558. アンドレ爆発する(2)
僕、ライルは、自宅で起きた事故のため重傷を負ったアンドレの状態を保つために封印の間にアンドレをベッドごと運んだ。
封印の間は広くないので、中心のある円卓上の部分にベッドが載せられた状態だ。
僕は最初にアンジェラを連れて祖父・未徠を迎えに日本の朝霧邸に行った。
おじいさまは往診用の道具と、輸血用の器具を持って待っていた。
三人ですぐに封印の間に向かった。
おじいさまはベッドに付いた血液の量にひどく顔をゆがませた。
「ライル、アンドレに何があったんだ?」
「ジュリアーノに新しい能力が発現した様なんですが…。それが指先に高温、あるいは発火するような能力で…。アンドレの腹の中を温めちゃったみたいなんですよ。で、ガスに引火。」
「そんなことがあり得るのか?」
「本当に小さい爆発だったので、腸と胃に穴が開いたくらいで済んだんだと思いますが…危なく上半身と下半身がバラバラになるところでしたね。でも思ったより出血が多かったみたいです。」
僕がそう言っている間にも、おじいさまは血圧を測ったり、触診やおじいさまも持っている能力を使って、僕が『この辺り』だと指し示した部分を透かして見ている。
「ライル、この辺りに飛び散った破片の様な物が無いか見てくれないか?もし残っていたら厄介だ。」
「一応気をつけて出血した血や、肉片なんかは出したよ。」
「そうか、じゃ、輸血を始めるとしよう。しかし、かなり血圧が下がっている。一回にアンジェラから採れる血液量は限られているからな、どれくらい輸血すればいいのか…、」
「じゃあ、一か月後、二カ月後に行ってアンジェラから採血したらどう?」
「そうか…その手があったか。」
僕はおじいさまを連れ、一か月後のアンジェラと二か月後のアンジェラから採血してきた血液をアンドレに輸血した。
アンジェラには造血を促す鉄剤の処方箋を書いてもらった。
輸血が終わり、しばらく様子を見た後で僕がアンドレを眠りから覚ます。
「アンドレ…。」
声をかけたのはアンジェラだ。
顔にかかった髪を指でよけながらアンジェラがアンドレの頬に手を置いた。
アンドレの瞼がピクッと動いて少し目が開いた。
「…。ここは…。ユートレアの…。」
「そうだ。封印の間だ。」
どうして封印の間にいるのかもわからない様子のアンドレに、僕はまた首筋に手を当て眠らせた。
「意識は戻ったようだから、今は眠らせておこう。ここにいては回復もしないからね。
家に戻して様子をみよう。」
「手に負えなければ、日本に運んでもいいんだよ。アンドレの部屋がある。」
おじいさまは毎日血圧を測り、水分補給等をきちんとさせる必要があるし、子供たちが騒いでは体に障ると言った。
確かにそうだという事になり、日本の朝霧邸でしばらく預かってもらうことになった。
おばあさまは元看護士だし、家にずっといるのだから、あとは本人の治癒力に任せるほかないのだ。
僕はアンドレをそっとお姫様抱っこして日本の朝霧邸のアンドレの部屋へ転移し、ベッドに寝かせた。普段使っていないのかと思っていたが、どうもリリアナの拠点になっているようで、デスクとノートPCと小型のテレビまで置かれていて、ベッドも使った形跡がある。
そのまま封印の間に戻り、おじいさまとアンジェラも日本の朝霧邸に連れて来た。
おじいさまが、しばらく水分補給も点滴で行おう。というのでお願いした。
そこで一旦僕等は家に戻ったのである。
朝の事故からすでに三時間、リリアナはまだ眠っていた。
もう、体は回復していそうだ。僕はリリアナを起こし、アンドレを日本のアンドレの部屋に預かってもらっているからパジャマを持って行って着替えさせてあげるように言った。
一瞬記憶を呼び覚ますのに時間がかかったようだが、思い出した途端、血相を変えて転移して行った。
この後、一週間ほどでアンドレは家に戻って来た。
アンドレの爆発事故はこうして幕を引いたのである。




