527. 過去からの訪問者(13)羞恥プレイ?
封印の間で大天使ルシフェルの胸に右手を触れた後、核だけが抜け出し、ルシフェルの分身体に入ったルアンジェラは『神々の住む場所』にいるルシフェル本体に入る形で、赤ちゃんニコラスとライルの後を追った。
ルシフェルは、その時ベッドでうなされながら眠るアズラィールの横で、手を握りながら様子を見守るしか方法がなかった。
「アディ、私のアディ…どうしてこんなに苦しんでいるんだい。」
「うっ…グハッ」
苦しそうに何かを吐き出し、それは血が固まった様なさびた臭いのするものだった。
ルシフェルが胸に違和感を覚え、自分の胸元に手を入れた。
実体化してはいるが、元々がそこらにあるエネルギー物質が集まってできている体であるため、自分の体の中を探り、違和感のあるものに手を伸ばした。
ルシフェルは青い、ギラギラと揺れながら中が動く核を取り出した。
「この前来たばかりではないか…。」
そう言うとルシフェルはその核に自分の息を吹きかけた。
するとその周りにエネルギーのキラキラが集まり、実体化された。
アンジェラが姿を現わしたのだ。
「どうしたのだ、アンジェラ。帰ったばかりではないか。」
アンジェラはそう言ったルシフェルにすがって言った。
「ライルがどうにかなりそうなんだ、私の世界のアズラィールが茶色く変色してライルを連れてくるように言ったのだ。」
涙を浮かべて訴えるアンジェラを静かに制止し、ルシフェルは言った。
「そうか、それでなのだな…アディがこんなに苦しんでいるのは…。」
ルシフェルはアンジェラに別の椅子に座るように言い、その場にあったシーツを投げつけた。アンジェラは真っ裸だったのである。ルシフェルは、息を整え、目を瞑った。
彼の体全体が青いキラキラで覆われ、それを浴びている自分も心が救われるような気持ちになった。
その時、ルシフェルのすぐ目の前で、アズラィールが口から茶色いものを吐き出し、苦しそうにもがいているのがわかった。
ルシフェルの腕は、スッとアズラィールの胸に入り込み何かを掴んだように見えた。
腕を引き抜くと同時に、茶色い液体が周りにとびちった。
金色の小さな核が、それよりも倍以上の大きさの虹色の核に食い込み、まるで雪ダルマの様な形をしたそれは、虹色の部分を金色の部分が侵食しようとしているが、境目に茶色い血の様な色がにじみ、虹色の核の内容物は一切動いていない状態だ。
「ルシフェル…これはどうなっているのだ?」
「そうだな…これは両方ともアディ由来の子供達だな。」
「そ、そうだ…。ライルとニコラスだ。」
「そうか…。」
「る、ルシフェル…何が起きたか教えてくれ。」
「ん…多分、自我が備わる前の未熟な個体が、能力がないのにもう片方に接触し、わがものにしようとした。という感じかな?」
ルシフェルが言うには、合体が失敗したため、ライルの核が能力を使った側のニコラスの核に喰われている状態だという。
「そ、そんな…助けてくれ…ライルは私の娘の大切な者なのだ。」
ルシフェルはアンジェラの顔を冷ややかな顔で見つめた。
「お前はその望みに対して何を対価とする?」
「…。」
「お前は神にはなれんな。望みには対価が必要だ。よく覚えておけ。」
ルシフェルはそう言うと雪だるまの様な形に癒着した核をポキリと折った。
「え?」
あまりの雑さにアンジェラは口が開きっぱなしになった。
金色の小さな核は折られた部分をすぐに修復し、丸い形になった。
虹色の大きい核は茶色いく変色した部分が少しずつ小さくなり、最後は茶色い部分を外に排出して修復した。
しかし、少し形が小さくなってしまったような気がした。
アズラィールが、目を覚ました。
「ゲホッ、ゲホッ…」
せき込みながら上半身を起こし、胸元をはらうと茶色い物体で汚れていた箇所が何もなかったようにきれいになった。
アズラィールがアンジェラに気づき話しかけて来た。
「あ、アンジェラ…だよね?」
アンジェラが首肯すると、アズラィールが続けた。
