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529. Pre-Kトライアル(1)

 1月13日、木曜日。

 僕、ライルは、赤ちゃんニコラスの体と『合体』してしまって抜け出せなくなってしまっていたため、すでに冬休みが終わっているのに学校に行けなかった。

 どうにか抜け出た後も、その後遺症からか、調子が悪かったのだ。

 今日はようやく調子が戻り、学校に行くことが出来そうだ。

 そして、今日はついでに、ニコラスをアメリカの家に連れて行き、学校の場所を教える予定だ。

 本来だったら9月スタートなのだが、イタリアからアメリカに移住したと言って編入することも可能だろう。

 そんなことを考えていたら、アンジェラから更なる提案があった。


「ニコラス、今日は私とミケーレ、マリアンジェラも一緒に行くことにしたよ。」

「そうなんですか?」

「あぁ、Pre-Kの見学も含めて歓迎してくれるそうだ。」

「私は父親として行くが、ニコラスはライルと同様、叔父として対応してくれ。

 今日からお前は私の弟として振舞うように。」

「あ、は、はい。」

 ニコラスがちょっとうれしそうだ。

 見学にはランチタイムも含むようで、アンジェラ特製のスモークサーモンとチーズのパニーニサンドを僕の分も一緒に作ってくれた。

 出発は僕が登校する時間より少し後の様だが、校内の見学もできるそうで、僕と一緒に行きたいというマリアンジェラのリクエストに応えることになった。


 家で昼食をとった後、準備に取り掛かった。子供部屋のど真ん中で今日の服を決めるやり取りが始まったのだ。

 マリアンジェラとミケーレが着る服にこだわりがあるらしく、アンジェラはオーダーした服をいくつも出してマリアンジェラを着せ替えていた。

「ん…、んー。マリー、こっちのほうも着てみるか?」

「えー、パパ、それさっきのとどこが違うの?」

「襟の形が違うだろ?」

「いや、もういいよ。これにする。」

 マリアンジェラはアンジェラの趣味なんてお構いなしに今日着る服を決めた。

 それは、何色も色違いで仕立てたパーカーだった。

 サイズも大人用と子供用があり、子供用もサイズがいくつもあった。

「こんなにどうするのこれ?」

「実はな…売ろうかと思ってるんだよ。」

「え?」

 アンジェラが言うにはリアル・エンジェル・プロジェクト関連で服飾ブランドを立ち上げようと思っているそうだ。その一つがこれらしい。

 そう言えばライアンとジュリアーノが生まれた時にアンジェラがデザインした、翼のマークが左右に付いた靴下があったっけ。まさしく、あのデザインがこれだ…。

 マリアンジェラが選んだパーカーは淡いラベンダー色の厚手のトレーナー生地に、背中には金糸で翼が描かれている。僕達用には翼を出すための穴もあらかじめ開いており、内側から力が加わると開くようになっている。

 下は白のデニムが用意されていた。さすがにこれは家族用のようだ。

 自分でパパパっと着替えたマリアンジェラは、色違いの紺のパーカーをミケーレに着せると。僕の所にも大人用のラベンダー色を持ってきた。色はマリアンジェラと同じ。これ、ガチのペアルックじゃん。しかも幼児と…。

