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514. これは夢か現実か?

 僕はニコラスの夢の中に流れ込んで行くような感覚で暗闇の中に飲み込まれて行った。

 そこは、真っ暗だった。

 僕はどこにいるんだろう…。ニコラスはどこにいるんだろう…。


 光源が何もない。全く何も見えない。

 僕は自分の体の表面を光の粒子で覆い、周りを照らしてみた。

 ここは、少し大きい木箱の中だ。

 下に、少し厚めの布を折りたたんだものが敷いてある。その端が手に触れたので、その先に体を寄せてみた。

『わっ、なんかいた。』

 そこには、1歳から2歳くらいの赤ん坊がスヤスヤと眠っていた。

 暗くて細かいところはよくわからない。ん?ちょっとまて…なんだ、これは…。

 僕まで、その子と同じくらいの大きさになっている。

『ガタン』『ギィー』と音がした。まるで外からカンヌキを外して、ドアを開けたような音だ。マズイ。もしここを開けられたら、僕がここにいるのは不自然だ。

 ん?しかし待てよ。これは夢だ。別に平気かも?ん…いやいや…僕の姿を別の者に見られるのは夢だからと言って得策ではない。

 僕は最近手に入れた、物質を通り抜ける能力を使って、木箱の底に体を沈めた。

 この能力、時間がかかるところが、イマイチである。言葉にするならば、『ズブズブズブッ』という感じでゆっくりと沈むのだ。『ガチャ、ガチャ…』また更に鍵がかかっているのか、木箱の外側のチェーンの様な物を外しているような音がする。

 僕は、床の下に沈んだまま、壁の方へ移動し、壁の中から半分透けた壁を通して室内を見ることが出来た。

 室内も真っ暗だが、今鍵を開けているのは、侍女っぽい服装をした若い女だ。黒いフードの付いたマントを着ている。

 ろうそくを一本だけ燭台にのせ、それを持って木箱のすぐ横の別の木箱の上に置き、ろうそくの灯りで鍵を開け、チェーンを外すと木箱の蓋をずらした。

 うーむ。自分が小さすぎて木箱の中が見えない。僕は壁の中を、スゥーッと上がり、斜め下を向いた状態で静止した。開いた木箱の中をろうそくの灯りで照らし、中の赤ちゃんをその侍女は抱き上げた。


 赤ん坊は抱き上げられ、目を覚ましたのか、うつろな目をしながらも気が付いたようだ。侍女は開いた木箱の上に置いてあったトレーの上の皿からおかゆの様な物をスプーンですくって赤ちゃんの口に入れた。

 うとうとしながら赤ちゃんは、すこしずつだが食べている様だ。

 ある程度食べさせたら、次にオムツを替え、侍女は赤ちゃんを撫でた後、また箱の中に戻した。

「ニコラス様、どうかあと二日、ここで耐えてください。」

 赤ちゃんの食べた物には睡眠薬でも入っているのか、また赤ちゃんは、うつらうつらと眠ってしまった。侍女が去ったあと、僕は窓のないその部屋から外に出てみることにした。驚いた。そこは馬小屋に繋がる倉庫の様な場所だった。しかも、あのユートレアの大聖堂の裏手にある馬小屋だ。

 なんだか変な夢だ…。一体、どうなっているんだ。


 僕は侍女の後を追おうと思ったが、侍女は鍵をかけるとマントで顔を隠し、建物と建物の隙間に入り、スッと身を隠してしまった。抜け道でもあるのだろう。

 うーん。どうするべき?僕が屋根の上でちょっと悩んでいると、外で動きがあった。

 黒いマントに黒い頭巾をかぶり、腰に剣を刺した男達が6人が、大聖堂のドアを壊して中に押し入ったのだ。

 中では『やめてくれー』『王に伝令を…』『助けてくれー』などという叫び声が上がっていた。

 そして、あっという間に大聖堂の入り口付近から煙が上がったのだ。

 放火されたのだ。『うわ、最悪だろ』『放火じゃん』

 僕は赤ちゃんの姿には似つかわしくない発言をくりかえした。

 男たちが自分たちのマントにも炎が移り、慌てて消火し去って行った後、ますます燃え広がりそうな火を、僕は思わず能力を使い、雨を伴う嵐で消し止めたのだ。

 翼を出し、大聖堂の屋根を突き抜け、大聖堂の中に入り、火を消した後見渡すと、大聖堂の中には剣で斬られた教会の司祭たちが瀕死の状態で横たわっていた。

 幸い皆、息はまだあった。生命の危機に瀕している者から順に癒していく。

 翼を持ち、体を金の光の粒子で覆われた赤ちゃんの姿は多分、天使そのものだ。

 ちなみに、服は着ている。


 あれ?これって本当に夢なのかな?