「ごめんね。こっちから知らせる方法が夢で見せるか分身体に一言言わせるかしかなくて…。どうやらニコラスはものすごく強い生命の持ち主みたい。」
アンジェラが理解できていない様子を見せると、説明してくれた。
「君たちがくっつく方法は三通りあるんだ。『合体』と、君たちが『融合』と呼んでいるもの、そして最後の一つは『憑依』。
きっとアンジェラ、君も体験したことがあるものもこの中にあるだろう。
『合体』は二つの核が混ざり合って一つになり、二人の能力が混ざり合う、見た目も混ざり合う。その時に能力の底上げも見込めるが、これは『合体』という能力を持っている者がもう一方に入り込むため、能力を使った者の出ようという意思が必要なんだ。」
今回は、この使った者であるニコラスが中途半端な能力と意思などなく発動したことで、核が混ざり合うところまで行かず、まるでがん細胞が正常の細胞を蝕むように侵食したのではないかというのだ。
「赤ちゃんの時に能力を持っている子は殆どいなんだ。だから今までこんなこと起きなかったんだけれど…。」
全ての天使の核はアズラィールの肉体からできている。それがどんな場所であろうと蝕まれ傷ついたことで、アズラィールも死にかけたのだという。
「気づいてくれてありがとう。」
「アズラィール…それで、二人は大丈夫なのか?」
ルシフェルがポキッと折って見た目は丸くなった二つの核は、今ベッドの上に転がっている。
「あ、ごめん。このままじゃだめだね。」
ニコラスは上位覚醒していないため、『神々の住む場所』で実体化出来ないという。
『ライルは…少し小さくなっちゃったから、手当てしてあげよう。」
そう言うと、アズラィールは自分の出しっぱなしの羽を一本ブチッとむしり、『アウッ』と自虐的な声をあげながらも、そのはねの固い部分を腕に突き刺し、ポタポタと血のように落ちる金色のしずくをライルの核の上に垂らした。
グルグルと渦巻く七色のキラキラに金色のしずくが吸い込まれて行き、核は少し大きくなった。
アズラィールはライルの核に息を吹きかけた。
すると金色の光の粒子が集まり始め、人型に形成していく。
少し時間をかけてライルが実体化したのだ。
アズラィールは自分が腰に当てていた枕をボフッとライルに投げつけた。
「なんであんたたちここに来るとき真っ裸なの?」
「ひやあっ。」
ライルは枕で股間を慌てて隠した。
二人は礼をいい、前回帰ったのと同じ場所を通り、封印の間と同じ形の部屋へ行った。
アンジェラはニコラスの核をライルに手渡した。
「ライル、いいか、私が先に戻る。私が消えて1分くらいしたらニコラスの核を入れるんだ。私がニコラスの核をニコラスの体に入るように支えるからな…。
そして、それから少し時間を空けてお前も入れ。」
二人は段取り通りにやった。
アンジェラはルシフェルに入り、ルシフェルは地球の封印の間に出現し、立ち上がり、アンジェラの体を膝に乗せてから核をアンジェラに移した。
急に現れたルシフェルにリリィとマリアンジェラがパニックになっているのもお構いなしに、動き始めた最初にアンジェラはニコラスの体を掴みアズラィールが現れるのを受け取るようにニコラスを構えた。まるでキャッチャーミットの様だ。
ニコラスの核が入った赤ちゃんはふにゃふにゃとぐずり泣き…。
アンジェラはニコラスをリリィに渡すと、まるで踊っているようにベビーベッドの小さなブランケットを手にした。そして、それを大天使アズラィールの前にかかげたのだ。
次の瞬間、アズラィールの像から大きいライルがブワッと飛び出した。
それをアンジェラの手にしている小さなブランケットがキャッチした。
「ん?」
「んんん?」
リリィとマリアンジェラはガン見している。ライルは股間だけをブランケットで隠した状態で無事に生還した。
「やっぱり…何だよ…この羞恥プレイは…。」
真っ裸にマリアンジェラが抱きついてくるから、ライルは顔を真っ赤にして逃げ回った。ライルは慌てて自分の家の自分の部屋のベッドの中に転移した。




