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544. 不安要素

 同じ日、学校に行くまでの時間、リリィとアンジェラ以外は外に出て自宅の敷地内で散策中だ。

 僕、ライルは書斎で仕事の電話をしているアンジェラの様子を伺い、電話が終わったタイミングで話しかけた。

「アンジェラ、ちょっといい?」

「ライルか…あぁ、もちろん。どうした?」

「さっきの…絵本というか、ニコラスが言ってた件についてなんだけど。」

「あぁ…そうだな。いずれ、話さなければいけないことだと思ってはいた。」

 僕は、あの『神々の住む場所』に行った時の記憶が二人とも同じであることを確認してから、この世界の『神』である存在だと自分のことを言った大天使アズラィールの言葉を引用してアンジェラに問いかけた。

「あの、アズラィール…アディってマリーが呼んでたけど…。彼は『新しい神を指名する』って言ってただろ?」

「あぁ、私もそう聞いた。だが、誰を指名するかは言っていなかった。」

「だよね。僕とマリーはアンジェラとリリィを指名するつもりかと思って、それじゃミケーレやマリアンジェラが困るって思ってたんだ。」

「もし、指名されても私は決して行かぬ。」

「そう言うと思った。でも、さっきの絵本では、あの核の絵は僕のものだとしか思えない。あんなごちゃまぜな色をしている核は他に見たことが無いからね。」

「そうだな…。それに…。」

「え?何、その他に何か知っているの?」

 アンジェラは、僕と赤ちゃんニコラスが合体して僕が出て来られなくなった時の話を始めた。そして、その状態を治すために、『対価を払え』と言うようなことを言われたと教えてくれた。

「即答できなかったのだ。その場合の対価とは何が適切かわからなかったからな。

 しかし答えを考えているうちに、『お前が神にはなれない』と話を切られたのだ。

 私はその時、候補から外されたのだと思う。」

 アンジェラはそう言った。


 その後に起きた僕の体がクリスタル状になる現象、そして、後を追うようにマリアンジェラまでもがそのような状態になり、『神』が僕に対して何かをしているのではないかとも思ったそうだ。

「なるほど…。そんなことがあったのか…。」

「あぁ、黙っているつもりはなかったのだが、無事にライルとニコラスが分離して、そのことで歓喜するあまり、忘れてしまっていた。」

「あ、大丈夫…普通に聞けば、その通りだな…って思うだけだし。

 僕だって、『神に指名』なんかされたって、絶対に了承しないよ。」

「そうか…。そう言ってもらえると安心だ。」

 言葉には出さなかったが、アンジェラはマリアンジェラを失うことを恐れているんだと思った。『神は二人で一つの銀河をつくる』そう絵本に描いてあった。

 それの意味するところは、僕と、もう一人、多分能力が強い者か上位覚醒している者が選出されるのだろう。

 そして、以前アズラィールが言っていた、愛を感じた時にだけ天使の核を産みだせるという言葉が示すように、愛し合う間柄でなければ『神』に指名されないと思うのだ。


 アンジェラは少し疲れた顔で顔を押さえながら言った。

「私達が生き残れるかどうかも、定かではないのに、このような抗えないかもしれない事が起きては、人生に希望を持つことが困難であると感じてしまうよ。」

 アンジェラはあの小惑星の衝突の話をしていた。

 あの時に会った天文学者から、小惑星の軌道を再計算した結果、月に衝突する確率が少なからずあることがわかったが、NASAや関係各所に再調査と対策を至急検討して欲しいと依頼しているにもかかわらず、なんの進展もないのが現状だ。


 僕もこれに関しては、アンジェラに同意見だ。

 僕とマリアンジェラがいなくなれば、ますます僕たちは生き残れなくなる。

 例え地球の半分以上がめちゃくちゃになったって、僕たちだけでもどうにか逃げ延びたい。これが、僕の正直な気持ちだ。

「アンジェラ、僕も何か出来ないか、考えてみるよ。」

「あぁ、頼むよ。だが、あまり背負いこむな。お前ひとりが背負うような内容じゃないからな。」

「うん。ありがと。」


 僕はアンジェラとの話を終え、温室に行った。

 中ではニコラスの頭の上にピッコリーノがうんちをしたらしく、大騒ぎになっていた。

「は、早く~、取ってください。リリアナ…、アンドレ…誰でもいいから…。」

「ぎゃははは…」

「ニコちゃん、うんちくっついてるね。カッコ悪ぅい。」

「ちょ、ちょっとニコラス、こっち来ないでよ。」

「リリアナ、ひどいじゃないですか…。」

 全く…昭和のコント並みのドタバタ具合だ。

 僕はニコラスの手を掴み、自室の浴室に転移した。

「ほら、頭、下げて。濡れないように、手を引っ込めて。」

 僕が言うと、素直に言うことを聞くニコラス。僕は彼の頭をシャワーで洗い流してあげた。タオルで髪を拭いてあげながらニコラスに言った。

「あのピッコリーノは、ニワトリのギャングみたいなもんだから、気をつけた方がいい。」

 真顔で言った僕の顔をじっと見つめて、ニコラスが目をキラキラさせて一言返してきた。

「笑うところですか?」

「ブフッ…。いや、真面目に言っただけだから笑わなくていいよ。」

「ライル、なんで笑ってるんですか?」

「いや、ニコラスがかわいいって思っちゃったから、おかしくて…。」

 ニコラスは顔を赤くして頬っぺたを少し膨らませていた。かわいいと言われて怒ってるのだろうか。

「ぶははは…。」

「笑わないで下さい。」

「だって…ほっぺたが膨れていて…面白いんだもん。」

「ひどい。」

 ニコラスは、『ひどい』と言いながらも嬉しそうに笑っていた。そう、ライルにかまってもらえて、本当にうれしかったのである。

 ニコラスは、誰にもかまってもらえないのが寂しかったのだ。

 ただの同居人以上になりたいと思っていたのだ。

 それは、息子や、孫や、父や、従兄妹、そんな関係でなくとも笑って、触れ合える何かになりたかった。

 ますます、ライルをこの世界から失うことなど出来ないとニコラスは思ったのだ。

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