと崩れ落ちたかと思うと、それが黒いヒルになって、腕を這い、そこらに喰いついた。

「ギャー…た、助けてくれ。だ、誰か…。」

 そこに僕が登場した。

「ダニエル。手の上の物を袋に戻せ。さもないと、袋の中の物まで全部がお前を喰らいに来るぞ…。」

「お、おまえ…ニコラスだな?どうしてこんな…。」

「私は未来を視ることが出来るのでね。先にこうなると言うことを教えておいてあげたということだ。じゃあ、袋は封を開けず、そのまま二人の成人の義の時に渡してくれたまえ。」

 君がもし約束を守るというなら、君にはこれをあげよう。

 それは、ミケーレが作ったブロンズ像を3Dプリンターで高さ30cmほどの大きさに縮小したものだった。

「な、なんでもいいから、この、む、虫を…。」

 マリアンジェラが白い光をヒルに当てるとそれは金色の石になってポロポロと落ちた。

 ダニエルがそのうち一つを持ち上げると、またそれは黒く変色しヒルへと変わる。

「うわぁ…助けてくれ。」

 僕はブロンズ像のレプリカをダニエルに渡すと、わざと背中から翼を出し、マリアンジェラと共に大空へと飛び立った。

「て、天使様…。本物なのか?ニコラスが…。あぁ…すまない。ニコラス…さま。

 二人は大切に面倒見るよ。今まで悪かった。許してくれ。」

『今まで』も何かしてたのかな?そう思いつつもその場を離れたのであった。


 多分、これで横領や二人の子達が苦労することにはならないだろう。

 そして僕はマリアンジェラに言った。

「次は二人の所へ行くよ。」

「え?さっきので終わりじゃないんだ。」

「あぁ、ひねくれる前に理解させておこうと思ってね。」


 引き続き翼を広げ、大空を舞い、少し離れたレイナとニコラス達が住んでいた小屋に到着した。

 中には母親の葬儀を終えたばかりのフィリップとルカがいた。

 二人とも18歳だ。変わってしまった過去では、ルカが未来に行くことはない。

 二人で長い人生を共に支え合って生きるのだ。

 僕たちは彼らの前に降り立った。

「やあ、フィリップとルカ。」

「と、父さん?にしては違うか…。だ、誰ですか?て、天使?」

「僕はライル。500年以上後に生まれるルカの子孫だ。」

「え?子孫。その子孫が何の用?」

 フィリップは真面目な顔で聞き返した。

「ニコラスは、ここには戻らない。」

「で、でも…。じゃあ、僕たちは?」

「ダニエルに金塊を預けて来た。それで生活をして行ってくれ。」

「そんな…父さんは僕たちを捨てるのか?」

「違うんだ。ニコラスは君たちが生まれる前に、記憶喪失でレイナと知り合ったことさえ忘れていたんだ。それを僕が無理やり思い出させてしまった。ニコラスは、子を持った責任を果たすため、君たちが大きくなるまで一緒にいたいと願い、王位継承権を破棄してここに留まったんだ。」

「王位継承権?」

「ニコラスはユートレア小国の第二王子だ。しかし、約束の時がきたため、ここから去らなければいけない。君たちが危険にさらされないように、配慮した結果だ。」

「僕たちのため?」

「そうだ。王太子のアンドレは、幾度も命を狙われている。王と王妃はニコラスを守るために彼の身分を隠して司教にしたのだ。しかし、子を持ってしまった彼は司教にも戻れない。」

 二人は訳がわからないと言いながらも、納得してくれたようだ。

 そして、僕は最後に念を押した。

「ニコラスはいつも君たちを気にかけているよ。500年後にまた会う日まで。」

「500年後…。」

「君たちは生き続け、またニコラスに再会するんだ。君たちよりもずっとずっと若いニコラスにね。でも意地悪は言わないであげてくれ。彼も被害者なんだ。」

 僕たちはそう伝え終わると、その場から光の粒子になり二人の前から姿を消した。

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