57. アンジェラが覚醒した日
ドンドン。部屋のドアがノックされた。
「あれ?」
僕は机に向かって勉強していた。
い、生きてる。ということは、これから起きることを見たのかな。
僕はすぐにアンジェラのいる部屋に転移した。
「アンジェラ、おじい様が変になってる。どうしたらいいかわかんない。」
「二人で徠夢のところに行こう。」
僕はアンジェラを連れて父様のところに転移した。
「うわっ。」
サロンでコーヒーを飲んでいた父様は、急に現れた僕たちに驚いた。
父様にさっき見た未来予知の事を話した。
「どうしてそんな事が起きるんだい?」
「それはわかんないけど、眼球全部が黒くなってた。とりあえず部屋に三人で戻って、部屋におじい様が入ってきてその状態だったら止めて欲しいんだ。逃げてもいいけど、それだと解決しないと思って…。」
父様がわかったと言ってくれたので、三人で部屋に転移する。
ドアの横に二人が隠れ、僕が「はい。」と言ってドアを開ける。
さっきと同じように声をかける。
「どうかしましたか?」
未徠はさっきと同じように何も言わずに僕の首に手をかけた。
「ぐっ。」
アンジェラと父様が横から未徠を取り押さえ、僕から引き離す。
二人は未徠の眼球が真っ黒になっているのを確認した。
「おい、おまえ、なにやってるんだ。」
アンジェラが未徠を殴った。未徠は気絶した。
僕が未徠の額を触ると情報が流れ込んできた。
「ライラが命令したみたい。僕、こわい。」
「徠夢、おまえどうにかしろよ。」
「そんな無茶ぶりされても、父さんをとりあえず縛り上げることぐらいしか…。」
「そうだな。」
二人は未徠を未徠が使っている部屋に連れて行き、ベッドに寝かせた状態で包帯を使い両腕と両足を縛った。
父様は僕の首に痣が出来ているのを治してくれた。
今言った方がいいかなと思って、二〇二四年に起きることを話しておくことにした。
「この前、部屋を移るときに机の中の髪の毛の束に触れたら、二〇二五年に飛んだんだ。
父様が徠人が寝ている病室にいて、本人が治る気ないから治せないって言ってた。
その時に父様が言ったんだ、二〇二四年に徠人が僕と、父様以外の他の人も刺し殺したって…。」
「ライル、どうしてそんな重要なこと黙っていたんだい?」
「まずは、繭に入ってた人たちを全部助けてからでも間に合うって思ったんだ。そういえば、ライラが消えて徠人が狂ったって父様は言ってた。」
「難しい問題だ。ライラが消えた理由もわからないんじゃ、対処の方法が見つからない。」
その時、未徠が目を覚ました。
「父さん、何をしたか覚えているかい?」
「…。」
「ライルの首を絞めて殺そうとしたんだぞ。」
「えっ?そ、そんなこと、私がどうして…。」
「それを知りたいのはこっちだ。」
アンジェラはかなり怒っている。僕は質問を変えた。
「今日、ライラと何か話しましたか?」
「あぁ、あの、サロンですごいたくさんのおやつを食べる子と話をしたよ。ライルとはどういう関係なのか?って聞いたと思う。何も答えなかったし、その後のことは覚えていない。」
父様がセキュリティカメラの映像を確認する。
「あった。これだな。」
映像では、僕との関係を聞いた未徠に、ライラが黒い何かを腹部にぶつける様子が映っていた。
「これは厄介だな。なんだかわかんない技だ。」
僕は、その球に既視感があった。あ、あれだ。ライラの記憶にあった。
皆を癒した後で、僕の腹部から取り出した球だ。
握りつぶさないと、育ってしまう。
「痛かったら、ごめんなさい。」
僕はそう叫んだあと、僕は未徠の腹部に腕を突っ込んだ。
「あっ。」
父様とアンジェラは驚いて固まっている。
未徠はまた意識を失ってしまった。ですよね~。グロいですよね~。でも他に方法が見つからない。
腹の中を探ると指にこつんと何かが当たった。これかな?
掴んでがバッと持ち上げる。
「あった。」
黒くて周りに蒼い炎が揺らめく球、まだ小さい直径2センチというところか。
僕はそれを床に投げつけた。カシャンと言う軽い音がして、黒い靄が霧散した。
未徠の服と僕の手が血だらけになってしまった。
「父様ごめんなさい、汚しちゃった。でも多分これで大丈夫。」
腹部には傷が一切残っていない。衣類にも穴などは出来ていない。
アンジェラはかえでさんを呼んで汚れたものを片付けてもらった。
父様がアズラィールにもこのことを連絡し、ライラに話しかけないように気を付けることを促していた。
未徠は一時間ほどで目を覚ました、特に何も問題はない様だ。
ただ、僕はものすごい疲れを感じて部屋に戻ったあと、意識を失った。
夜中に目が覚めた。
僕は昼間の服を着たまま自分のベッドに寝ていた。
パジャマに着替えてから、歯を磨いて、もう一度ベッドに入ったが、眠れずに日記を開いた。少し日記を書き足して、過去のアンジェラに会ったことも書いた。
寂しそうな瞳を思い出した。
なかなか寝付けない…。
アンジェラのベッドにもぐりこんで寝ることにした。
アンジェラは夢を見ているようで、全然気づかない。そっと額にキスをした。
その時、アンジェラは夢を見ていた。昔、もう最近は夢にも見ることが無くなっていたほど遠い昔の夢だ。私は戦争に来ていた。最前線で銃を持ち、相手の兵隊と撃ち合うような場所だった。
すぐ自分の横にいた仲間の兵士が標的にされた。
私は思わず飛び出してその兵士を横に倒した。
仲間の兵士はかすり傷で済んだが、自分は何発か肩や胸に銃撃を受け仰向けに倒れた。
その時、私の額にキスをする天使が突如現れた。
「天使様。お迎えに来てくれた…。」
私は自分の命がそこで尽きるのだと思った。ところが、最後の一発がその天使に当たり、天使はその場でアンジェラの上に落ちた。
「当たっちゃった。」
天使はてへへ、と頭を掻きながらそう言ったかと思うと、私の体に食い込んでいる弾を何発も手品の様に取り出し、手を当てて傷を癒していく…。そして、最後にまたキスをしてくれた。
「痛かったね。アンジェラ、やさしいね。大好きだよ。」
そう言って天使は光の粒子になり、去っていった。
その時、僕の背中に翼が生えた。
アンジェラは目を覚ました。
部屋にライルが見当たらない。シャワールームに電気がついている。
アンジェラはとても心配になってドアを開けた。
裸でシャワーを出しながら、血だらけになったパジャマを洗っているライルがいた。
「どうした、ライル…。」
「パジャマに穴が開いちゃった。」
ライルの体にも血がついていた。
「おまえ…。」
アンジェラはシャワーの中で濡れたままのライルを抱きしめた。
「どうして…。」
「ベッドで寝てたアンジェラにチューしたら飛んじゃって…。」
アンジェラは泣きながら僕についてる血を洗ってくれた。
体をタオルで拭いて、髪を乾かしてくれて、アンジェラのパジャマを借りてベッドに入った。
明日、新しいかわいいパジャマを買ってくれるって約束した。
「おやすみ、アンジェラ。」
「あぁ、おやすみ。」
アンジェラはベッドの横の椅子に座り、やさしく頭を撫でてくれた。




