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589. 暴君王子ジュリアーノ汚名返上

 僕、ライルとマリアンジェラ、そしてニコラスは無事に家に帰った。

 自室のクローゼットに転移、実体化し、歩き出した僕の服の裾を引っ張るやつがいた。

「ん?」

「ぐ、ぐすん。おにーちゃま…。」

「どうした、ジュリアーノ?こんなところで…。」

「ママ…おこってるの。じゅりあーにょわるいこだから、かおみたくないって…。うぇぇん。」

 あぁ…また面倒な事が起きてるんだろうな…。仕方なく、ジュリアーノを抱き上げ、マリアンジェラを自分で歩かせてダイニングの方へ移動した。

 途中、アンジェラの書斎で今回の石田刑事の事がとりあえずうまく行ったと報告した。

「ほぉ、そうか。よかった。もう一つの世界とこういうことで情報を共有できるとは、役に立ててなによりだ。ところで、なんでジュリアーノはお前に抱っこされているのだ?」

 アンジェラの言葉を聞き、ジュリアーノは僕の胸に顔をうずめて返事をしなかった。

「ちょっとリリアナと話して来るね。」

「あぁ、そうだな。あ、リリィのこと感謝してるよ。危なく大けがするところだったそうじゃないか。」

「あ、うん。あれはミケーレが時間を止めたからだよ。あれは、本当にすごい能力だ。」

「そうか…。」

 アンジェラはそう言いながらも自分の息子を誇らしげに思っている様子だった。

 ジュリアーノが僕にしがみついたまま、アンジェラの顔を見て小さい声で言った。

「おにーちゃま、じゅりあーにょはわるいこ?」

「え?」

 どうしたもんだろう…。正直に言うと今までいい子だったという記憶は全くない。

 でも、小さい子供相手にそれは言うべきではないな…。

「ジュリアーノ…、ジュリアーノは悪い子ではないと、僕は思っているよ。でもね。人に痛いことをしたり、わがままを言ったり、困らせたり、そういうことばかりしていると本当の悪い子になっちゃうと思うんだ。」

「ほんとのわるいこ?」

「そうだよ。そうならないように、自分で頑張らなきゃいけないときもあるんだ。」

「ばんばる?」

「ふふ、そうだよ。ミケーレを見てごらん。泣いているのを見たことがあるかい?」

「ん…わかんにゃい。」

「ミケーレはいつだって誰とも喧嘩もしないし、大人のいうこともよく聞くだろ?」

「あ…。ばんばってる?」

「そうだよ。自分のためだけじゃなく他の人のために一生懸命に何かをすること、がんばってるんだ。」

 ジュリアーノの顔がパアッと明るく笑みに変わった。

「じゅりあーにょ、ばんばる。」

「そうか、できるか?」

「うん、できりゅ。」

「そうか、じゃあリリアナに話してみような。」

 ジュリアーノは少し自信なさげにコックリと頷いた。


 ダイニングにはリリアナはいなかった。リリアナ達の部屋にも姿はなく…スマホで電話をかけた。

「あ、もしもし。リリアナ?今どこにいるの?話があるんだけど…。」

「ライル?ちょうどよかった。温室に来てくれない?」

「温室?あぁ、うん。今行くよ…。」

 ジュリアーノを抱っこしたまま、マリアンジェラとニコラスはダイニングで何か食べると言うので別行動をとることにし、僕は温室に転移した。

「え?」

 温室の中は、めちゃくちゃだった。

 植えられていたトマトやパプリカなどの植物も全部倒れ、中にはちぎれているものをある。

「リリアナ…これって…。」

「はぁ…、うちの暴君王子がやったのよ。」

 ジュリアーノのことだ。ジュリアーノが僕の胸に顔をうずめた。

「ジュリアーノ…どうしてめちゃくちゃにしたのか、教えてくれる?」

「…。ヒヨコが…ピッコリーノの赤ちゃんが…。」

「ピッコリーノに赤ちゃんがいるのか?」

「うん、しょれで…にょろにょろが…」

「にょろにょろ?」

 まだ言葉が微妙でらちが明かない。僕はジュリアーノの額に手を当て、ジュリアーノの記憶を見た。

 生まれて数日のヒヨコが2羽いるようだ。ジュリアーノはリリアナとライアンが海の方の散策に行ってるすきに一人で温室に来たようだ。なぜか…ミケーレに懐いているピッコリーノをうらやましく思い、自分にもヒヨコの子分が欲しいと思ってのことだ。

