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532. 目に見えない恐怖(2)

 時は少し遡る。ライルが走って幼稚園の園庭を後にしたとき、マリアンジェラはどうしてライルが急いて走り去ったのか理解できていなかった。

「パパ…ライルはどうして走って行っちゃったんだろ?」

「マリー、さっき、ライルがガラスの破片を子供達にぶつからないようにするため、咄嗟に翼を出して浮き上がっただろ、見ていたか?」

「うん。」

「たくさんの人に、翼を出して、実際に少しだが飛んでいるところを見られたという事は、また、警察や週刊誌や、野次馬がライルの事を追いかけまわすかもしれないという事だ。あのトラックにドライブレコーダーがついているのが見えるしな…。下手すると、捕まえられて調べられたりするかもしれないのだ。」

「…。つかまえられて?」

「あぁ、私も昔、よく捕まえられて食べられそうになったりしたんだよ。」

「どうして?」

「天使を食べると死なない体になると信じている人もいるんだ。」

「じゃあ、さっきの見られたのが良くなかったってこと?」

「そうだ、お前たちも人前で決して翼を出したりするんじゃないぞ。」

 いつの間にか横に来ていたミケーレもも頷いた。

「僕、ライルが食べられたりしたら、イヤだ。」

 涙を浮かべるミケーレに、マリアンジェラも段々涙が目に溜まって来た。

 その時、ニコラスが言った。

「マリアンジェラ…この前のピカッってなるやつは記憶を消すんですか?」

「あ…記憶だけじゃないよ。あれ、記録も消すんだよ。」

「じゃ、今すぐやったらどうですか?」

 確かに、まだライルがいなくなってから2分というところだ。

「パパ、マリーにおまかせしてくれる?」

「あぁ、頼む。」

 マリアンジェラはミケーレとアンジェラとニコラスに目を瞑るように言った。

 そして指を空の方に向けて上げ、大きい声で叫んだ。

「あーっ、UFOユーフォーだ。」

 そこにいた全員が空を見た瞬間、『ピカッ』と真っ白い光がその一体を覆いまるで景色が消去されて真っ白くなったみたいに見えた瞬間だった。

 園庭のあちこちから悲鳴が聞こえた。

「「ぎゃー」」

「「たすけてー」」

 さっき、鉄筋が飛んできそうになったところからのやり直しである。

 しかし、目の前の飛んできていた鉄筋がいつの間にかジャングルジムに縦に刺さっているのを見て、『何がおきたんだ!』という声に変わった。

 先生が子供達を集め、数を数えて無事を確認する。

『ファンファン』と塀の外に警察車両のサイレンが聞こえ、守衛さんが警察を中に入れた。


 20数名の警察官と教員たちが何やら話をし、一部の教員に誘導され、子供達と見学のアンジェラとニコラスも建物の中に一度戻った。

 外は騒然としたままだ。事情聴取でもされるかもしれないと思い、待機していたが、声をかけられないまま3時間が経過した。

 アンジェラは、教員の一人に話しかけた。

「大変な事故になってトライアルどころではなさそうですから、私たちは今日は引き上げることとします。来週から登校可能か事務の方から連絡をもらいたいのだが、よろしいだろうか。」

「はい、かしこまりました。ご連絡するよう伝えます。」

 教員はそう言ってマリアンジェラとミケーレの荷物を持って来てくれた。


 四人は、正門を出て、徒歩でアメリカの自宅へと、来た時と同じ道のりで帰った。

 家に着き、転移用の窓のない部屋に入るとアンジェラがライルに電話をかけた。

 しかし、応答がなかった。

 その時、マリアンジェラが涙を目にいっぱい溜めて言った。

「みんな、先にお家に帰っててくれる?ライルが、泣いてるから、マリーがお迎えに行って来る…。」

 言い終わると同時に、マリアンジェラはアンジェラ、ニコラス、ミケーレの三人をイタリアの家のアトリエに物質転移で送った。


 マリアンジェラは、そのまま一人で日本の朝霧邸のライルの部屋に転移した。

 ベッドも使った様子がない…。

「あれ?ここに来るって言ったのに…。」

 マリアンジェラは、ライルのいる場所に転移するよう念じた。

 目の前が真っ暗になった。クローゼットの中だ。

 畳んでない服とかタオルとか、シーツとか、予備の枕なんかが、シッチャカメッチャカになっている。その中に埋もれているライルに気が付いた。

 そっとライルの頬に両手を触れた。それは冷たい氷の様な温度だった。

「ラ、ライル…どうしたの?ねぇ…どうしたの?いつもこんなに冷たくないじゃない…。」

 マリアンジェラはその小さなクローゼットの両開きのドアを開け、シーツやタオルを避けてライルに何が起きているのか確認した。

 その時、ライルのスマホに着信があった。アンジェラからだ。

「ライル、どうした、電話にでないで…」

「パパ、マリーだよ。ライルが…ライルがおかしくなっちゃった。うわぁぁん。」

「マリー、泣かないで、ちゃんと説明しなさい。」

「う、ひっく。う、うぅぅ…。」

 そこで、電話が切れた。

 アンジェラは慌てて亜希子に電話をかけ、ライルの部屋を見に行って欲しいと頼んだ。

 亜希子がライルの部屋に入った時、マリアンジェラはクローゼットのドアを開け、中に手を伸ばしていた。

「マリアンジェラ、どうしたの?パパが見に行ってって言うから来たのよ。」

「おばーちゃま…。ライルが…ライルが…。」

 暗い室内に照明をつけ、クローゼットの中を覗き込んだ亜希子は息をのんだ。

 そこには翼を出し、膝を抱えてうつろな目で座る。クリスタルの様な透明で無機質な天使の彫像があったのだ。

「ああぁっ、なんてこと…。ライル…。」

 亜希子は床に座り込んだ。

 アンジェラからの着信がスマホから聞こえるが、亜希子もマリアンジェラもそれには応答しなかった。二人とも泣いて泣いて、何も考えられなかった。

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