「マリー、これ僕も着なきゃダメなの?」

「当然のとーちゃんよ!ニコちゃんは保護者だからブレザー着てね。」

 ニコラスに渡されたブレザーにも背中に翼の模様が…。ニコラスに渡されたのは黒系デニムのブレザーだ。

 襟元にリボンがついたブラウスにブレザーを合わせると、なんだかニコラスが違う人のように見える。

「似合ってるね。ニコちゃん大人に見えるよ。」

 立派な大人のはずなんだけど…。ニコラスはマリアンジェラの言葉を聞いて嬉しそうだ。

 アンジェラはチャコールグレーのスーツとネクタイだ。髪を後ろで結わえている。


 準備が整ったところで、皆でアメリカの家に転移する。

 転移用の奥まった窓のない寝室だ。

 僕とマリアンジェラ、ニコラスとミケーレが手を繋ぎ5人で家を出た。

 アメリカでは、まだ朝8時前だ。

 近所の人に会うたびにミケーレが「おはようございます」とあいさつをしながら通り過ぎる。マリアンジェラはそんなことお構いなしで僕の顔ばかり見ている。

 マリアンジェラは僕が通っている学校の同じ敷地内のキンダーに通えることがうれしくてしかたがないらしい。


 僕達は5分ほどの道のりをゆっくり歩きながら進み、学園の門の前に到着した。

 アンジェラが守衛さんにPre-Kの体験で来たと申し出ると、すぐにクリップ式のビジター用の名札を渡された。

 アンジェラとニコラス、ミケーレとマリアンジェラの分も用意されていた。

 僕は、キンダーの校舎がある僕の寮よりを挟んで僕の校舎とは反対側の建物へ皆を案内した。

 そこには平屋の横長な建物があり、校庭では小さい子供たちが好き勝手に遊んでいる。

 始まるまで、まだ少しあるのだろう。

 キンダーの事務室の入り口付近まで皆を送り、僕は自分の校舎の方に向かって歩きだした。

 ここは幼稚園キンダーと小学校の部がある場所で、そんなに大勢の生徒がいるわけではないが、小さいころからの英才教育には定評があるらしい

 キンダーは各学年で60人程度ずついる様だ。

 ミケーレとマリアンジェラも幼稚園に行く年になったのか…と感慨深く思いながら自分の校舎へと足を早めた。


 ちょうど8時になった頃、僕は本日最初に自分の受けるべき授業の教室に着いた。

 少し始まるまでは時間があるが、パラパラと生徒が集まってきている。

 午前中に4つの取っている授業があり、それが終わったらマリアンジェラとミケーレの様子を見に行こうと思っているのである。


 キンダーの校舎では、事務室で少し説明を聞いたアンジェラ達が教室に案内されてちょうどドアを開けて中に入ったところだった。

 Pre-K担当の先生が園児たちに、二人を紹介した。

「今日初めてこの学園でPre-Kのお友達と一緒にお勉強する、こちらがミケーレ君、こちらが、マリアンジェラちゃんです。自己紹介できるかな?」

 ミケーレに自己紹介を促した先生の顔をチラッと見た後、父であるアンジェラの顔を見て、顔色一つ変えずにミケーレが自己紹介を始めた。

「はじめまして、僕の名前はミケーレ・アサギリ・ライエンです。

 現在4歳8か月、ここにいるマリアンジェラとは双子です。趣味は絵を描いたりピアノを弾くこと。将来はパパの後を継いで社長さんになろうと思っています。」

 ペコリとお辞儀をしたミケーレを、園児たちは固まったままガン見している。

 ハッとして先生が拍手をすると皆、大きな拍手をした。

 次にマリアンジェラが自己紹介を促された。マリアンジェラは少しモジモジしながらも、ずいっと一歩前に出た。そして元気いっぱいの大きい声で自己紹介を始めた。

「マリアンジェラ・アサギリ・ライエンです。マリーって呼んでくだしゃい。

 体力には自信があります。えっと、将来はライルのお嫁しゃんになりたいですっ。」

 園児の皆がざわめいた…。

『ライルって誰?』

『しらない…』

 アンジェラも苦笑いだ。先生までポカンとしているので、アンジェラはフォローした。

「あ…ライルはうちの親戚で、今この学園の高校に通っているんですよ。」

 ざわめきがおさまったところで、ミケーレとマリアンジェラに空いている席に座るよう先生が指示をした。


 最初の授業が始まった。

 いわゆる幼稚園なので、勉強と言っても大したことはしない。

 今日は、横に座ったパートナーの顔をクレヨンや色鉛筆で描きましょう。というものだった。

 きゃっきゃ言いながら、子供たちはお絵描きを始めた。

 その間に先生がアンジェラに話しかけた。

「アンジェラ様、理事長からお話を伺っています。すぐに入学をご希望という事で、よろしいでしょうか。」

「はい。イタリアからこちらにしばらく移ることにしましたので、できればすぐにでも。」

「なるほど、アメリカは就学が早いですからね。それにしてもお子様たち、二人とも今4歳なんですよね?6歳くらいかと思うほど大きいですね。」

「私が大きいせいか、二人とも成長が早くて…。」

「しかも、ミケーレちゃん、なんとしっかりしているんでしょう。素晴らしい後継者になりそうですね。」

「えぇ、期待しています。」

 その後は普段の様子など聞かれ、あれこれと答えているうちに1時間目の終わりを告げるベルが鳴った。

 最後に一人一人、絵を持ち上げて見せるのだが、マリアンジェラは絵心がなく、まつ毛の生えた棒人間程度の絵を描いているのに比べ、ミケーレの絵は、まるで絵本の中の挿絵のように上手に描けていた。

「すばらしいわ。」

 先生が絶賛する。アンジェラはポツリと言った。

「私の自慢の息子です。」

 それを聞いたミケーレもニコラスも、なんだかうれしくなった。


 次の授業はジムナスティックだ。少し広い板の間にクッションのマットが敷き詰められているところに移動した。

 今日はマット運動を行うらしい。

 見学のアンジェラとニコラスには椅子が用意され、まず体育担当の先生のお手本を見て、同じようにマット運動をするというものだ。

 準備体操の後、体育の先生が前転、後転、開脚前転、開脚後転の手本を見せた。

 その時、体育の先生がひとこと余計なことを言ったのだ。

「もっとすごい技できる子は、ドンドン見せてくれ。」

 体育座りで待っている子達が順番にマット運動をした。

 普通の前転も軸がずれて曲がったり、足を開くと立てなかったり、4歳児のマット運動なんてそんなものだ。

「はい、次…。」

 流れ作業で、とうとうマリアンジェラの順番だ。家でマット運動などやったことは無い。ちゃんとできるだろうかとやきもきしながら見ていると…。

 何故か、助走で三歩ほど勢いをつけるマリアンジェラ…。

「ん?」

 タタタッ『トゥー』という掛け声と共に、飛び込み前転、からの側転二回、そして後方宙返りをして『シュタッ』と着地した。

「す、す、すごい…何かプロの方に習っているのですか?」

 体育の先生に聞かれ、アンジェラは苦笑いだ。

「いや、いつも椅子から落ちそうになって着地をポーズで決めてるのは見たことあるが…家では何もしていないですよ。ハハハハ…」


 この後、ミケーレは女子に『王子』と呼ばれ、マリアンジェラは『スーパーガール』と呼ばれ男子に人気となった。ニコラスは楽しくて仕方なかった。

 うわ、何この二極性…。自由で楽しそうだ…。

 三時間目に当たる時間は、今日は外の芝生で遊ぶ時間だった。

 自由に鬼ごっこしたり、縄跳びしたり、サッカーボールで遊んだり…。


 そんな時、予期しないことが起きたのである。

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