表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
559/696

559. 石田刑事の願いごと(1)

 アンドレを日本の朝霧邸に送り届け、その後家にアンジェラと戻った。さっきリリアナを起こして朝霧邸に行かせたところだ。

 結局、朝食も食べずにすでに午前9時になっている。

 アンジェラと共にダイニングに移動すると、ニコラスがエプロンをして大きいホットプレートでパンケーキを焼きながら子供達とリリィに食べさせていた。

「ニコちゃん、こっちひっくり返して。」

「あ、はい。」

「あ、こっち焼けたね。次はジュリアーノの番だよ。」

「はい、どうぞ。」

 ニコラスがジュリアーノのお皿にパンケーキをのせると、ジュリアーノが大きな声で言った。

「ニコたん、あんがとー。」

「どういたしましてー。クリームは?」

「あい、おねがいしゅます。」

 ニコラスがジュリアーノのパンケーキにホイップクリームをのせてプラスティックのナイフを渡す。

「はい。これ使える?」

「あい。」

 ずいぶんとニコラスのいう事を聞いている。普段の遊び相手をしている成果かな?

 すかさずリリィが、次の指示を出した。

「ニコちゃん、これとこれも焼けたよ。ライアンとミケーレの分ね。」

「はい。よっと…。どうぞ。」

 次から次とパンケーキを焼いて、子供達に食べさせている。僕は控えめに声をかけた。

「ただいまー。」

「あ、ライル。おかえり。今日はニコちゃんがパンケーキ職人なんだよ。ね。」

「あはは。リリィに作り方を教えてもらって、今実践中です。結構楽しいですよ。」

 僕の横でアンジェラがニンマリ笑って言った。

「では、私の分も頼もう。」

「あ、はい。がんばります。」

 その後1時間ほどでようやく片付いたのだった。後片付けを終えて、僕はアンジェラとニコラスにもう一つの世界にこれから行こうと考えていることを伝えた。

「27日、月曜日の午後6時になっても戻って来なかったら、マリアンジェラをよこしてくれないか?」

 僕は念のため、アンジェラにそう頼んだ。

「そうだな、リリィは身動きが取れないし、リリアナはアンドレのことがあるしな…。かといって私やニコラスではできることが少ない。マリアンジェラには私から言っておこう。」

「頼むよ。じゃあ、行って来る。」

「ライル、これを着て行け。」

 アンジェラは、ダイニングのソファの陰から何やら箱を取り出した。

「え?何これ…」

「春物のトレンチコートだ。いくら寒くないとは言ってもその軽装でうろうろしては目立つからな。」

「あ、ありがとう。」

 僕はアンジェラの言う通りに、そのトレンチコートを着て、倉庫の別の世界への入り口に向ったのである。


 3月24日、金曜日。イタリアでは午前11時だ。

 もう一つの世界のアンジェラの家の倉庫に出た僕、ライルは、その場にいつもと違うものを発見した。小さなテーブルが置かれていて、そこにはメモとスマホとクレジットカードが置かれていた。

『ライル君、これを読んでいるという事はこちらの世界に来てくれたという事だろう。

 私は、今日から東京でライブなどの仕事があり家を空ける。申し訳ないが、このスマホを使って石田刑事と連絡を取ってくれ。

 必要ならこのカードで何でも買ってかまわない。

 瑠璃リリィには朝霧の家に部屋を用意するように言ってある。この家の中も自由に使って構わない。よろしく頼みます。アンジェラ』

 僕は、メモの下の方に書かれていたスマホのPINを入力し、自分の顔をフェイスIDに登録した後、スマホをポケットに入れると、そのまま日本の朝霧邸のホールに転移した。

 ホールの壁に掛けてある時計を見ると午後6時だ。

 スマホのGPSも現在地を更新したのか、同じ時刻に変わった。

 一応、ここは他人の家だ。黙ってウロウロするのも気が引けるので、スマホに登録されている瑠璃リリィに電話をかけた。

 二階の瑠璃リリィの部屋から着信音が聞こえた。

 家にいるのか…。しかし…電話に出ない。

 僕は、そのまま階段を上り、瑠璃リリィの部屋のドアをノックして部屋のドアを開けた。

『!?』

 瑠璃リリィは青いジャージ姿で耳にイヤホンをつけたままの状態で昼寝をしていた。

 いやいや、昼寝…というには遅い時間だが…。

 僕は瑠璃リリィを揺すって起こした。

瑠璃リリィ、起きてくれないか。これから石田刑事と話をしようと思うんだけど、ここに呼んでいいかな?」

「う、う~ん。ママ?なぁに?」

 そう言って目をこすり、目を開けた瞬間、瑠璃リリィの顔がまるで沸騰したヤカンの様に赤くなった。

「ラ、ライル君…、驚いた。ひぇ~」

 そう言ってぐちゃぐちゃの髪を慌てて直すのであった。イヤ…どうやったらそんなに寝ぐせつくかな…。うちのリリィもおおざっぱだけど、どうやって育ったらこうなるんだろう…。

 ライル(ぼく)の心の声である。


 瑠璃リリィに言われ、しばしサロンで瑠璃リリィの身支度ができるまで待つことになった。

 かえでさんの入れてくれた紅茶を頂きながら、待っていると、こちらの世界の父様が仕事を終えて戻って来た。

「あれ?ライル君?」

「あ、こんばんは。そうです、ライルです。お久しぶりです。」

「徠紗の事件の時は本当にありがとう。もうすっかり回復して、もうつかまり立ちもできるようになったんだ。今日は留美の実家に行っていて、もうすぐ戻ると思うんだが…。」

「それでいなかったんですね。」

「そうなんだよ。義父の体調が良くないらしくてね。」

「そうですか…。」

 こっちの留美の父親という事は、僕の世界では僕の母方の祖父という事になるのか…。

 戻ったら、聞いてみよう。

「今日はどうしたんだい?」

「徠紗の捜査に協力してもらう代わりに、石田刑事のお願いを一つ聞く約束をしていたんです。そのお願いを何にするか決めたらしくて、呼び出されました。」

「お願い?」

「はい、その内容はまだ聞いていません。」

「そうか、あまり無理などしない様にな。困ったことがあったら言うんだよ。」

「あ、はい。出来ない事はやらないって決めてるので大丈夫です。」

「いやぁ…ライル君はしっかりしてるな…。うちの瑠璃リリィに爪の垢でも煎じて飲ませたいよ。ははは。」

『ごもっともなご意見です。』これも僕の心の声である。


 10分ほど経って、瑠璃リリィがさっきのジャージ姿のままサロンに来た。

「おまたせ~」

「さっきとどこも変わってないけど…。」

「え?顔洗って、髪を縛ったよ。」

 確かに、目ヤニは取れて、髪もポニーテールというか後ろで結わえている。

 まぁ、深く考えるのはよそう。僕は早速、石田刑事に連絡を取ることにした。

瑠璃リリィ、君は僕がこれからやることを一緒に行動して見守ってくれ。」

「もちろん。楽しそうだね。探偵ごっこみたいで。」

 僕はそれには答えず、スマホの電話帳から石田刑事の電話番号に電話をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