 その時、ヒヨコを2羽発見した。

 超近い位置でガン見していると、変な音が聞こえて来た。

「シュッシュッ」というような音だ。その音の方を見ると威嚇する蛇が頭をもたげて、ヒヨコに近づいてくるではないか…。

 能力を制限しているジュリアーノは何もすることが出来なかった。

 いや、出来ることはやったのだ。

 すぐそばに植えてあったミニトマトの支柱を引っこ抜き、ヒヨコを守るように蛇に向って何度も何度もその棒を振り回した。蛇は、子供のジュリアーノには大きく見えたかも知れないが、実際には40cm、あるかないか…太さはせいぜい親指ほどだ。しかし、ジュリアーノには脅威に見えた。

 目を瞑って、何度も何度もトマトの支柱を振り回した。

 30回ほど振り回した時に、偶然蛇に支柱が触れ、蛇は慌てて温室の外壁の隙間からどこかへ逃げて行った。

 ジュリアーノはヒヨコの命を救ったのだ。

 僕はなんだか笑いが込み上げてきた。

「ははははっ、ジュリアーノ。えらいぞ。ヒヨコを守ったんだな。」

「ん?」

「ちゃんと頑張ったじゃないか。」

「ばんばった?」

「あぁ、偉いぞ。きっとあのヒヨコたちはジュリアーノをヒーローだと思っているはずさ。」

「ヒイロー?」

「あぁ、世の中で最高にカッコイイ男のことさ。」

「かっこいー?]

 わかってるかどうかは不明だが、ジュリアーノは首を傾げながらも少しうれしそうだ。

「え?何?マジ?ジュリアーノ、ヒヨコを守るためにこれやったの?」

「あい。」

 リリアナに言われ、素直に頷くジュリアーノを、リリアナはぎゅーっと抱きしめた。

「ごめんね、ママ知らなかったの。ジュリアーノ、がんばったね。えらいね。」

「ばんばった。わるいこじゃない?」

「うん、悪い子じゃなくていい子だった。ママ、間違ってた。ごめんね。」

「あい。ママだいしゅき。」

 どうにか親子の誤解が解けたようだ。僕は、地面に折れて倒れた植物の支柱を立て直して、折れた箇所に治癒の能力を使ってみた。

 人間の怪我よりも簡単に元通りになってゆく。さすがに取れてしまった葉や、ちぎれた部分は元には戻らない様だ。三割ほどはダメになってしまったが、残りはどうにかなりそうだ。

 そこにミケーレとアンジェラがやって来た。

「わぁ…何かあったの?」

「にょろにょろがきたから、じゅりあーにょがやっつけた。」

「ほぉ、えらいなジュリアーノ。ヒヨコを守ったんだな。」

「あい。パパあんじぇら。じゅりあーにょ、ばんばった。」

「そうか、じゃあヒヨコもきっとジュリアーノの事が大好きになっているだろう。」

 そう言って、アンジェラがヒヨコを一羽ジュリアーノに渡した。

 以前のジュリアーノであれば、きっと羽をむしって大変な事になっていただろうが、ジュリアーノはすっかり落ち着いていて、ヒヨコを撫でて言った。

「こんちは。ピージェイ。」

「ピージェイ?」

 ミケーレが聞くと、ジュリアーノがニコニコしながら言った。

「ピッコリーノのこどもだから、ピッコリーノじゅにあなの。」

「なんかかっこいいね。ジュリアーノ。」

 ジュリアーノが少し良い意味で成長したエピソードとなった。


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