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530. Pre-Kトライアル(2)

 僕、ライルが通うボーディングスクールに隣接する同じ学園のキンダーと小学部の校舎前で、今日ミケーレとマリアンジェラがPre-Kのトライアルをしている時だった。

 三時間目は、特に授業とかではなく、みんなで園庭に出て仲良く遊ぶ時間だった。


 子供たちは思い思いの遊びで、鬼ごっこをしたり、縄跳びをしたり、サッカーボールで遊んだりと楽しく過ごしていたのだ。

 マリアンジェラとミケーレは数人の男の子達とサッカーをしていた。

 マリアンジェラがボールを蹴ると勢いよく飛んで行ってしまった。

 ミケーレがボールの後を追いかけボールを手に持って、戻ってくるとき…。皆が校舎の方に向いている時に、ミケーレの視線だけが学園の敷地と道路を隔てる塀の方を向いていた。

 ミケーレには、それがとてもスローモーションの動画のようにも見えた。

 塀の外には、学園に隣接土地に増設中のショッピングモールがあり、あちこちでカンカンと打ち付けたりするような音がしていた。

 ちょうど、その辺りで、何かがキラッと光ったのを見たのだ。

「ん?」

 不自然な光が目に入り、ミケーレは集中してその方向を見た。

 それは、大量の鉄筋を積んだ大型のトラックに、コンクリートのミキサー車が暴走してぶつかった時のフロントガラスに反射した太陽光線だった。

 次の瞬間、『ドッカン』という音と共に、学園の塀を簡単に壊し、乗り越えた無人の大量の鉄筋を積んだトラックが勢いをつけて、子供達のいる園庭に走って来た。そして、ジャングルジムにぶつかり、荷台に積んであった鉄筋がまるで矢のように何百本も子供達へ目がけ飛んできたのである。

「あぶない!」

 ミケーレは目を見開いたまま、今までにない大きな声で叫んだのだ。


 時を同じくして、ライルは三時間目の講義を受けていた。

 この講義を行う生物を教える教授は、大学でも教えるエリートなのだが、とにかくおしゃべりが機関銃のように途切れない。

 それが、今、ライルの目の前で急に途切れた。

「ん?」

 大きめの教室で、少しザワザワとしていた音まで全くしなくなった。

 僕は立ち上がって周りを見渡した。

「ヤバい。」

 時間が止まっている。これはミケーレが時間を止めているに違いない。

 何かあったのだろう。

 僕は荷物をそこに置いたまま、ミケーレの側に転移した。

「ミケーレ。」

「ライル…。」

 ミケーレは立ち尽くして泣いていた。ミケーレの視線の先には矢のように放射状に飛ぶ金属の棒とあとわずかでそれに串刺しになりそうな子供達、マリアンジェラもその中にいる。

「ミケーレ、急げ。」

「ライル…僕の力じゃ誰も動かせないの…。」

 一番金属の棒に近い子供を動かそうとしたが、全く動かなかったようだ。

「僕に任せろ。」

 僕は鉄筋の金属の棒を物質転移で誰も使っていなかったジャングルジムに縦に刺した。

 まるで鉛筆立てに建てられた鉛筆みたいだ。

 トラックも、もしかしたらその先まで動くかもしれないそう思い、マリアンジェラを含む近くの子供たちはまとめて30mほど離れた場所に移した。

 割と近いアンジェラとニコラスは門の脇へと移動させ


 念のため、ジャングルジムの前に立ち、変な動きをしたらトラックごとひっくり返そうと身構えた。

 その時、止まっていた時間が戻った。

「「ギャー」」

「「きゃぁーーー」」

 たくさんの叫び声と共にトラックのフロントガラスが、飛び散ってしまった。

「しまった…。」

 僕はガラスが飛び散らないように物質転移を使いまとめて、トラックの荷台に乗せた。

『バラバラバラ…』と音がして目の前にキラキラ飛んでいたガラスが一瞬で消えた。


 しかし、やってしまった。僕は能力を使い皆を助けることにだけ集中してしまったがために、子供達や幼稚園の先生、守衛たちの目の前で、翼を出し、空中に浮いたままそれをしてしまったのだ…。

「ライル…。」

 アンジェラは、困惑の表情で僕に駆け寄った。

 これだけの事故である。奇跡的にけが人はいなかったが、警察が調査に乗り出し、ドライブレコーダーや監視カメラの映像を確認するだろう。

 僕にやましいところがなくても、好奇の目にさらされるはずだ。

 差し伸べられたアンジェラの手を掴み、地上に下りて翼を収納した。


 僕はうつむいたままだった。

 どうしていいかわからなかった。

 その時、マリアンジェラが駆け寄ってきて僕に言った。

「ライル、たしゅけてくれたの?」

「うん。」

 マリアンジェラは頬をピンクにして満面の笑みで飛び上がって僕に抱きついた。

「ライル、大好きっ。みんな…ライルが助けてくれたよ。マリーはこの人のおよめしゃんになるんだよー。」

「え?」

 なぜこんなところでそんな宣言をしている?

 ニコラスがパチパチと拍手をしたら、子供達も近づいてきて拍手をした。

「マリーちゃん、このお兄ちゃんとペアルックだね。いーなー。」

 女子は全員マリアンジェラを羨望の眼差しで見た。


 コンクリートのミキサー車を誘導していた作業員たちが警察を呼んだらしく、門の表にたくさんのパトロールカーが集まりだした。

 僕は、アンジェラに近づき、そっと耳打ちした。

「僕、しばらく朝霧の家に行ってるよ。悪いんだけど、マリーと一緒に帰って。」

「ライル…。」

「アンジェラ、ごめん、迷惑かけちゃうかも…。」

「電話する。」


 僕はその場から走って講義を受けていた教室に戻り、荷物を持って寮の部屋に入り、そこから日本の朝霧邸の自室に転移したのだ。

 正直言って、絶体絶命のピンチだ。あまりにも見られた人の数が多すぎる。

 不安ばかりが頭をよぎった。

 僕はどうしたらよいのだろう…。

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