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538. ニコラス、ボランティアを経験する

 2月1日、火曜日、早朝。

 僕、ライルとマリアンジェラが無事に戻り、アンジェラはミケーレとマリアンジェラの登園を今日からと決めた。

 アメリカ時間の朝8時に登園し、午後2時半に迎えに行くというスケジュールだ。

 今まで僕が登校するために家を出ていた時間に合わせてマリアンジェラとミケーレとニコラスがアメリカの家に転移して、最初に決めたように家から徒歩で通う予定だ。

 しかし、そんな時にアンジェラが『ちょっと迷っている』と言い始めた。


「アンジェラ…何を迷ってるのさ。」

 僕が聞くと、大真面目な顔で言った。

「朝、ニコラスがマリーとミケーレを送ったあと、帰りの時間までずっとアメリカの家にいても暇じゃないかと思ってな…。」

「まぁ、確かに…。そうかも…。」

 そうか…5時間以上もなにもせずに家にいるのも辛い気がするのも事実だ。

「アンジェラ、私は大丈夫ですよ。本でも読んでいますので。」

 ニコラスがそう言ってクスッと笑った。

「あ、そうだ。学校の図書館でボランティアをしたらいいんじゃない?」

 僕が言うと、アンジェラが満足そうに頷いた。

「本も読めるし、学校の中にもいられるし、それはいい考えだ。」

「お昼は一緒にカフェテリアで食べようよ。マリーとミケーレ達は同じカフェテリアを使えるけど、時間帯が早いんだ。10時半にはキンダーはランチタイムだからね。

 二人と合流して、その後僕も行くから…。」

「あぁ、いいね。じゃあ、そうしよう。」

「じゃ、ニコラス。今日は、僕が最初に図書館のボランティアの件聞いてみてあげるよ。家から一緒に行こう。」

 なんとなくだが、飽きずに待っている方法が見つかりそうだ。


 2月のこの季節はニューヨークに近いアメリカの家近辺では極寒の季節。

 気温零度を下回ることも多い、そして雪も多く積もっている。

 イタリアの家で昼食をとり、午後一時にアメリカの家に転移、そこから徒歩で登校する。雪が珍しいミケーレとマリアンジェラは歩きながらも、雪玉を作ったり、それをぶつけあったり、楽しそうだ。

 ニコラスは終始ニコニコしながら子供達を見守り、時に軽く子供達にやられつつ、学園に到着した。


 今日はライルも同行してキンダーに子供達を送り届け、僕とニコラスは別棟の校舎へ行った。

 最初にカフェテリアでコーヒーを買い、席に着いて飲みながらタブレットでボランティアの申し込みをした。

「来週のからしか入れられないな。」

 僕が言うと、ニコラスは気にした風もなくコーヒーを飲んでニコニコしていた。

「いいよ、私のことは気にせず、ライルは自分の学業に専念しなさい。」

「仕方ないか…。」

 そんな感じで僕が教室に移動するギリギリまでそこで時間をつぶすことにした。

 しかし、ハッと気づくと周りに人だかりが…。

「なぁ、ニコラス…なんか周りが騒がしい気がするんだけど…。」

「うん、さっきからいっぱい人がいたよ。ライルからは見えなかったみたいだけど…。」

 そこへウィリアムが来て、僕に話しかけた。

「ライル、体調悪かったんだって。大丈夫か。って、君…双子だったのか?」

「え?」

 ウィリアムの視線はニコラスを向いていた。

「はじめまして。私はニコラス・ユートレア・ライエン。ライルの伯父に当たるんだ。よく似ていると言われるよ。」

 とっさにニコラスがさわやかな笑顔で模範解答をした。

 ウィリアムは頬を赤らめて、挨拶をすると呟いた。

「ライル、君の親戚は破壊力がハンパじゃないな…。それに、どこが違うかわからないくらい似てるな…。驚いたよ。」

「そうかな…。親戚の中でも似てるとは言われるけど、そんな風に言われるほどじゃないと思ってた…。」

 僕とニコラスは思わず二人で笑い合った。

「なぁ。」

「だね。」


 ついでなので、ウィリアムに聞いてみた。

「ニコラスはうちの姪と甥の送迎で今日からここに通うんだけど、時間が中途半端だから、昼間は学園のボランティアでもと考えているんだ。でも来週の分からしか入れられなくて…。」

「あぁ、それなら、スクールカウンセラーに言うと空いてるところや、やって欲しいことを教えてくれて、場所を案内したり、世話もしてくれるよ。

 キンダーの補助とかもあるらしいし…。」

「ウィリアム、助かるよ。ニコラス、じゃあスクールカウンセラーの所に連れて行くよ。」

 授業が始まるまで15分ほどの頃、僕とニコラスはスクールカウンセラーの所に行った。


 ノックしてカウンセラーの事務室に入ると、ちょうど用事を終えた生徒が2名、そこから出るところだった。

 僕達に気づいたいつものカウンセラーの男性が話しかけてきた。

「おや、ライル君、久しぶりに姿を見たね。そちらは…ん?え?」

「あ、忙しいところすみません。こちらは僕の伯父で、ニコラスと言います。

 姪と甥の送迎で今日からこちらに来ているんですが、できたら学園の中でピックアップの時間までボランティアとか出来ないかな…と思いまして。来週の分は入力したんですけど、今日から何かできることありますか?」

