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560. 石田刑事の願いごと(2)

 僕、ライルは、瑠璃リリィの住むもう一つの世界の方に来ている。以前、この世界の徠紗を誘拐犯から助けるために石田刑事と取引したのだ。

 僕が彼に提案したのは、『僕が出来ることを何か一つ石田刑事のためにやる』という内容だ。

 もちろん、非人道的なことや過去を変えてくるようなことは断るつもりである。

 正直なところ、僕は自分のことを『超能力者』と石田刑事に言ってあるが、どんなことが出来るかなど詳しい話をしたことはないのだ。

 僕はブラザーアンジェラが用意してくれていたスマホで石田刑事に電話をかけ、今こちらに来ているので、今夜だったら石田刑事の『お願い』をきくことができると伝えた。


 待つこと約30分、仕事を切り上げたらしい石田刑事がすぐに朝霧邸を訪れた。

 インターホンが鳴り、かえでさんが来客に対応する。

 かえでさんに案内されてサロンにやって来た石田刑事は、いつもは警察官を伴っているが、今日は今まで会ったことのない20代後半くらいの男性を伴っている。

 石田刑事は、その男性を『娘の親しい友人』と紹介してくれた。

「ライル君、わざわざ来てもらって悪いね。前回の約束、出来れば今回お願いしたいと思っているんだよ。」

「大丈夫ですよ。僕にできることだったら、お手伝いします。」

「あ、こちらは、俺の娘の親しい友人で片桐君というんだ。」

「あ、初めまして。朝霧ライルです。よろしく。」

 僕がそう言って握手を求めると、その男も手を出して、挨拶をした。

「片桐雄大です。よろしくお願いします。」

 その時、僕はその男の手から彼の記憶の断片を読み取った。

 それは、それは…恐ろしい過去の出来事だった。

「ライル君、実はね。彼には何も話していないんだが、彼も同席してもらってもいいだろうか。」

「…。石田刑事さん。すみません。それは出来ないです。申し訳ないですが、他の方の同席は遠慮していただきたい。」

「あ、あぁ…そうか。そうだな。君にも色々と都合があるだろうからな。」

「はい。すみませんが…。」

 石田刑事は少し残念そうに顔を俯かせて、仕方ないとばかりにその彼に言った。

「片桐君、そう言うわけだから、帰りに近くの駅で降ろしていくよ。すまんな、来てもらったのに。」

「いえ、いいんです。また明日にでも病院に見舞わせていただきます。」

 僕と一緒に三人で車に乗り込み、石田刑事が運転する車で、最寄り駅で片桐氏を降ろし、僕と石田刑事は二人で車で20分ほどの大きな総合病院に到着した。


 病院の駐車場で、石田刑事が少し思いつめたように僕に話し始めた。

「ライル君、実はな…俺には24歳になる娘がいるんだ。そして、その子、美幸みゆきは、今、植物状態なんだ。もう、あと数日しかもたないと医者に言われている。

 少しずつ死に近づいている状態だ。」

「それは、残念です。それで、僕に何を望みますか。」

「ライル君、俺は、君がどんなことが出来るか、よく知っちゃいないんだが、朝霧さんのところの娘さんが、君は人の記憶を読むことが出来るというようなことをチラッと言ってたんだよ。」

「…。」

「内緒だったんだよな。すまないな。だが、俺にもこれが最後のチャンスだと思うんだ。」

「もしかして、殺人犯が誰かを探ろうとしていますか。」

「…っ、どうしてわかった?まだ殺人とは言っていないぞ。植物状態と言っただけだ。」

「まぁ、それは今はどうでもいいですよね。それで、娘さんの記憶を見て欲しいんですね?」

「あぁ、そうだ。そうなんだ。亡くなってしまっては、それも叶わない。

 ずっと捜査を続けてきたが、全く手がかりが見つからないんだよ。」

「でも、石田刑事さん、もし記憶を僕が見たとしましょう。そして、それを石田刑事さんに教えても、何も証拠はありませんよ。僕が嘘をつく可能性だってある。」

 石田刑事は俯いていた顔を上げ、薄暗い車内で助手席に座る僕の目を見て言った。

「俺は、今、神にすがりたいほどの気持ちなんだよ。」

 僕はそんな彼に少し微笑みかけて言った。

「僕は神ではありませんよ。でも信じてください。僕が出来ることは、きちんと前回の石田刑事さんのやってくれたことへのお礼としてやらせてもらいます。」

 石田刑事は少し安堵した様な顔で僕の手を握った。

 また、更に彼の記憶の断片が流れ込んでくる。


 面会の時間外だったが、僕たちは病院の中に入れてもらえた。

 ほぼ危篤といっていい状態の石田美幸さんの家族ということで、配慮されたからだ。

 病室に入る前に僕は石田刑事にブラザーアンジェラから言われていた『瑠璃リリィを同席させること』を伝えた。

「今から、また連れに行くのか?」

 往復すると40分はかかる。そんなに時間がないと石田刑事は言った。

「あ、大丈夫です。病室の中にトイレありますよね?」

「あぁ、個室だからトイレはある。」

「じゃ、そこ。お借りします。」

 僕は病室に入ると、トイレに入り、そこから朝霧邸に転移し、自室のベッドの上でグダグダ漫画を読んでいた瑠璃リリィを連れてトイレに戻って来た。

「お待たせしました。」

 青いジャージ姿の瑠璃リリィを引っ張ってトイレから出ると、石田刑事が腰を抜かしそうなほど驚いた。

「わ、あわわ…。ど、どこから出てきたんだ。お嬢ちゃん。」

「え、トイレ。つーか、ここどこ?ライル君。」

「病院だよ。静かにね。一応、証人という事で、ブラザーアンジェラが君を連れて行けと言うから、実行したまでだ。」

「了解しました。」

 瑠璃リリィはビシッと敬礼のしぐさをした。


「さて、石田さん。わかっていると思いますが、ここで見たことは口外しないでください。

 まぁ、言ったところで、僕はこの世界には元々存在しない人間なので、あなたが変人扱いされるだけですが…。」

「あぁ、承知した。」

「では、彼女、美幸さんの記憶を見る前に、お聞きします。」

「な、なんだ?」

「あなたは、美幸さんに死なないで欲しいと考えていますか?」

「もちろん、そうだ。当り前だ。たった一人の娘を、こんな形で亡くすなんて…。だからせめて、犯人の顔とか名前だけでもわかれば、解決の糸口になるかと思って、君にお願いしたんだ。」

「わかりました。僕、ちょっと気が変わりました。」

「え?どういうことだ?」

「いくら記憶を見ても、証拠がなければ、犯人は捕まえられませんよ。」

「そ、そんなことはわかっている。」

「あなたは、その犯人がわかったら、自分でそいつを殺しかねない。ですよね?」

「なっ、君…心も読めるのか?」

「いえ、心は読めません。過去に考えたことや経験したことだったら、記憶として見ることは可能ですが…。では、始めます。何があっても心を強く持ってください。」

 瑠璃リリィが石田刑事の両手を掴み、がっちりと握りしめて、頷いた。

「ライル君に任せよう。彼、すごいんだから。」

 石田刑事は小さく頷いた。

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