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546. ニコラスの能力

 僕、ライルは、マリアンジェラとミケーレ、そしてその二人の幼稚園への送り迎えをすることになったニコラスと共に、アメリカの家に転移し、そこから徒歩で学園に通う。

 ニューヨークに近いこの場所はイタリアのローマに近い自宅に比べ、気温も低く雪が積もっている。

 今朝、アンジェラから子供達に新しいコートを渡された。

 昨日の朝、雪遊びをしながら通学している様子を写真で送ったのだが、耳が冷たそうだと言っていたので、そのせいかもしれない。

 渡されたコートを見て、大人はニンマリしてしまった。


 モフモフのフェイクファーで、フードがついているコートなのだが、同じ生地の手袋が袖の先にボタンでつけられるようになっている。

 そして、フードを被ると、くまさんの耳がついているのだ。

 マリアンジェラはクリーム色、ミケーレは茶色のくまさんだ。

 アンジェラは、普段切れ長の目をだらしなく目じりを下げて写真を撮りまくっていた。

 そんなに写真撮ってどうするの?

「父上と未徠と亜希子に送るに決まっているだろう。」

 マリアンジェラもサービス精神旺盛で、『がお-っ』とポーズしている。

 それで、少し家から出遅れたが、早目に設定した時間なので特に問題は無さそうだ。

 しかし、子供たちが歩道で雪だるまを作り始めてしまった。

 昨夜、少し積もった新雪がいい感じに丸まって、どんどん大きくなっている。

 二人がそれぞれの雪玉を作っているのだが…どうしてマリアンジェラの雪玉の方がはるかに大きいのだろう?不思議だ。徒歩5分の道のりだが、途中で3体ほど雪だるまを置き去りにしてきた。

「二人とも、もうやめてくれ…。」

「どうして?いいじゃない。学園の門の前に飾っちゃおうよ。」

「イイネ。飾っちゃおうよ。」

 全然いう事を聞いてもらえないまま、大きめの雪玉と共に門に到着した。


 門の横でセキュリティチェックをしているおじさんも、あまりの雪玉の大きさに苦笑いだ。一応許可をもらって雪玉を門の中のキンダー寄りのフェンス際に置いた。

「ニコちゃん、こっちの小さいほうをこっちに乗せて。」

「マリー、いや…無理だって。そんなの持てないよ。」

「大丈夫、マリーが手伝ったげるから。」

 そういうと、ニコラスはまるで操られているように雪玉を抱え、トスン、ともう一つの上に置いた。

「すげぇ、力持ちだな、おじさん。」

 そう言ったのは、昨日のランチタイムにマリアンジェラに結婚を申し込もうとしていた男の子だ。

 当然、雪だるまは、頭を乗せた瞬間にマリアンジェラが動かないようにがっちり固定しており、それは足元の凍った雪にも固定されていた。びくともしない。

「ミケーレ、お外で遊ぶときにお顔つくったげよう。」

「そうだね。あるかな、葉っぱとか、枝とか…。」

「しょっか…ここ雪だらけだから見つけられないね。ミケーレのお城から持って来てもいい?」

「いいよ。」

 どうやら、あとでこっそり取りに行くつもりらしい。

「マリー、勝手に行くのはダメだよ。一度家に帰った後で拾いに行こう。」

 ニコラスが言うと、仕方なくだがいう事を聞いた。

「むぅ…。わかった。」

 皆に『クマちゃんコート、かわいい』と褒められ、すっかり雪だるまの事を忘れたようだった。

 ニコラスは二人の荷物をキンダーの中のキャビネットに入れてから図書館に行くと言うので、僕はそこで分かれて教室に向かった。


 キンダーでは、午前中に音楽のレッスンがあり、その後は雪合戦だったようだ。

 ニコラスは昨日に引き続き、図書館で戻ってきた本をより分けて棚に戻す作業をしたそうだ。

 三人は10時半にカフェテリアでランチを食べ始めた。

 今日は、スープジャーに温かいクリームシチューとクロワッサンのチーズサンドが入っていた。

「あったかいの、おいちい。」

 雪合戦ですっかり冷えた体に、熱々のシチューが絶妙らしい。

「パパのシチュー、やっぱりおいしいね。」

 ニコラスの分もあったので、一緒に食べた。本当においしい。ニコラスはアンジェラが

 何をやっても完璧で、慈悲深く、威厳があり、非の打ち所がない人だと思っている。

 前日と同じ11時20分ころ、ライルがカフェテリアにやって来た。

 ライルも同じランチを食べ、先にランチを終えた子供達を見送った。

 ニコラスとライルの二人になった。


「ライル、勉強は難しいのか?」

「いいや、そうでもないよ。地道に覚えれば大丈夫だ。」

「私も学校に行った方がいいのかな…。」

「ん?ニコラス、そんなこと思っていたの?」

「あぁ、私が学んだことと言えば、神学と剣術と読み書きくらいでな…。」

「たしかにニコラスの生まれた頃とは違うよね。アズラィールもこっちに来てから大学に入ったんだ。やりたかったら挑戦してみたらいいんじゃないか?僕たちの人生はまだまだ長いからね。」

