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536. 目覚めの時(2)

 僕、ライルは、キャンプ用のテントの中で目を覚ました。

 目を覚ます前に、胸が熱くなるような、そんな感じがしてのだけれど、目を開けると、大の大人、アンジェラとニコラスが二人で、全裸の僕をテントの中に座らせじーっとこっちを見ていた。

 わっ、何かの罰ゲーム?かと思ったが、その前の記憶がぼんやりしていてよくわからなかった。

 それに、自分が全裸であるその目の前に自分に口づけをしているマリアンジェラの形をしたクリスタルの像…。やっぱり何かの罰ゲームか?

 とにかく、アンジェラとンニコラスが持ってきた下着と服を着て、テントの外へ出たのである。

 テントから出るときに、自分が座っていたモフモフが白熊の頭がくっついた毛皮だと知り、少々背中が寒くなった。


 僕はテントから出て、アンジェラに聞いた。

「アンジェラ、マリーは?」

 アンジェラは驚いたような顔で言った。

「ライル、お前の目の前で固まっていたではないか。」

「え?うそだろ?」

「嘘ではない。お前が幼稚園での事故の後、朝霧の家で透明になり固まっていたのだ。

 マリーはひどく悲しんで、家にお前を運んだ。」

「幼稚園での事故?」

 あっ、と思った。すっかり忘れていた。僕は天使であることがばれてしまったと思い気に病んで朝霧邸のクローゼットに逃げたのだ。

「え?何が起こったって?」

「あぁ、事故の時に天使であることがバレたと思ってお前は朝霧に行ったと思うのだが、マリーがうまくやってくれたのだ。」

「いや、意味わかんない。うまくやったってなにを?」

「時間が戻ったところから、お前が走って立ち去るまでの約5分をあそこにいた人物や物質から消したのだ。」

「そんなこと、出来るわけないだろ?」

「いや、マリーは万里の長城でもそれを使っていた。」

「マジか?」

「あぁ、マジだ。しかし、それを伝えにマリーがお前の所に行ったのだが、すでに石になってしまっていたようだ。」

「うわっ、僕、超イタイやつじゃん。」

『フッ』とアンジェラが笑った。笑いやがった。

「ライル、そんなことより、お前は私の娘をこのような状態にしてただで済むと思っているのか?」

 魔王の様なすごんだ目で睨まれた。

「そ、そんなこと言われても…。」

「私は先ほど、ニコラスとお前のことを愛していると言う話をしていたのだ。」

「げー、僕は男に興味ないんだけど…。」

「家族愛、人間愛だ。イヤらしいことをしたいとかではない。そんな話をしているうちにお前の身体をニコラスが触ったら核に変化があったのだ。だから私も触ってみた。」

 アンジェラが半笑いの顔で僕が戻った時の様子を教えてくれた。

「一言目が『えっち』だからな…。慌てたよ。」


「じゃあ、愛情を思い描きつつ触ればいいわけ?」

「イヤらしい言い方をするな!私の娘だぞ。」

「いやぁ…知ってるけどさ。じゃあ、自分で触ればいいじゃん。」

 アンジェラはちょっとムッとして言った。

「散々触ったのに何も反応がないから言っているのだ!」

 マリアンジェラの事は触ってるんかい…。ニコラスが驚いた顔をした。

 そう、ニコラスが食事をしている間に、こっそり部屋の鍵を開けて入っては、マリアンジェラの頬を撫でたり、背中をさすったりしていたらしい。

 僕は『わかったからあっち行ってて』と言い、テントのファスナーを閉じた。

 テントの中は真っ暗である。

「暗っら。」

 つい口から出てしまった。するとテントの外からアンジェラの声がした。

「さっきはお前に触ると光が出て来たんだ。試してくれ。」

「はい、はい。」

 僕は手探りでマリアンジェラを触った。そこは、マリアンジェラの手だった。

 確か、目が覚めた時、僕の両頬に置かれていた。何の気なしに、目が覚めた時のポジションを再現してみた。

 膝を抱えるような体育座りでマリアンジェラの両手の間に自分の顔を入れる。

 結構腰にくる体勢だ。ちょっと座っている位置が遠いのか…。少しずつ前にずれていくとマリアンジェラの両手がすっぽりと僕の頬を覆った。ひんやりして気持ちいい。

 いやいや、そんなことを考えている場合ではない。

 僕のマリアンジェラがこのまま冷たい鉱物になってしまっては困る。

 僕は僕の手をマリアンジェラの両手を覆うようにのせ、接触していなかった唇を重ねた。心の中で『マリー、僕のマリー…』そう何度も唱えながら…。アンジェラが見たら蹴られそうだ。

 しかし、何も変化は現れず、3分ほど経過した。

 違うのかな???僕は一旦顔をマリアンジェラから離し、マリアンジェラの全身に手を当て、中をスキャンするようなイメージで見た。

「え?すごい…。」

 何もしなければ無色で透明なその無機質な物体である彼女の体は、能力を使って見れば、普通の肉体と同じように骨も心臓も肺も動いており、そこに核も存在している。

 でも手を遠ざければ、またそれすらも見えない。

「どうした?」

 外からアンジェラが聞いてきた。

「あ、うん…体の中は透明じゃないんだ。まるで、どこか違う世界に閉じ込められているみたいだ。」

 僕がそう言ってる途中でアンジェラがテントのファスナーを開けた。

 僕はアンジェラにも見えるように体の中をスキャンする能力を使った。

「おぉ…。」

 アンジェラが少し安堵した顔になった。生きていると実感したのだろう。

「ねぇ、僕が戻る前に何かいつもと違う事ってあった?」

「うむ。ニコラスがお前の核がボーッと浮かび上がってくるのを見つけて連絡をくれたのだ。最初は透き通っていたが、徐々に実体化してきて、その時にお前のことを想いながら二人で触ったのだ。」

「ふーん。」

 マリアンジェラの核は手を遠ざけて能力を使わなければ見えない。

 僕は、マリアンジェラが透明になった時間がどれくらい僕より遅かったのか聞いた。

「家に戻ってから4時間くらいでしょうか…。」

 ニコラスが言った。アンジェラはそれに補足した。

「朝霧の家で3時間ほど泣いていたらしいからな、合計7時間というところか…。」

 僕は二人に僕の考えを伝えた。

「これは上位覚醒して時と似ていないか?」

 アンジェラも同意見だった。

「だとすると、一定期間この状態で、そして戻るのだと思う。もう少し様子をみよう。」

 僕がそう提案すると、二人も頷いた。



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