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515. 過去からの訪問者(1)

 僕、ライルは、今約520年前くらいのユートレア城にいる夢の中だ。と思う…。

 実のところ自信がない。現実か夢か判別できないのだ。

 なぜか赤ちゃんになってしまっている僕は、いつもの大きさに戻ることも出来ず、ニコラスの夢に入ったはずなのだが、いわゆる『暗殺』の現場に出くわし、放火を止めて、怪我人を癒し、ニコラスと思われる赤ちゃんを連れてユートレア城へやって来た。

 ニコラスの母親である王妃と会うことが出来たのはいいが、彼女はニコラスを僕に僕の生きる時代に連れて行って欲しいと言うのだ。

 ニコラスが命を狙われる危険からしばらくの間でいいから…とは言うものの、過去を変えてしまう可能性もあり、僕は少し躊躇していた。


 王妃はガウンを羽織り、ベッドの上に座っていたニコラスをもう一度抱っこした。

「わたくしも、一緒に連れて行ってくださらない?」

 ニコラスの顔をじっと見つめた後、王妃が急にそんなことを言った。

「イヤ、イヤ…それは無理じゃない?」

「あら、どうして?」

「どうしてって…。」

 そう言った時だった。ものすごい怒鳴り声と、悲鳴と、王妃の部屋のドアを外から壊そうとしている激しい音が聞こえた。

「このままでは、わたくしもこの子もこれまでのようですね。ニコラス、最後に一緒に居られてわたくしは幸せですよ。」

 そう言って王妃は一筋の涙を流した。ドアが壊され、ガタンと傾いた。

「もう…。本当に知らないよ。」

 僕は翼で浮き上がり、王妃とニコラスに手を伸ばした。

 三人の体が光の粒子に包まれて、月明かりが差し込む王妃の部屋から消えた。

 ちょうど、ドアを壊し、王妃の命を奪おうと押し入った謀反勢力の大臣たちがその光景を目にしたのだった。


 僕は、二人を連れ、現代の自分の家の自分の部屋のベッドの脇に転移した。

 転移の能力は問題なく使えるようだ。

 しかし…僕はまだ赤ちゃんのままだった。

「もう、これなんの罰ゲームだよ…。」

 僕のベッドで大きいニコラスがスヤスヤ眠っている。

 僕はベッドによじ登り、とりあえずニコラスを起こした。

 揺すっても起きないので、枕で顔をバンバン叩いた。

「おい、起きてくれよ。ニコラス!」

「ひあっ。なんれすか?」

 僕は枕元にある照明のスイッチを入れた。室内が明るくなったところに、若い女性が赤ちゃんを抱き、棒立ちにになっているのをニコラスが認識し、焦ったようだ。

「ひやぁっ、どなたですか?」

 僕は横からニコラスの髪を引っ張って言った。

「落ち着け、ニコラス。僕だ、ライルだよ。」

「え?ライル?え?ちょっと、どうしちゃったの?何かのプレイ?」

「後で話すから、アンジェラとアンドレとリリアナを呼んで来い。」

「あ、はい。」

 ニコラスが廊下を走ってアンジェラを呼びに行った。


 僕は、ソファに座るよう王妃に言った。

 王妃は腰を下ろした後、僕に言った。

「さっきのお方は…」

「あ、あれ…あなたが抱いてる赤ちゃんが大きくなった状態ですよ。」

「まぁ…」

 驚いた様子でニコラスを見つめる王妃…。そこにアンジェラが来た。

「ライル、どうした…ニコラスが騒いで…。お、お前…何のプレイだ?」

「アンジェラ…やめてよ。プレイじゃないし…。」

 アンジェラは赤ちゃんライルを抱っこしようとして拒否られた。

 ソファに座った王妃の方には気づいていないようだ。

「抱っこくらいいいだろう?」

「やだ。赤ちゃんじゃない。」

 可愛い赤ちゃんライルに冷たくされて、ニヤニヤしながらデレている。変態だ。

 そこに、アンドレとリリアナ、そしてニコラスが来た。

 アンドレは、部屋に入るなり、王妃に気づき跪いて挨拶をした。

「母上、王妃殿下…、なぜここにいらっしゃるのですか?」

「?わたくしそんなに大きい子供はおりませんけれど…。あ…あら?」

 僕が説明しないと、ダメなようだ。


 僕はベッドの上に仁王立ちして皆に説明した。

「僕はライルだ。数時間前に一緒のベッドで寝ていたニコラスの夢に入ろうとして迂闊にも520年ほど前のニコラスの所に転移してしまった。

 そして、このありさまだ。何のプレイかとか聞かないでよ。ニコラスのサイズに合わせた、いや、勝手に合ってしまったんだと思うけど、今のところ、自力では戻れないようなんだ。

