591. ライルの災難な春休み最後の日(2)
僕、ライルがダイニングに入ると、ミケーレが気付いて話しかけてきた。
「あ、もうお迎えが来てるよ。」
「え?」
ミケーレが指さしたダイニングのソファには妙に派手な柄のセーターを着たフィリップと、紺系のスーツを着たルカがいた。そして、ソファの背もたれにはニコラスのトレンチコートとカバンが置かれていた。
「おうっ…ニコラス。たった三か月見ない間にずいぶんと雰囲気が変わったな…。」
「本当に…誰かと思いましたよ…。ニコラスのくせに。ははは。」
な、なんだこいつら…僕をニコラスだと思っているのか…。
僕は、ポケットからスマホを出してニコラスに電話をかけた。
『ピロリロリ♪』着信音が、すぐ近くで聞こえる。
ん?僕のもう片方のパンツのポケットの中で別のスマホがブルブル震えながら、着信音を発していた。え?なんだこれ?
ニコラスのスマホを持つと、顔認証で画面が開いた。
そこには、書きかけのメモが開いていた。
『ライル、ごめん。私は息子たちに会いたくないんだ。代わりにあいつらを凝らしてめてくれ。』
はぁ?どういうこと?どうやら、ニコラスが、息子たちとの約束を僕に押し付けて逃げたらしい。マジか…。急いで息子たちとのメッセージのやり取りを読み、どういういきさつで息子たちに会うことになったのかを確認した。
僕がメッセージを猛スピードで読み、何もなかったようにニコラスのトレンチコートに手をかけ着た後、リュック型のバッグを背負った。
黙ってフィリップとルカを見ると、獲物を狙う猛禽類の様な目つきで僕を見ている。
いやいや…君たち…実の父にその目つきはどういうことだい?内心そう呟きながら覚悟を決めた。僕にとってニコラスは唯一無二の大切な人物だ。
そう、ニコラスは僕にとって、なんだか特別なんだ。どうして今まで気づかなかったんだろう?
今日はなんだか朝から調子が狂うことばかりだが…ニコラスに代わって、こいつらを懲らしめてやろうではないか。
僕は無言でダイニングの入口へ向かい、クルッと振り向いて言った。
「早くしなよ。時間なくなるだろ。」
僕の言葉を聞いて、フィリップとルカは明らかに口がアングリ開いたままになっていた。
ふふっ。これは結構面白そうじゃないか…。ニコラス、仇は打ってやるからな。
いじめる気満々でやって来た息子二人が少し豆鉄砲くらった鳩みたいな顔しているのが僕のモヤモヤに火をつけた。僕はニコラスみたいに優しくないからね。
この日のニコラスの予定だが…、どうやらフィリップが代表を務めるドイツの船会社で働く女性職員の結婚式が、イタリアのローマであるらしく、それに参加してもらいたいという依頼があったようだ。
ニコラスはその船会社で、一時期バイト?をしていたと聞いたことがある。その時顔見知りになった女性社員なのだろう…。
僕はルカが運転するレンタカーに乗り込み、目的地であるローマに向って出発したのだった。
道中、意地の悪い息子二人が次から次とニコラスにひどい言葉を浴びせるとは、この時はまだ知らなかったのだ。




