531. 目に見えない恐怖(1)
僕、ライルは、偶然発生した工事現場の鉄筋を積んだトラックが暴走し、幼稚園の生徒が遊ぶ園庭で、子供達の命に係わるような大事故が発生するのを阻止するため、天使の翼で空中に浮き、砕け散ったトラックのガラスの破片を操作しているところを大勢子供達と幼稚園の職員に見られてしまった。
見られただけならなんとかなったかもしれないが、トラックには一部始終が撮影されたと思われるドライブレコーダー…そして、セキュリティの強化された学園の敷地内には、多数のセキュリティカメラがあった。
門の外になり響き近づいてくる警察車両のサイレンに、ここにいてはいけないという意識が沸き起こり、僕はアンジェラに『しばらく朝霧の家に行ってるよ』と告げ、その場から走り去った。
僕は、アンジェラに言った通り、日本の朝霧邸の自室に転移した。
しかし、ドアにカギをかけ、ひっそりと部屋の中でクローゼットの中にうずくまっていた。
僕は何をやっているんだ。人前で能力を使ってしまうなんて。
せめてLUNAの姿になっていれば、ごまかすことが出来たかもしれないのに…。
僕の正体がすぐに世界中にさらされ、僕は芸能人でも高校生でもない、好奇な目にさらされるモルモットみたいになるんだろう…。
もし捕まれば、世界中の研究機関から人体実験の様な事をされるかもしれない。
不安しかない。今までの家族との楽しい日々も、マリアンジェラとの触れ合いも、何もかも自分で壊してしまったのだ。
しかし、あの時、どうしても自分の大切な人だけを選んで助けるようなことは出来なかった。マリアンジェラだけ連れ去ってガラスの破片から守ることも出来たはずだ。
それだけなら、他の人からは見えなかった可能性もある。
否、マリアンジェラだけではない、他の子達もガラスの破片を被ったら、失明や大けがの可能性があるのだ…。
自分の選択した結果であるのにこんなに悩むのも今までにないことだ。
僕はいつでも、なんだかんだ言って自信たっぷりに行動してきた。
小さいクローゼットの中、真っ暗な暗闇の中で、マナーモードにしている僕のスマホがぶるぶると震えた。
アンジェラからの着信だった。
それは、僕が幼稚園の園庭を去ってから三時間経過した時だった。
僕はアンジェラからの電話に出なかった。…出る勇気がなかったのだ。
僕は目を瞑って、何も考えないようにした。
いつの間にか着信は途切れ、スマホは震えなくなった。
スマホではなく、僕の体が震えていることにことに気が付いたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
寒い…おかしい。僕の体はすでにないものとなっており、僕の姿を形成しているのは地上に存在するエネルギー体だ。暑さ、寒さを感じないのもそうだが、刃物で斬られたり、車にはねられたとしても一切怪我することも死ぬこともないだろう。
それなのに、そんな無敵なはずの僕が震えている。
ガクガクと止まらぬ震えに、自分自身の膝を丸まって強く抱き寄せる。
怖い…怖いよ…。
僕は不安で心が折れそうになっていた。