「お、叔父さんですか?すごく似ていて驚きました。ずいぶん若い叔父さんですな…。」

「いえ、そんなには若くありませんよ。ハハッ」

「えっと…希望とかありますかな?」

「そうですね、できれば図書館とかで書籍の整理などできたらいいと思ったのですが…。」

「それは、大歓迎ですよ。実は図書館の裏の倉庫に整理していない書籍が大量にあってですね、人を雇って欲しいと言っていたくらいなんですよ。少しずつでかまわないので、お手伝いお願いします。では、今図書室の管理している者を呼びますので、ここでお待ちください。ライル君はそろそろ授業だから、行って大丈夫ですよ。」

「はい、ありがとうございます。

 ニコラス、じゃあ、キンダーのランチタイムにカフェテリアで二人を見てあげて。僕も行くから。」

「わかったよ。行っといで。」

 そう言って、ニコラスは僕の頬にキスをした。


 カウンセラーの男性の目が白目がちになって固まっている。

 それを見たニコラスは平気な顔で言った。

「大きくなっても甥っ子はかわいいもんですね。ハハハッ」

 少しして、図書館の管理をしているチャーリーという名の事務員がニコラスを連れて行った。


 私、ニコラスが連れて来られたのは、この学園の生徒と卒業生なら誰でも利用できると言う図書館だ。

 大きなドーム型の建物は渡り廊下で校舎とつながっているが、入り口でセキュリティパスをスキャンして入る必要がある。

「ニコラスさん、保護者用のパスをお持ちですよね?」

「はい、これです。」

「じゃ、あなたのパスをここのボランティアとして登録します。保護者は普通は入れないのですが、これで開館中は利用も可能です。

 ずっと作業していても疲れますので、適当に手を抜いて、休んでください。

 カフェテリアで飲み物を買って、そこのテーブルとイスの所で飲みながら本を読んでもいいですよ。飲食は、ここだけなのでご注意を。」

「わかりました。」

「登録が済みましたので、スキャンさせて入って下さい。」

 私がパスをかざすと入り口をふさいでいたバーのランプが緑に変わった。

 バーを押して入る仕組みの様だ。

「では、こちらで作業を説明しますね。」

 貸出カウンターの後ろのドアから先に進むと廊下に出て、3つのドアがあった。

 1つ目の部屋には、リクエストがあって購入したり、寄付された新しい書籍が山積みされていた。

「ここの書籍はまだ未登録なんです。棚に空きがあれば、新しい本をドンドン出していきたいのですが、出す場所が整理されていないのが現状です。なので、ここは一番最後にお願いするところですね。へへ」

「なるほど…」

 次の部屋は少し雑然としていた。

「お恥ずかしいですが、ここにある本は返却されて棚に戻していない物です。

 汚れや破れが無いかを確認してから、棚に戻すのをお願いします。」

「はい、やりましょう。」

「では、この机をお使いください。

 まず、ここである程度同じ棚の本をまとめてから図書館の棚に持って行きます。

 ここに棚の番号を書いた平面図があるので、例えば、ここ、Aの3の棚の書籍を、この本の山から発掘します。もし、破損したり汚れている本があれば、そこに積んであるボックスに入れて、隣の部屋に移動します。」

「発掘なんですね…。クスッ」

「そうなんですよ。ここでまとめてからじゃないと、図書館の中を行ったり来たりしてヤバい位疲れるんです。」

「チャーリーさんはここで何年も働いているのですか?」

「4年目です。最初は3人いたのですが、地味な仕事が嫌で皆辞めてしまって。ひとりだとなかなかバックヤードとカウンターを両立できなくて…。」

「それは、大変ですね。次の部屋はどういう…」

「そこは、見てもらったらわかりますが、修理待ちか廃棄待ちの本が置かれています。もう手に入らない様な貴重な本はここで修理をするのですが、専門家が月に1度来てくれます。要らない本は廃棄します。こっちの大きな黒い箱に入っているのは廃棄の物です。本の裏に赤いテープを貼っているものが廃棄予定として、ここに入れられます。

 全て棚に並べられるわけではないので…。」

「捨てられるのは可哀そうですね。」

「毎年、結構な量あるんですよ。興味あるのがあったら言って下さい。」

「え?いいんですか?」

「登録を削除して、差し上げますよ。」

 チャーリーは黒い箱の中から、一冊の絵本を取り出した。表紙はきれいに見えるが廃棄の箱に入っている。

「これなんか、ひどいんです。近所の方に寄付されたんですが、中を開けてみたら真っ白の白紙なんですよ。」

 私は目を疑った。それは、あの天使の絵本にそっくりだったのである。

 一昨年のクリスマスの時にミケーレが言っていた。普通の人が触っても白い紙だが、ミケーレが触ると絵が浮き上がったというあれだ。

 私は『運命』を感じた。私は少し呼吸を整えてチャーリーに言った。

「あ、その今の中身は真っ白っていうの、もらってもいいですか?」

「え?こんなものをですか?」

「はい。お願いします。」

「いいですよ。じゃあ、登録削除して、袋に入れてカウンターの所に置いておきますね。」

「ありがとう。」

 私はその後、一番最初に入った部屋で作業を開始した。作業用の白い手袋をはめて、黙々と同じ棚の絵本を山の中から発掘する作業だ。

 これはあっという間にお昼の時間になりそうだ…。

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