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577. 石田刑事への恩返し(3)

 僕は石田刑事が3日ほど前から所在不明だと聞き、朝霧邸の自室からすぐに彼の元へ転移を試みた。

 僕の転移の能力は、一度触れたことのある人物のいる場所を探し出し、そこへ一瞬で行くことが出来る。

 もし転移出来ないことがあるとすれば、それは目的の人物がすでに死亡している場合や、もう一つの世界など、自由に行ったり来たり出来ない場所にいる場合がある。


 僕は目を瞑り、意識を高く石田刑事の近くに転移するよう強く願った。

 僕の体は一瞬で違う場所へと転移した。

 なっ…なんだここは?どう見ても山の中の一軒家だ。

 しかも、建物は老朽化し、建物の半分はその場に停められている重機で解体作業中の様だ。

 僕がそこに転移したのは午後8時頃、周りに人影がない。

 念のため、石田刑事が誰かに拉致されていたりすれば、危害を加えられる恐れがあるため、僕は慎重にその半壊状態の建物の周りを確認した。

 おかしい。誰もいない。石田刑事もいないのだ。


 僕は、重機の車体に触れた。

 な、何?僕の頭の中に重機を運転している者の目線で見た光景が流れ込んでくる。

 この重機は家の解体で借りられたものかも知れないが、暗くなってから、建物から少し離れた地面に穴を掘り、そこに大きなドラム缶が転がされて入れられた。

 そして、その上に土がかぶせられたのだ。

 マズイ。非常にマズイ。僕は焦りながらも、その場所、地面が掘り起こされ、色が変わっている場所の前に立ち、その辺一体の土もろとも、物質転移で横の場所に置いた。『ゴトッ』と音がして、土の中のドラム缶が地面に着地した。掘り起こされた土は崩れて横に広がった。


 ここに僕が転移してきたという事は、石田刑事がまだ生きているということだ。

 急げ、急がなければ…。気持ちばかりが焦る。

 ドラム缶の蓋は簡単には開かず、結局能力を使い物質転移で蓋の部分だけを別の場所に飛ばした。

『バコン』と音がして飛んだ蓋が何かに当たった。

 スマホのライトを点け、恐る恐るドラム缶の中を照らすと、いた…石田刑事が半開きのうつろな目でこちらを見た。生きている。

「石田さん…。大丈夫ですか?どこか痛いところはないですか?」

 僕がそう言って石田刑事をドラム缶の中から引きずり出し、地面に座らせた。

 呼吸が弱い。酸欠で脳が働いていないのか…。

 僕は、石田刑事の頭に手を当て、回復を試みる。

「うぅっ…。げほっ、ごほっ。」

 石田刑事が、深く息を吸い込みむせた。それと同時に目が少しはっきりと開いた。

「石田さん、大丈夫ですか?すぐに病院に行きますか?」

「あ、あ…あんた、朝霧さんの…。」

「はい、そうです。ライルです。遅くなってすみません。まさかこんなことになっているなんて思わなくて…。」

「ど、どうして、ここがわかった?どうして、俺がここにいるって…ゲホゲホッ…。」

「まずは、うちに行きましょう。お話聞かせてもらえますか?」

 石田刑事は小さく頷いた。僕は石田刑事を抱きかかえるようにして朝霧邸のホールに転移した。


「マリー、ニコラス、手を貸してくれ。」

 僕が少し大きい声で言うと、マリアンジェラとニコラスが部屋から出て来て慌てて階段を下りて来た。

「あ…石田のおじちゃん。」

 徠紗の身代わりで僕が誘拐された時に顔を合わせたマリアンジェラが石田刑事を見てそう言った。

 ニコラスが、ホールの端っこにあった椅子を持って来て目の前に置いてくれた。

「マリー、コップにお水を汲んできてくれる?」

「うん。」

 マリアンジェラが走ってサロンへ行った。戻って来たマリアンジェラの手にはペットボトルの水があり、それを僕に手渡した。

「コップ、割れたら危ないから、こっちで飲んでって、おじいちゃんに言われた。」

「ありがと。さぁ、石田刑事さん、お水飲んで。」

 僕はペットボトルの蓋を開けて石田刑事に渡した。

 ごくごくと水を飲み、ふぅーとため息をついた石田刑事はようやく助かったことを実感したのか、涙を浮かべて言った。

「俺…死んでないみたいだなぁ。」

「何言ってるんですか…生きてますよ。体で痛いところがあったら言ってください。」

 明るいところで見ると、顔面や腕にも殴打の痕があった。

「マリー、おじいさまを連れて来て。写真を撮って診断書書いてもらうから。」

「りょーかい。」

 マリアンジェラはすごい勢いで走って二階の未徠の部屋に行った。

 そして、すぐに未徠を伴い戻って来た。


「おぉ、なんてことだ…。石田さん、ひどい怪我じゃないか…」

 未徠が往診用のカバンを床に置くと、もう一つの椅子を石田刑事の座っている場所のすぐ前に置き、石田刑事のシャツのボタンを外した。

 石田刑事の体は痣だらけだった。

 出血の箇所はさほどではないが、打撲がひどい。

「おじいさま、写真を撮って診断書を書いて欲しいんだ。その後で僕が彼を癒すよ。」

「わかった。」

 おじいさまはそう言うと、ビデオカメラを録画状態にしてニコラスに持たせた。そして自分でもデジカメを持ち、傷の一つ一つを確認した。

 骨折の疑いのある個所が4カ所あり、自宅の隣にあるおじいさまが開業している医院へ行ってX線写真を撮った。結果、あばら骨が2本、右の鎖骨、そして左足首が骨折していた。

 X線の写真も証拠となる。

 未徠が診断書を書き、ざっと診たところで僕の出番だ。

 最初に足首の骨折を癒し、次にあばら骨、鎖骨の順に癒した。

『うぅっ、あうっ…』

 石田刑事のうめき声が響いた。

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