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582. 石田刑事への恩返し(8)

 僕、ライルは、石田刑事の同僚である若林刑事を連れて朝霧邸に戻って来た。

 若林刑事が運転する車を、おじいさまの医院の駐車場に停めるように伝え、彼が降りてくるのを待った。

 まだ半信半疑の様子であるが、玄関へ向かう時に僕とマリアンジェラを見て若林刑事は、少し首を捻りながら僕に質問してきた。

「あの、ライル君…もしかして、君ってCMで出ているのかい?」

「あ、はい。いくつか出ています。スニーカーとか、時計とか、高級リゾート…。」

「や、やっぱり…どっかで見たことあると思ったんだよ。それに、そっちの彼女も一緒だよな?

 え?何…君たち恋人同士だったの?」

 とてもわかりやすい野次馬である。

「あ、この子は僕の姪です。」

「え?姪?そ、そうか…。いやぁ、美人さんだねぇ…。」

「アンジェラ・アサギリ・ライエンの娘ですよ。」

「えぇ?アンジェラって…まだ20代だろ?どうしてこんなに大きい子供がいるんだ?」


 玄関のドアを開け、中に入ると同時にマリアンジェラがダッシュして行ってニコラス目がけて飛び掛かった。

「たっだいまー。」

 いつものことなのか、ニコラスは全く動じず、空中で15歳から5歳児に戻ったマリアンジェラを上手にキャッチした。

「おかえり、マリー。お腹すいたんじゃないですか?お昼ご飯できてますよ。」

「やっほーい。」

 若林刑事は大きかったマリアンジェラが小さくなったのを目の当たりにし、何度も目をこすった。

「あ、あの…今、なんか変なものが見えた気がして…」

 挙動不審になっている若林刑事に話しかけたのは、石田刑事だ。

「若林君、急に来てもらって悪かったな。」

「あ…石田さん。心配していたんですよ。電話にも出ないし…。それより、さっきの見ました?」

「あぁ、お嬢ちゃんのサイズが変わったことか?」

「見ましたよね?」

「小さい方が本当の大きさらしいぞ。」

「しかも、ライル君がもう一人いました。」

「あ、あれは親戚らしい。」

 ずーっと若林刑事の頭の上には『?』が浮いたままだ。


 サロンに食事を運んでもらい、食べながら石田刑事から説明を受ける事となった。

 先に聞いていた手帳の話だ。手帳の予定表に書かれていた『K』を探していた石田刑事が、偶然カフェで話を聞くことが出来た美幸さんと同じ大学の当時女子大生から、美幸さんが度々会っていたと思われる人物=『片桐雄大』を知ることになった石田刑事だったが、自分から『片桐雄大』にコンタクトを取り、会う約束をしたのだと言う。

 しかし、待ち合わせ場所に到着し、車から降りて徒歩で指定の場所に行くと、いきなり背後から車にはねられたのだという。

 しかも、会うときの約束で、車を指定された場所に停めて、徒歩でそこまで行くように言われたのだそうだ。ものすごく真っ黒な感じがする。

 どうやら骨折や全身打撲はその時の衝撃で受けた傷の様だ。

 石田刑事は、背後から衝撃を受けた後、気を失い、僕に助け出されるまで一度も意識が戻らなかったため、犯人の顔は見ていない。

 僕は石田刑事に質問をした。

「石田さん、あなたの車は、警察署の駐車場に停まっていたそうなんですが、それについてどう思いますか?片桐はあなたがあの警察署に勤めていると知っているとは思えない行動をとっています。」

「その行動とは、なんだい?」

「あ、そうですね。まだお知らせしていなかったのですが、さっき、若林さんを訪ねて行った時に、片桐が刑事課の窓口付近で大騒ぎをしていたんです。『妻が失踪した。病院から連れ去られた。父親が連れて行ったと言っているが、そんなはずはないんだ。すぐに探してくれ。』という内容でした、よね?若林さん。」

