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568. 石田刑事の願いごと(6)

 僕、ライルは、現在瑠璃リリィが存在する世界の石田刑事の娘、美幸さんの姿に変化へんげした状態で病室のベッドで静かに待っていた。

 その時、『ガチャ』と音がして、病室のドアが開いた。

 消灯している病室内に、小型の懐中電灯で照らしているのだろうか、狭い範囲を照らす光が見えた。

 僕は薄目でそれを確認すると、寝たふりを続行した。その人物は僕が横たわるベッドの脇にかかんだような気配があった。

『カチャカチャ』と小さな音がして、多分盗聴器の所在を確認しているのだろう。

 きっと盗聴器がないことに犯人が気づけば、どんな行動に出るかはわからない。そう思い、全く同じような物を手配してもらい、元々ついていた様に取り付けてある。もちろん、動作はしていない。

『カチャカチャ』という音が止まった。無事に回収したと思っているのだろう。さて、これからが本番だ。

 僕は、わざと大きく、むせたように『ゲホゲホ』と咳をし、目を開けた。

 当然、盗聴器を回収したつもりの男と目が合う。

「美幸、おまえ、本当に生き返ったのか?」

「う…。」

 僕は、喉を押さえて声が出ない演技をした。

「二度もお前を殺さなきゃいけないなんて、残念だよ。」

 男はそう言って僕に馬乗りになり、僕の首を両手で思い切り絞めた。

「う…うぅ。」

 僕はぐったりしたふりをした。

「手間取らせやがって。バカな女が…。」

 男がそう言って立ち去ろうとした瞬間、病室の照明が一気に点き、警棒を構えた武装警官がすっくと立ちあがった。

「殺人未遂の現行犯で、逮捕する。」

「な、なんだ…。」

 男は慌ててベッドから下りると、入り口に向って走った。しかし、そこには石田刑事をはじめ、待機していた6名が待ち構えていた。

 抵抗する気も失せたのか、黙ったまま拘束される男の帽子とマスクを剥す石田刑事が普段出さないような大きな声で言った。

「片桐、お前ってやつは…。」

 男は、普段見せていた顔とは違い、柄の悪い態度で『ハハハ』と笑うと、ニヤリと笑って言った。

「残念だったな。もう死んだぜ。」

 警察官が呼んだ医師と看護師が病室内に入って来た。

 美幸さんの姿をしている僕の診察を始めたのだ。本当の人間であれば首の骨が折れていたほどの圧迫をされた。うまい具合に指の痕がくっきりとついているはずだ。

 死んだふりをしている僕の心肺蘇生を開始した医師たちをその場に置いて、石田刑事の部下たちは犯人を連行して行った。

 石田刑事が僕が心肺停止状態になっていると思い、僕に駆け寄った。

「ライル君、どうしてこんな…。君が大丈夫だと言うから…。」

 僕は、パチッと目を開け、右手を上げた。

 医師が慌てて、手を離した。

「すみません。首の骨が折れるくらい圧迫されたので、その診断をして下さい。」

「ひやっ…はっ、はい。」

 医師が幽霊を見るかのように驚きながらも、首のあたりをそっと触り、頷いている。

「この通りに診断書、書いてくださいね。で、もう治していいですか?」

「はい?」

 ポカンとする医師を置き去りにして、僕は自分の手で、自分の首を治癒した。本当は転移してしまえば、完全に元通りになるのだが、ここでそれをやるのは気が引けたのだ。

「石田刑事さん、いいビデオ撮れましたか?」

「ラ、ライル君。大丈夫なのか?」

 僕はニッコリ微笑んで、頷いた。

「僕に任せてって言ったでしょ?」

 石田刑事は少しホッとした表情をして言った。

「なんだか色々とやってもらってばかりで申し訳ない。」

「そんなことないよ。僕、着替えて元に戻るね。その後、一度美幸さんに会いたいんだけどいいかな?」

「あぁ、もちろんだとも。」


 僕は、トイレで元の姿に戻り、着替えて出てきた。その足で美幸さんの病室へ行く。

 美幸さんは眠っていたが、僕はそっと首のガーゼの上から手を当てた。

 僕の手から白い光が溢れ、美幸さんの首の傷を癒した。

「あ…、え?」

 首の辺りが暖かいことに気づき、ふと美幸さんが目を覚ましたのだ。自分の首に僕の手が添えられているのを驚き、とっさに僕の手を掴んだ。

『ブワッ』と僕から、さっき男に襲われた時の記憶が美幸さんに渡った。

「ああぁ…。おと…さん」

「美幸、声が出るのか?」

 美幸さんは大きく頷いた。

「多分、傷も無くなってますよ。あと、首を絞められた時の状況は美幸さん本人が証言できるように記憶を渡しました。」

「おとう、さん…わたし…。」

「美幸、お前は何も心配するな。もう、片桐は捕まえて連行した。あとはお前が証言すれば、あいつを罰することが出来る。」

 石田刑事と美幸さんは涙を流しながら、手を取りあった。

 そこに母親がいなかったことから、美幸さんは母親が片桐の手にかかり亡くなったのだと悟った。


 最後に僕は石田刑事に一言伝えた。

「石田さん、あとでメッセージ送ります。片桐は他にも余罪があるようです。」

 僕は、さっき首を絞められていた間、僕も片桐の腕を掴み、どんどんと遡って、記憶を抜き取っていたのだ。

 殺人だけではない、卑劣な事件にもいくつも関与していることがわかった。

 石田刑事は少し驚いた様子だったが、黙って頷いた。

「じゃ、僕帰ります。ここにはカメラないですよね?」

「あぁ、ここにはつけていないが…。」

「よかった。じゃ、お元気で。さようなら。」

 僕は、そう言ってその場から金色の光の粒子になって消えた。


「な、なんだ?ライル君、どこに行った?美幸、見たか?今の、見たか?」

「うん、おとうさん。見えたよ。あの方は誰なの?まるで天使みたい。」

「あぁ、あぁ、そうなんだ…。そうだったんだよ。彼は天使だ。俺のためにわざわざお前を助けに来てくれたんだ。」

 石田刑事は、娘を失いたくないという願いを僕に叶えさせたんだ。過去に戻って何かしたわけではないから、誰の運命も変わらないだろう。

 その日の夜遅く、石田刑事のスマホに僕から片桐が関与した犯罪のリストが届いた。

 僕は、遅い時間ではあったが、ニコラスとマリアンジェラを連れてまずはブラザーアンジェラの家の倉庫に転移し、そこからあのもう一つの世界への入り口となっている絵画を手に取り、無事に家に戻ったのだった。


 少し、ぐらっとして、転びそうにならないように翼を出し、着地した。

「ねぇ、マリー、ニコラスはどうして寝袋に入れられた状態じゃなきゃいけなかったんだ?」

「ライル…ただの罰ゲームだよ。ニコちゃんが怖い怖いってうるさいから、口封じしてるだけ。」

「マリー、『口封じ』ってちょっと違う意味だけどね…。まぁいいか…。ニコラス、出てこい。」

「ふぇぇ~、中からは開けられません。」

 どうやら顔の部分の紐をマリアンジェラがぎゅうぎゅうに絞って意地悪をしていたようだ。

「マリー、意地悪だなぁ…。」

「しょんなことないもん。ニコちゃんばっかりライルにべたべたくっついてて、むかついただけだもん。」

 どうやら僕のことが大好きな二人のバトルはしばらく続きそうだ。

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