523. 過去からの訪問者(9)
私、アンジェラは、夜の遅い時間にサンルームのソファに座って話し込むオスカー王とニコラスを見つけ、なんとなく男同士の話をするいい機会だと思った。
パントリーに隣接するワインセラーの中にストックしてあるとっておきのワインとグラス、そしてつまみにコールドプレートを持って、サンルームに行った。
ワインはオスカー王の時代から存在していたようで、彼も違和感なく飲み始めた。
「アンジェラ殿、このワインはどこで作ったものだ?」
「陛下、これはフランス産です。フランスの古城を買い取ってレストランを経営しているのですが、その横にワイナリーを所有しています。近年の当たり年の物で、おすすめですよ。」
オスカー王は更に一口飲んで満面の笑みで言った。
「いい味だ、香りもいい。ニコラスも飲め。」
「はっ、はい。」
ぐびっと大きめの一口を含み、飲み込んだニコラスが、少し頬を赤らめた。
酔うには早すぎると思うのだが…。
「お、美味しいです。初めてお酒を飲みました。」
「マジか?」
「はい、なんだか飲んじゃいけない様な気がしていたもので…。」
「ニコラス、お前は真面目過ぎるのではないか。」
オスカー王がそう言うと、アンジェラも頷いてニコラスを見た。
「はぁ…、よくわかりません。私は息子や孫に『ポンコツ』と呼ばれています。」
「『ポンコツ』とはなんだ?」
オスカー王が聞くと、アンジェラは『ダメなやつ』という意味で言ったのでしょうと説明した。
「ニコラス、なぜ息子や孫にそんなことを言わせているのだ。」
「はぁ…どうしてでしょう…。妻が死んだ後、寂しくていたたまれず、アンドレ、あ、いや、王太子殿下の後を追って、この時代に逃げて来たからでしょうか。」
「アンドレの後を追って?」
「はい。殿下はいつも私に優しく接してくれて、度々様子を見に来てくれていたのです。そこで、アンジェラやライル、リリィやリリアナ達と接することが多くなりました。皆、私の事を邪魔にしたりせず、優しく接してくれるのです。」
「そうか…。」
「はい。」
少し話が重くなったところで、アンジェラがサンルームの間接照明を点けた。
ミケーレが咲かせた薔薇と、アンジェラが昔描いた小さめのライルやリリィの絵画が暗闇に浮かびあがる。
「アンジェラ殿、あなたはどんな仕事をされているのだ?」
「私ですか…、色々とやりましたよ。その絵画は今から100年ほど前に画家をしていた時のものですし、ホテル…高級な宿を経営しています。他には芸能事務所の経営も…。」
「げいのうじむしょ…とはなんだ?」
ニコラスが、スマホをポケットから出し、アンジェラの芸能事務所のサイトから、『LUNA』の動画を再生した。
「な、なんと…なんということだ…。この美しい天使、いや女神は、アンジェラ殿の知り合いか?そして、この小さな板から、どうしてこのようなものが見ることが出来るのだ?」
アンジェラは一つ一つ説明した。芸能事務所とは歌や踊りで有名になった人物と契約をしてサポートする会社だという事、そしてアンジェラ自身もそこの歌手で、映像のLUNAはリリィが上位覚醒した時の本来の姿であること、でも現在妊娠中のため、変化の能力のあるライルが代わりに撮影に協力してくれたこと。現代では、見た物を記録する装置があり、それを再生する機械の一つがその四角い板の様な『スマートフォン』だということ。そして離れている相手とも会話ができることも…。
「ほおぉ…興味深い…。ニコラスがここに留まりたいと思う気持ちもなんだかわかる気がするな。」
「え、いや、別にこういうのが見たいからいるわけではありませんよ。」
「そうか?私はもっと見たいし、あちこち行ってみたいがな…ははは。」
「陛下、ここは、この時代は平和な世の中です。行きたければ他の国にも、いつでも行くことが出来ます。エジプトのピラミッドだって、中国の万里の長城だって見られます。」
「行けるのか?」
「行きたいのですか?」
「行きたい。」
アンジェラは少し考えてからある提案をした。
「私は一人では空間を移動することが出来ませんが、アンドレと合体するとその能力を使うことが出来るのです。明日、アンドレと共にお連れしましょう。王妃様とニコラスも一緒に。」
「え、本当ですか?えー、うれしいです。」
その後もたわいのない話や、アンジェラの絵画を譲って欲しいなどの話で盛り上がり余は更けて行った。
アンジェラはアンドレにメッセージを送っていた。
『明日、一日私に時間をくれ。』
アンドレはもちろん『承知した』と返信した。




