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517. 過去からの訪問者(3)

 視界が戻ると、僕は自分の体のコントロールができるようになっていた。

 僕がいたのは自室のベッドの前辺り、オスカー王に抱っこされている。

 オスカー王は自分に起きたことが理解できないみたいで、目が点になり、棒立ち状態だ。

 僕はオスカー王の手からスルリと抜け出てベッドの上に着地した。

 爆睡中のニコラスを起こす。

「ニコラス、おい、ニコラス…。起きろよ。」

 また、起きない。また、枕を手に持って、ニコラスの頭をバンバン叩いた。

「ふぇええっ、どうしまひた?ライルちゃま。」

「ライルちゃまじゃねぇよ、起きてくれ。」

 寝ぼけた顔で上半身をガバッと起こしたニコラスの前に、鎧姿、しかも血まみれで目が落ちくぼんだオスカー王が仁王立ちしている。

「ひやぁ…、陛下…お許し下さい…。ニコラスはニコラスは、王にはなれません。」

「はぁ?何を寝ぼけているのかわからぬが、ここは一体どこなんだ?」

 僕はパチッと室内の照明のスイッチを入れた。

「おぉ…明るくなった…。」

「うん、電気つけたんだ。」

「ん?ニコラス、お前…」

 僕のことをニコラスだと思っているが、違和感を覚えた様だ。

「僕、ニコラスじゃないよ。ライルなの。ニコラスの所へ案内するね。」

 僕はオスカー王を手招きして、客間の前に連れて行った。

『コンコンコン』

 僕がドアをノックすると、中から赤ちゃんニコラスを抱っこした王妃がドアを開けた。

「あの、王妃さま。寝ているところ申し訳ないんですけど、ちょっといいですか?」

 ドアを大きく開けると、オスカーの目に王妃と赤ちゃんニコラスが飛び込んできた。

「ソフィーナ、無事か?」

「陛下、陛下もライル様とこちらにいらしたんですか?」

「この子はニコラスではないのか?」

「ニコラスは私のところに。」

「だっぶぅー」

 うへっ、本当に言語能力低い、『だっぶぅ』だって…。

 僕は黒猫の着ぐるみの姿で王妃を見上げた。

「まぁ、とってもかわいいわ。」

「にゃっぷぅ」

「ブッ、ニコラス、笑わせるなよ、にゃっぷぅってなんだよ。あはは…。」

 王妃が僕を触ろうとするニコラスを床に立たせた。

 赤ちゃんニコラスが、僕に近づきながら手を広げて言った。

「だっこ。」

「また?同じ大きさだと抱っこしても意味ないんじゃないの?」

 赤ちゃんニコラスが、黒猫の着ぐるみを着た僕に抱きついた。自分が黒猫を抱っこしているつもりだ、ところが、ニコラスの手が僕に触れた途端、僕の体はキラキラで包まれ、いつものサイズに戻ったのだ。

「だっこ。」

 結局僕が大きいのに黒猫のコスした状態で赤ちゃんを抱っこするという、羞恥プレイとなってしまった。

「あぁ、良かった。元の大きさに戻れた…。」

「な、何がおきた?」

 オスカー王はかなり動揺している。そこに僕の中からポロンとマリアンジェラが出た。

 融合を解除したのである。しかも小さいサイズで。

 シュタッと着地して、ご挨拶だ。

「おはようごじゃいます。リリィとアンジェラの娘で、マリアンジェラでーす。」

「ど、どこから出てきたのだ?」

「あ、ライルの中に入ってたの。悪い人のお口に麻痺毒を入れて、ユートレア城の地下の牢獄に入れておいたから…帰ったら煮るなり焼くなり、首ちょんぱなり、お好きにどうぞ。あ、パパにお客さん増えたって言っとくね~。」

 マリアンジェラはダダダッと走って行ってしまった。

 僕は赤ちゃんニコラスを王妃に渡し、『とりあえず、この部屋で三人で休んでください』と伝え、リリアナの部屋から、最近はあまり使っていないベビーベッドを持ってきた。ついでに紙おむつと赤ちゃんの服も置いた。

「ここにニコラスは寝かせて下さい。朝まで少し眠っていて下さい。今、パジャマ持ってきますね。」

 鎧姿のオスカー王に着てもらうため、未使用でストックしてあったパジャマを自分の部屋のクローゼットから持ってきた。少し大きいかもしれないが、とりあえずはいいだろう。

「鎧、脱げますか?」

 オスカー王は固まったまま、微動だにしない。

「大丈夫ですか?ここは、あなた達の住んでいる時代から520年ほど後の時代です。誰も襲ってきませんので、安心して眠って下さい。僕はリリィの弟です。

 何か食べるもの、持って来ましょうか?」

「陛下…。大丈夫ですか?」

 王妃も心配している様だ。僕はダイニングから、パンに夕食の残りもののローストチキンをスライスして挟んだサンドウィッチを作ってお皿にのせて持ってきたのだが…。

 僕は、全然動かなくなっちゃったオスカーを強制リセットすることにした。

 まず、鎧を脱がせる。物質転移で少し離れたところに鎧だけを転移させた。

「うわぁぁ…。」

 タイツとシャツみたいな姿で置き去りになったオスカー王がみっともなく騒いだ。

「ごめんなさい。驚かせちゃいましたね。鎧つけてると、ゆっくり眠れないから。」

 パジャマを手渡し、僕はその部屋を離れた。


 一時間ほどして、騒動が起きた。

 双子が、オスカー王たちが滞在している部屋に勝手に入っていたずらしたのだ。

「王ちゃま、はっけん。」

「赤ちゃんもはっけん…。」

 ベッドで眠るオスカー王の上にまたがって大はしゃぎの二人に、騒ぎを聞きつけて慌てて駆け付けたアンドレがドン引き…。

「父上…へ、陛下…。いついらっしゃったんですか?」

「うぅ…お前はだれだ?」

 王妃がそこで助け船を出した。

「陛下、この方が、私たちの息子、アンドレなんですって。」

「え?アンドレ…?」

「はい、父上の上にのってるのは私の息子たちで…。」

「なっ、こっちがアンドレではないのか?」

「僕、ライアンだよ…。」

「ぼくは、じゅりあーにょ。」

「すみません。」

 慌ててアンドレが子供達を連れて撤収する。

 心が休まらない一夜となった。なにせ、オスカー王って結構な暴君らしいからね。

 僕がリリィと一緒の時に剣で斬られたことがあるもの。


 そんなこんなで長い一夜が過ぎて行った。


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