 それで、行った先で『暗殺者』に出くわし、消火活動と救済活動の後、赤ちゃんニコラスを連れて王妃の所へ行ったら、謀反人たちがなだれ込んできて…。二人を連れて来ちゃったわけ…。」

 アンドレとリリアナ、そしてアンジェラが振り返って、王妃と赤ちゃんニコラスを見る。

 大きいニコラスはへなへな~っと床に座ってしまった。

「それで、どうするつもりだ?」

 アンジェラが言った。僕は顎に指を置き、少し思考を巡らしたあと、皆に言った。

「ダイニングで何か食べながら、自己紹介しよう。赤ちゃんニコラスは多分ここ数日、まともに食べていないよ。」

「まんま…」

 赤ちゃんニコラスが言うと、皆穏やかな顔で笑った。


 ダイニングに移動し、これから自己紹介って言うときに、リリィが起きて来た。

「アンジェラ…何かあったの?急に起きたりして…。」

 そういいながら入って来たリリィが最初に見つけたのは、ダイニングの椅子に立ち上がっている僕だ。

「ライルちゃーん、どうしたの?なになに?何のプレイ?」

 僕を抱っこしようと、じりじりと近づいてくる。

「リリィ、ふざけてる場合じゃないの。僕は元に戻れなくなってるんだ。」

「え?」

 周りをキョロキョロ見ながら、王妃に気づいたリリィが言った。

「あ、あれ?アンドレのお母さんの王妃様じゃ?」

「リリィ様。急にお邪魔して申し訳ありません。事情がありまして…。」

 僕は、また説明し、そこで自己紹介が始まった。

 僕が説明しながらの自己紹介だ。

「リリィは知ってるね。その横の同じ顔してる少し小さいのがリリアナ、まぁ、リリィの双子の妹だと思っていいよ。

 で、その横が、王妃様の息子のアンドレ、過去からこっちにきているから現在23歳。」

「アンドレ?」

「そう、アンドレ。王太子のアンドレ。」

「まぁ、立派になるのね。うふふ。」

「アンドレとリリアナは3年前に結婚してる。」

「まぁ…。結婚も…。しかも天使様の妹様と…。」

 なんだかうれしそうだ。

「で、その後ろにいるのが、ニコラス。今、王妃が抱っこしている赤ちゃんの未来の姿ってわけで…。」

「あ、あの、そちらの背の大きいアンドレに似たお方は?」

「あ、こちらはアンジェラ、リリィの夫で、この家の主人。ニコラスの4代後に生まれる親族だ。」

「それで顔が似ているのね…。」

「ま、そういうことです。皆、ちょっと混乱するけど、二週間くらいで危険が減るって言うから、しばらく王妃様はここに滞在するってことで、よろしくお願いします。」

 赤ちゃんが偉そうに指示しているのを見て、アンジェラのニヤニヤが止まらない。


「王妃様、今日はたまたま私の父と親族が訪問しておりますゆえ、騒がしいと思いますが、お許しください。」

 アンジェラが丁寧にあいさつをした。

「とんでもない。わたくしが無理を言って連れて来てもらいましたの。

 命も救っていただき、本当に感謝しています。」

 そんな話の後で、家族会議が始まった。

「アズと左徠は子供部屋でいいんじゃないか?」

「だな。」

 アズラィールと左徠が深夜にたたき起こされて子供部屋に移動させられたのは言うまでもない。

 その後、夜中に起きてしまったライアンとジュリアーノを見た王妃は更に驚いた。

「アンドレかと思いました。そして、こちらの赤ちゃんのなんと可愛いこと…。」

 ピンクがかったブロンドをフワッと揺らして見た目は可愛いジュリアーノがにっこり笑う。

「こんちわ。」

「ぶぅふー」

 ジュリアーノの言葉に赤ちゃんニコラスが反応したのだ。ちょうど大きさが同じくらいなのだが、言語能力に差がありすぎる。ライアンはしれっとすました顔で、お辞儀をして言った。

「おあようごじゃいます。」

「まぁ、礼儀正しいこと。」

「ばぁぶー」

 ニコラスも言ってるつもりかもしれない…。

 アズラィール達が子供部屋に移動して、王妃と赤ちゃんニコラスを客室に案内した。

「こちらをお使いください。普段親戚しか来ないので、殺風景な部屋ですが、ご容赦を。」

 アンジェラはそう言って、バスルームやクローゼットの説明をした後、着替えは朝になったら、用意しますと伝えた。お疲れでしたら、ニコラスも預かりましょうとアンジェラが王妃に言ったが、王妃はニコラスに頬ずりして言った。

「本当は片時も離れたくないのです。でも、そのように出来ないときに生まれましたので、この時間はわたくしに神が与えてくださった宝物と思っております。」

 王妃はニコラスを本当に愛しているのだと、アンジェラは思った。

 その様子を陰で見ていた本人、大きいニコラスも、この時間は神に与えてもらったものだと心から感じたのだ。


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