「そうだな。考えてみるよ。」

「あ、そうだ…ニコラス。僕、今日の午後の最初の授業が休みになったんだ。いっしょに図書館に行ってもいいかな?」

「あぁ、おいでよ。一緒に片付けてくれ。」


 僕とニコラスはランチが終わった後に図書館に行った。

 図書館の事務担当のチャーリーは、僕たちを交互に見つめて顔を赤らめた。

 どういう反応?

「おはようございます。チャーリーさん。」

「ニコラスさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします。」

 そして、チャーリーが僕に話しかけてきた。

「も、もしかして、あ、あのライル・アサギリ様ですか?」

「あ、はい。そうですけど…。」

「ぼ、僕、ライルさんのファンです。いつか会えるかもって思ってここに就職したんですけど。う、うれしすぎて…涙が…。う、ううっ。」

 ニコラスは笑いを堪えるのに必死だ。どうやらニコラスの保護者用セキュリティカードには『アサギリ』の名前が無かったが、そのお迎えに来ている子供の名前に『アサギリ』と書いてあるのを、図書館に入る権限をカードに付与するときに気が付いて、ドキドキしていたらしい。

「あまりにもそっくりなのに名前が違っていて、保護者だとおっしゃるので、ご親戚かなと思って…。ドキドキしてました。本当にそっくり…というか双子ですか?」

 ニコラスは笑って言った。

「いえいえ、違いますよ。」

 それ以上は言わず、ニコラスは笑ってごまかした。その後、作業している時にニコラスは僕に小さい声で言った。

「結婚指輪が必要なのはライルのようだね。ふふふ」


 40分くらいだが、ニコラスと一緒に本の整理をした。

 その時、かなりたくさんの本が傷んで背表紙が破れていたり、数ページが外れてくるようなものもあった。

 そういうものを片っ端から用意されている段ボールに入れて山積みにしていく。

 目途が立ったので、僕は次の授業へと戻って行った。


 ライルが授業に戻った後、私、ニコラスが痛んだ本の段ボールを別の部屋に移動していると、チャーリーが休憩しましょうと言ってきた。

 スタッフ用の無料のコーヒーを入れて来てくれたようだ。

 一緒に見晴らしのいいテーブルの所に座り、コーヒーを飲んだ。

 何も話さないわけにもいかず、世間話をしてみる。

「いやあ、昨日は、普段しないような動きをしたせいか、筋肉痛になってしまいましたよ。思わず、夜は三分もかからずに寝てしまいました。ははは」

「そうなんですね。なんだかいっぱい貯めこんでるせいで、申し訳ないです。」

「あ、いやいや。どうせ暇なので、逆にちょうど良かったですよ。」

「あの、ニコラスさんはお仕事されていないんですか?」

「あはは、お恥ずかしい話なのですが、姪と甥の世話をするために頼まれましてね。仕事を離れて来ました。」

「そうなんですか…。」

「はい。来て良かったですよ。子供達も可愛くて…。毎日楽しいんですよ。」

「楽しいのが一番ですね。」

 そんなやり取りをした後、また本の整理に戻った。


 途中、私はチャーリーさんに質問をした。

「この痛んだ本のうち、どれくらいの数を、そのプロの修理をする人に頼むんですか?」

「えっと、修理をするのは、貴重なもう買えないような本だけです。絵本や、最近の本は人気があればまた購入しますが、貸し出しの記録や予約が少ないものは廃棄します。

 実は修理の方が買うよりはるかにお金がかかるんです。」

「そうでしょうね。修理するのって大変そうですもんね。」

 破れたりしている本を入れた段ボールを運び終わって、ふと、その中の一冊を手に取った。現代に来てから5年ほど経ったか、500年前のヨーロッパには本と言えば聖書くらいしか記憶にない。世の中ずいぶんと変わるものだ。

 その絵本『星の王子さま』を手に取り、ニコラスは破れてバラバラになりかけている背表紙を揃えて両手でやさしく触った。

「また読んでもらえるようになぁれ。」

 手の平から金色の光の粒子があふれ出て、絵本の周りにまとわりついた。

 その間わずか数秒。その光がおさまった時、絵本はまるで新品の様に生まれ変わっていた。

 我ながら、感動を覚えた。もう一冊背表紙が破損している本を手に取り。修理するところの動画を撮りライルとアンジェラに動画を送ったのだ。

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