「はい、その通りです。まさか、石田さんがそこに勤めている刑事だと知っていたら、そんなところに失踪の届を出しに来るとは思えません。」

「ちょ、ちょっと待て…『妻』と言ったのか?」

「石田さん、そうなんですよ。すぐに調べた方がいいと思います。勝手に婚姻届けを出したのかもしれません。」

「そうよ、お父さん。私、そんなもの書いた覚えないわ。」

 美幸さんも怒りモードで話しに加わった。

「み、美幸さん…記憶が戻ったんですか?」

「若林さん、そう言えばなんだか以前と雰囲気違うわね。あ、そうか刑事になって制服を着ていないせいね。」

 若林刑事の言葉に美幸さんも返事をしたが微妙にかみ合っていない。美幸の時間は事故の時から進んでいなかったのだ。

「若林君、このライル君が美幸の障害と俺の怪我も超能力で治してくれたんだよ。」

「え?超能力ですか?」

「君だって、あのこの前の誘拐事件の赤ちゃんのこと覚えてるだろ?」

「石田さん、誘拐事件の赤ちゃんってそう言えば、朝霧さんの…。」

「あれ、僕です。妹の徠紗の代わりにわざと誘拐されたんです。犯人を捕まえようと思って。」

「ねぇ、しょんなことより、みゆきしゃんがビルから落っこちたことと、石田のおじちゃんが車にどっかーんってぶつけられたことが誰のしわざかが重要なんでれひょ?」

 大きな海老天を口に半分入れたままマリアンジェラが先に話を進めるよう促した。大人は全員苦笑いだ。


 美幸さんの話では、やはりもう一つの世界と同じように、大学の女の先輩からベンチャー企業にインターンで入ることを勧められたというのだ。そして紹介されたのが片桐の経営する会社だったらしい。

 働き始めてすぐに結婚を前提の交際を申し込まれたが、『以前婚約していた女性ともめているため待って欲しい、解決するまでは親にも自分のことを伏せて欲しい』と言われ、それを守っていたとの事だった。

 三年前の美幸さんの母親の誕生日に、『今日両親にサプライズで結婚したいと報告しよう』と電話で言われ、打ち合わせをしたいからと呼び出された先が、あのカフェだったらしい。

 そこでは度々片桐と会っていたそうだ。

 その日は、近くの知り合いが経営しているビルの屋上に用事があるから、ちょっと一緒に行ってくれと言われ同行したそうだ。美幸さんはてっきりプロポーズでもされるのかと期待したそうだが…。

 片桐は一足のパンプスを取り出し、履いてみて欲しいと言ったそうだ。

 わけもわからず、靴を脱いで履こうとした時に、一瞬で自分の体が宙に舞うのを感じたという。

 スキを狙って突き飛ばされたのだ。そのビルにはわずかな高さの囲いがあるだけだったという。


 ビルの高さは12階、たまたま荷物の積み下ろしで駐車したワゴン車の上の部分でバウンドし、一命を取り留めたが、脳挫傷で半年以上意識が戻らず、やっと戻ったときには記憶はあいまいで、父親のことも片桐のことも全て忘れてしまっていたのだ。

 自殺を偽装するために、美幸さんの靴は並べて置かれていた。

 そのビルには防犯カメラがなく、屋上へのドアも施錠されていなかった。


「美幸、お前、生命保険に加入したか?」

「あ…ううん。あいつに『結婚するんだから一緒に入ろう』と言われたけど、私断ったわ。」

 それも出会ってすぐの交際を申し込んだ直後のことらしい。これは、きっと勝手に生命保険を掛けているパターンかもしれない。そのため、勝手に婚姻届けを出した可能性もある。

 これで、美幸さんに関しては片桐が犯人だとわかった。

 次は石田刑事の方だ。

「美幸さん、片桐にお父さんの仕事について話しましたか?」

「あ…あの…学校の先生だって嘘をついたの。ごめんなさい。」

 美幸さんは父親が刑事だと言うと男性が引くと思っていたらしい。

「じゃあ、やはり片桐は偶然警察署のあそこに来たんですね。という事は、石田さんの車は片桐が移動したわけではないという事になりませんか。」

「なぁ、若林…警察署の防犯カメラで駐車場に車を停めたヤツの映像を探してくれ。

 俺が署を出たのは日曜の午後8時だ。」

「わかりました。すぐに対応します。」

「あと、美幸と俺の所在は伏せてくれ。そして片桐に監視をつけろ。そして、俺の話だが…ドラム缶に入れられて、蓋をされ、土中に埋められていたんだ。」

「え?マジっすか?よくぞご無事で…。」

 若林刑事が石田刑事の手を強く握った。

「ライル君ともう一人の自分に感謝だ。」

 話の見えない若林さんと美幸さんはキョトンとしている。

「さあ、昼食を食べたら行動しますよ。」

 なぜか、ニコラスがニコニコしながら手をパンパンと叩いて皆を急がせた。

 マリアンジェラは二杯目のおかわりを丁度食べ終わり、満足げに口を拭いていた。


「ね、美幸しゃんのお母しゃんは死んだままでいいの?」

 マリアンジェラがポツリと言った。

「え?お母さん…死んだの?」

「あぁ、心労がたたってな…。もう2年半になる。」

「マリー、そう言うことは…今言わなくても…」

 心配そうに口を挟んだニコラスにマリアンジェラが真面目な顔で言った。

「病気とか事故で死んだんじゃないんでしょ?気持ちが苦しくなっただけ?」

「まぁ、そういうことだな。食事を受け付けなくなってな…。」

 美幸さんがそれを聞いて涙を浮かべた。

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