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566.もう一つの世界で過ごす週末(4)

 偶然起きてしまった事故のため、僕、ライルはもう一つの世界、瑠璃リリィの世界のブラザーアンジェラのライブに出演することになった。

 僕たちの世界のアンジェラが、すでにあちらの世界で何年も前にリリースし大ヒットした曲を、ブラザーアンジェラにいつの間にか楽曲提供していたそうで、それの初披露がこのライブの予定だったようだ。

 小学3年の時に初めて聞いたアンジェラのあの曲を、ピアノアレンジで自分が弾くとは思ってもいなかった。

 そして、ここでのライブは撮影され、今後ネットで配信される予定なんだとか…。


 最初に僕の知らないブラザーアンジェラのオリジナル曲が3曲演奏された。

 それはバックバンドのメンバーが演奏したので、僕は舞台の袖の陰で待機していた。

 途中、ブラザーアンジェラが営業トーク、と言っても本当に営業の話だったが、自分の経営するライエンホールディングス…これは僕の世界でもアンジェラが経営しているのだが、そこに関わる重要顧客を呼んでの新曲お披露目ライブだという事を説明するような内容だった。

 僕は、ブラザーアンジェラの合図でピアノの椅子の前に移動し、一礼をしてから椅子に腰かけた。

 ブラザーアンジェラが曲の演奏前に少し話をした。

『私、アンジェラ・アサギリ・ライエンは、日本人の母を持ち、強いあこがれをこの地に持っています。

 そして、私は血の繋がりを持つ者達から受ける見返りを求めない愛に、心から感謝しています。

 今日、ここ東京でこの曲を最初に披露できること、とてもうれしく思います。』

 そう言って、僕にピアノを弾き始める合図を出した。イントロはクラシック調で、少し長めのアレンジがされている。


 ♪ほの暗い闇の中で 君の瞳探す

 すべての 夢をあきらめたのなら 

 君に 会えると 約束してくれたのなら 何も要らない


 キャンドルの炎越しに ゆれる君の瞳

 会いたい 心でそう願っていても 君は

 僕らが まだ出会っていないのだと 言うよ


 瞳 閉じれば ほら 君の声が聞こえる

 すべての 希望を捨てて生きて行けたら

 君に 会えると 信じられるのなら 何も要らない


 すべての のぞみをあきらめたのなら

 君が 僕を 愛してくれるのなら 何も要らない


 この広い世界の 中で 君に 会えた奇跡♪


 曲が終わった。ちょっと最後の方はオリジナルと歌詞が違ってた気がするが…どうにか無事に終了。

 ブラザーアンジェラもうちのアンジェラと全く同じ声と歌い方だった。もしかして、ミュージックビデオも送ってもらったのかな?あ…でもとっても違うところがあった。

 ブラザーアンジェラは、歌い終わっても翼は出なかった。

 そして、曲のタイトルも違った。原曲は『My Angel』そして、今日披露されたのは『愛の奇跡』。きっとアンジェラが自由にしていいって言ったんだろうな。


 曲が終わると同時に、ものすごい拍手が沸き起こった。そして、客席から、いくつもの花束がブラザーアンジェラに渡された。

 リリィはにっこにこしているだけで、花を用意していない様だ。

 まぁ、あまり婚約者としても表には出たくない様だから仕方がないか…。

 スタッフがブラザーアンジェラに駆け寄り、何やら少し話している様だ。

 ブラザーアンジェラはスタッフと話した後で僕の所へ歩み寄り、話しかけてきた。

「ライル、すまないんだが…。」

「ん?」

「お客様の中で、君を紹介して欲しいというリクエストがたくさん上がっているようなんだ。悪いが、ステージの中央で名前を紹介してもいいか?」

「えぇ?マジで言ってる?僕、もう明日には帰るよ。絶対、後で困るって…。」

「この場だけやり過ごせば大丈夫だ。な、頼む…。」

「本当?知らないよ…。」


 ブラザーアンジェラに引っ張られるように僕はステージの中央に行った。

 会場がどよめいた。どうしてどよめく?

 あ…。全く同じ顔のもう一人…ニコラスが満面の笑みで僕に両手をブンブン振っている。う、恥ずかしぃ…。

 ニコラスを見たせいかな?ブラザーアンジェラが僕を『急遽ケガをしたスタッフに代わりピアノを演奏した遠縁の子、ライル・アサギリ君です』と紹介した。

 なぜか、僕に花束をくれた女の子が二人いた。それを見るマリアンジェラの顔が怖い。

 どうにか、ライブは無事終わり、ブラザーアンジェラ、瑠璃リリィ、そのの家族と共に、用意されたホテルのレストランのVIPルームで食事をした。

 当然のことながら、ブラザーアンジェラの奢りである。


「ライル、今日は助かったよ。海外の取引先からも来ている人たちがいたんだ。これが失敗すると、洒落にならなかった。」

「知ってる曲で良かったよ。アンジェラが曲を提供したなんて知らなかったよ。」

「あぁ、あっちに行った時にミケーレが動画を見せてくれてな。凄く感動したんだ。私にはない感性というか、美しく、歌詞も切なく心に響いた。それをアニキに言ったんだ。素晴らしいってな。そうしたら、『自分の場所に帰ったら、好きに歌え』と言ってDVDと、楽譜を渡してくれた。絵本や、色々な情報の礼だと言ってくれて…。」

「そうだったんだね。確かに…あっちのお金がこっちで使えないとかで、僕もこっちに居る時はお世話になってるし…。」

「いやいや、ライルやアニキがしてくれている事に比べたら、まだまだ何もお礼が出来ていないんだが…。」

 いつの間にか『アニキ』になってるのが、妙に微笑ましいんだが…。そんな僕たちの会話なんてお構いなしに、マリアンジェラとニコラスのやり取りが僕の右隣で繰り広げられていた。


「ニコちゃん、それ、ちょうだい。」

「マリー、これもあげたら、私の食べる分が無くなりますよ…。」

「大丈夫、もう追加で頼んだから、ちょっと来るまでの間待つだけだし。ね。ね。おねがい。」

 基本、大人の食事5人前はイケるマリアンジェラがニコラスの分を根こそぎ横取りしていたのだ。

「マリー、僕のをあげるから、ニコラスのは取らないであげて。」

 僕が言うと、少し顔を赤くして小さく頷いた後、半分食いちぎったステーキをニコラスのプレートに戻していた。

 ニコラスの困った顔がウケる。

「マリー、この肉は返さなくていいです。」

「そお?」

 マリアンジェラは遠慮なく肉を取り戻して食べている。

 それを見て徠夢と留美が楽しそうに微笑んでいた。

 その後、食事もほぼ終わりかけた午後7時半。僕が借りているスマホに石田刑事から連絡が入った。

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