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570. ブロンズ像とシャルロッテ(2)

 僕は、ミケーレがリリィをモデルに制作したブロンズ像に触り、どこか別の時代に来てしまっていた。

 ブロンズ像に刻まれたミケーレのサインに触った時に、予期せぬ転移が発生したのだ。

 どこだかわからない場所で、僕に話しかけてきた小さな女の子とその母親は、過去のユートレアで城を管理しているアンドレの妹の孫とひ孫だった。

 そのひ孫の方のシャルロッテが現在所有しているという赤い表紙の絵本には、表紙の絵も、文字もなく、そして中のページには数枚の絵があるだけだった。

 そう、この絵本はアンジェラや僕たちの事が描かれている、あの絵本のうちの一冊だ。

 そして、この絵本は天使が触らなければ、文字や絵を見ることが出来ないはずだ。

 しかし、シャルロッテは、僕が絵本の中を確認していた時、『絵本を返して欲しい』と言ったのだ。

 さすがにそれを無理やり奪い取るわけにもいかず、僕は絵本の中の絵をできるだけスマホで撮影し、持ち帰ろうと思ったのだ。

 ミケーレやアンジェラがやるように、僕が絵本の表紙やページを触ると、絵本に変化が現れた。

 表紙に絵と文字が現れ、中のページにも文字が浮き出て、新しいページにも絵や文字が出てきた。

 やはり、あの絵本と同じ種類なのだろう。そして、気になるのは内容だ。

 この絵本に描かれているのは、どうやら僕らしい。題名は『悲しみの天使』。


 期待を顔一面に表して絵本を持つシャルロッテに、ページをめくるように促した。

「さあ、次のページを開いてごらん。」

 シャルロッテは次のページを開き、僕に向けて絵本を持ち上げた。

 泣いている男の子、たぶん僕の顔だ。そのページを触ると、文字が浮き出た。

『ひとりぼっちの天使の子は いつも泣いてばかりでした。』

 また、次のページを開いてもらう。

 男の子が鏡に写った女の子に話しかける絵だ。触ると文字が浮き出た。

『ある日、その天使の子には 鏡の中の女の子の天使と話ができるようになりました』

 次の翼が飛び出した絵のページでは、こんな文字が浮き出した。

『大きな天使が落とした羽に触ると、その天使の子に翼が飛び出しました』

 次は、寝ている男の子に手を当てている絵のページだ。

『天使の子は、死にそうな男の子の命をすくいました』

 次のページは真っ白だったが、絵が現れた。アンジェラのチョーカーに触って、体が光の粒子になる絵だった。

『天使の子は大切な人の所に助けに行く力を持っています。』

 その次のページでは、大きな天使アンジェラの首に着けられているチョーカーを握った子供の天使の背中に矢が当たり、大きな天使が助かる絵だった。

『天使の子は必ず他の天使を助けに行くのです』

 これ、ちょっと弾丸と矢という違いはあるけど…まるで僕が体験した事を描いている様だ。

 次のページをめくると、少し成長した僕と思われる天使が出てきた。

 ここにあるブロンズ像に手を触れている。

『天使の子はユートレアの王を救うためにこの場に現れた』

「え?これって…今ここでの話かな?」

「すごい。すごいわ、母上…絵本の中身がどんどん増えていくのよ…。この天使の像も出てきたのよー。」

 シャルロッテは嬉しそうにはしゃいでいる。

 僕はページが増えるたびにスマホで写真を撮った。シャルロッテはそれにも興味津々の様子だ。


 僕は更に次のページをめくるようシャルロッテに促した。

 真っ白なページが青い光の粒子で覆われ絵が浮き出てくる。

 血を流した大人二人と小さな子供二人が折り重なるように倒れている絵だった。

「マジか…。」

「ん?ま・じ・か?って何?」

 僕が呟くと、シャルロッテが聞いてきた。

「あ、ううん。何でもないよ。」

 文字が少し遅れて浮き出て来た。

『刺客に襲われた王たちは命からがら秘密の部屋に逃げ込んでいたのだ』

 いつのことなんだろう…。少なくとも僕たちが暮らしている現代でそんなことは聞いていない。

 現代のこれから先、アンドレとリリアナが双子を連れて過去に戻り、そこで不測の事態に陥るのか、あるいは、現代にいるときに何かが起きて僕やリリィが助けに行けない状況になるのか…。

 でも、そうだな…『刺客』ってことは、ユートレア関連の過去に起きた事に違いない…。


 僕は更にページを先に進めるようシャルロッテに促した。

 シャルロッテがページをめくると、少年天使が現れ、皆を癒し、連れ帰る絵が描かれていた。

 少年天使の顔は悲しみに暮れ、涙を流している。

 そして、少し遅れて文字が現れた。

『悲しみの天使は皆の悲しみを背負い、そして、皆に幸福をもたらす』

「え、やだな…背負いたくはないよ…。」

「ん?天使様、悲しいの?」

「いや、そんなことないよ。皆が幸せになるんだったら悲しくないよね?」

「うん。」

 なんだかよくわからないが、シャルロッテが相槌を打ってくれたので、先に進む。

 まるで表紙の絵の後ろから見たような正面から僕の全身を描いている絵だ。

 白い布を纏い、翼を広げ、大空を飛ぶ様子だ。そして遅れて文字が現れた。どうやらこれが最後のページの様だ。もうこの後に白い紙はなかった。

『悲しみをたくさん受け入れ、たくさんの人を救った悲しみの天使は その後神になるのである。』

「げ、またこれか…しつこいな。」

「かみ?神様になるの?」

「いや、ならないよ。僕には守りたい家族がいるからね。」

「ふぅん。ねぇ、天使様には翼はないの?」

 僕は全部のページをスマホで写真に撮り、スマホをポケットにしまった。


「じゃあ、特別に君には見せてあげるよ。シャルロッテ。そして、コルネリア、子孫に伝えて欲しいんだ。

 もし、アンドレが戻らずにいたら、いつか、アンドレにそっくりなオペラの俳優に出会うだろう。その時、この城をその人物に託しなさいと。

 それは、この先100年以上経ってからかもしれないが、決して他の者の手に渡したりしないで欲しい。」

 コルネリアは頷き、僕は、そう言った後、翼を出し、大きく広げた。

 そして上空に飛んだ。

 コルネリアとシャルロッテは口をあんぐりと開けたまま呆然と僕を見つめている。

 上から見る景色はいつものユートレアと同じだった。あの、天使の像は普段は踏み入ることのない、裏手のひっそりとした裏門の手前の所にあった。そういえば、以前一度だけ行ったことがあった。

 その時にあの像を見ていたから見覚えがあったのだ。

 僕は飛びながら転移した。とりあえず、王の間に移動したのだ.


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