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539. 超絶ラッキーニコラス

 私、ニコラスは今日からミケーレとマリアンジェラの送迎を仰せつかって始めた。

 ところが、待っている時間、家で一人、暇を持て余すのではというアンジェラの一言から、ライルと子供達が通う学園で暇つぶしのボランティアを行うことになった。

 正直に言おう、力仕事はしたことがない。15歳まで王城の奥で守られて育ったため、本はよく読み、読み書きは得意だが、剣も苦手でどちらかと言うと体力には全く自身がない。

 いつも周りに気を遣われ、何でもやってもらってきた人生だ。

 それでも、私が役に立てることが一つでもあるならば…と思いミケーレとマリアンジェラの送迎をすることを承諾した。

 まさか、成り行きで暇つぶしのボランティアを、学園の図書館で本の整理しながら過ごすとは…人生とは面白いものだ。

 父上や母上に話したら気絶しそうである。

 しかし、そんなことを考えるだけで、なんだかワクワクした。


 なぜならば、いきなり『あの絵本』と思われる一冊を手に入れたのだ。

 私は内心、ものすごく興奮しながらも、顔に出ないよう細心の注意を払って作業に没頭した。途中、図書館の事務員、チャーリーが声をかけてくれた。

「ニコラスさん、休憩しましょう。」

「はい、ありがとうございます。」

 チャーリーはコーヒーを渡してくれた。

「カフェテリアのコーヒーは自由に飲んでかまいませんので、いつでも持って来て下さい。」

「そうなんですね。」

「あ、あと…。埃っぽいですよね。コートは、この廊下の右側の更衣室にハンガーをかけるところがありますので、使ってください。」

「あぁ、そうですね。机の上に置いてきました。」

 10分ほど休憩して、また作業を始めた。しかし、ずいぶんと溜めたものだ。

 部屋はかなり広いのに、床が見えない。返却後整理していない本だけでこんなにあるのか…。まぁ、逆に言えば、いつまでもやることが尽きないということだ。

 気楽にやろう…。

 次にチャーリーに声をかけられた時には、もうキンダーのランチタイムだった。


 私は埃を払い、手を洗って、コートをハンガーにかけ、パスを入れるケースをチャーリーがくれたので、首からかけ、カフェテリアに向かうことにした。

 その時、チャーリーが話しかけてきた。

「あ、ニコラスさん。さっきの絵本です。お渡ししておきます。」

「あぁ、ありがとう。」

 ニッコリと微笑むと、チャーリーも頬を赤らめて微笑み返してくれた。

 私はカフェテリアで子供達を待った。

 すぐにキンダーの子供たちがゾロゾロと列を作ってやってきた。

 その中で一際大きいマリアンジェラとミケーレがニコラスを見つけて駆け寄ってきた。

「ニコちゃん、一緒にランチ食べれる?」

 マリアンジェラが目をキラキラさせて抱きついてくる。

「もちろん。一緒に食べよう。じゃあ、私は何か買ってくるよ。」

 私がそう言うと、マリアンジェラが私の手を引いた。

「ニコちゃん、マリーのサンドウィッチ分けたげるから、マリーのお願い聞いてぇ。」

「何だい、マリー…。」

「チーズバーガーを買って欲しいの。ここに入ってきた時から、マリーに食べて欲しいって言ってるみたいな匂いをプンプンさせてるでしょ~。」

 普段からものすごい食べるが、今日っも爆食いをするつもりらしい。

「あぁ、いいよ。ミケーレは?」

「僕も一つ食べてみたい。」

「よし、じゃあ買ってくるね。」

 私はそう言って、列に並びチーズバーガーを5個とオレンジジュースを3杯購入した。

 どうやら、保護者用のパスで購入できるらしく、後で口座から支払われるようで、この中では小銭を出したりしなくていいらしい。便利なものだ。


 三人でチーズバーガーをかじりながら、マリアンジェラの口の周りを紙ナプキンで拭いたりして世話をやいていると、幼稚園児の一人が近づいてきた。

「こんにちは。おにいちゃん、マリーちゃんのパパ?」

「こんにちは。私はマリーのパパではなくておじさんだよ。」

「そうなんだ…。マリーちゃんと結婚したいときは誰に聞けばいいの?」

「ええっ?」

 私はこんなに小さい子供がいきなり結婚とか言いだして驚いたが、マリアンジェラは冷静そのもので冷たく言った。

「マリーはライルと結婚するから、他の誰とも結婚できないのよ。ごめんなさいね。」

 男の子は『プシュー』という感じで退散。ミケーレは顔が笑っていたが、無言だった。

 マリアンジェラは持参した巨大なサンドウィッチ3つのうち2つを食べ、1つを私にくれた。アンジェラが作ったらしいが、娘のことを熟知しているのだという事がわかる。

 普通の大人の食べる量よりずっと多く食べるのだ。

 ミケーレはそのサンドウィッチ1つを三等分にした一切れくらいしか入ってなかったが、チーズバーガーを食べたせいで食べきれない様子だった。

 最終的にはマリアンジェラがキレイに食べきっていた。


 気づけば11時20分、キンダーのランチタイム終了まであと20分という頃、ライルがカフェテリアに入ってきた。

 マリアンジェラのテンションが変わった。

「マリー、ミケーレ、キンダーはどうだった?」

「今日はね、中でゲームと外遊びだった。」

「うん、まぁまぁ楽しかったよ。ライルは?」

「僕はいつも通り、講義を聞いて、ノートにまとめるって感じなんだ。

 ニコラスはどうだった?」

 私は、抑えていた顔のほころびが溢れてしまうのがわかるくらい顔がニヤニヤしてしまった。

「ライル、すごいことがあったんだ。これを奇跡と呼ばず、何といおうか…。」

 僕はチャーリーが封筒に入れてくれた絵本をそっと取り出して三人に見せた。

「声は出さないでくれよ…。」

「…お。これ…。」

「ニコちゃん、すごい。」

「ミケーレ、もっと褒めてくれ。」

「凄すぎ…。」

「どうしたのこれ?」

「近所の人からの寄付で受け取ったはいいけど、中身が真っ白じゃ使い物にならないって、廃棄の箱に入れられていたんだ。廃棄品は言えばもらえるって言うからさ、早速もらったと言うわけ。ライル、悪いんだけど、失くしたら困るからね、アンジェラの書斎にこれ飛ばしてくれないか…。」

「そうだな…。そうしよう。」

 ライルは座っている膝の上に封筒を置き足を組みなおした。一瞬で封筒は消えた。

 誰も気づくものはいないだろう。

 キンダーの子達を呼ぶ先生の声が聞こえ、二人は戻って行った。


 私とライルはしばし雑談し、12時半頃に図書館に戻った。

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