 だって…癒している時に感じる手の先のほんのり暖かな感じや、斬られた人の血の匂い…焼けた聖堂内の焦げた臭い…。夢で、こういうのっておかしいじゃないか…。

 僕は一通り癒し終わった後で、大聖堂の事務室などを確認することにした。

 こっちのほうも相当荒らされている。その事務室の横、明らかにそこで赤ちゃんを育てていたと思われるような赤ちゃん用の服やゆりかご、引っ掻き回されたように物が散乱し、めちゃくちゃだ。

 呆然とそれをテーブルの様な台に乗ったまま立ち尽くしていると、そこに足音が聞こえ一瞬の後、三人の騎士が入って来た。

「ニコラス様、ご無事でしたか?」

 そう言って、僕に駆け寄るが、翼を見て、後ずさった。ですよね~。ビックリしちゃいますよね~。しかもニコラスとほぼ同じ顔だし。

 あえてここは逃げよう。

 僕は最初に出た木箱の前に転移した。


 どうして、僕は大きく変化へんげ出来ないのだろう。

 夢の中だから、何かしらの制約があるのか?

 夢であれば、誰かの記憶や聞かされたことを想像していることがベースとなるが、夢を見ているニコラス本人が夢の中でも寝ているのがおかしい。

 僕は木箱の鍵を壊し、蓋をあけ、中にいるニコラスの睡眠薬と思われる薬剤の効果を無効化した。パアッと白い光を浴びたニコラスは、次第に目がはっきりと開き、僕の方に手を伸ばした。

「…だっこ。」

「え?同じ大きさなのに抱っこ?…、まぁいいけど。」

 仕方ないのでハグしてあげた。あぁ…ニコラスの記憶が僕に流れ込んでくる。


 さっきの侍女は城からの王妃の命令で、暗殺者からニコラスを守るためにここに隠したようだ。

『ニコラス様、オスカー陛下が今、暗殺者を排除するために奔走されています。5日間で必ず終わらせると言っておりますので、おひとりで申し訳ありませんが、がんばってください。』

 そう言って睡眠薬入りの食べ物を食べさせられてからは記憶があいまいだ。

 それで、結局暗殺者が大聖堂の司祭たちを皆殺しにして、火を放ち、もし、大聖堂のどこかにニコラスがいたら、一緒に灰になるというわけか…。

 確かに、別棟とはいえ、木造の掘っ建て小屋だ。大聖堂が全焼したら、ここも消失するだろう。

 さて、どうしたものか…。

 とりあえず城にでも行ってみるか…。

 僕はニコラスを抱っこしたまま、翼で飛んで、数百メートル先のユートレア城へ行った。テラスに降り立ち、窓から中の様子を探る。

 王の間には誰もいないみたいだ。

「ニコラス、君の母上のところへ行こうと思うんだが、どう思う?」

「ん?ははうぇ?」

「あん?君のママだよ。」

「まんま?」

 幽閉されててあまり言葉が話せないのかな?アンドレの話では王妃様はニコラスの所にも度々訪問してかわいがっていたって言ってたよな。

 確か、命を狙われないように大聖堂の中で育てるって言ってたから…ここには来たことないのか…。はぁ、面倒だな。どうしたらいいんだ?

 僕は悩んだ結果、王妃の眠る部屋に行き、王妃を起こすことにした。


「すみませーん。王妃様…僕、リリィの弟のライルですけど。」

 少し離れたカーテンの影に隠れて、声をかけた。

 三回目でやっと起きてくれた王妃は、ものすごく驚いている様子だった。

「すみません。さっき大聖堂に火をつけた賊がいて、司祭さんたちもちょっと気を失っているので、ニコラスを連れて来ちゃったんです。」

「あら、まぁ…。」

 ろうそくの火を灯し、王妃が僕達の顔を覗き込んだ。

「ニコラス…とニコラス?」

「あ、僕、ライルです。リリィの弟です。リリィは知ってますよね?」

「えぇ、えぇ。ニコラスを助けて頂いたもの。大聖堂が火事ですって?」

「暗殺者による放火です。」

「ライル様、あなたはそんなに小さいのに大人のようにお話ができるのですか?」

「あの、僕…未来で、ニコラスに触ったらここに来ちゃったんです。本当は僕、15歳なので、この姿は不本意です。」

 王妃はクスクスと笑い、ニコラスを抱き上げた。

「また少し大きくなったわね。私のこと覚えているかしら?」

「まんま。」

「そうよ、マンマよ。」

 王妃がニコラスに頬ずりしている。僕は話を続けた。

「あの、それでですね、暗殺者をオスカー陛下が排除に向かったと聞いたんですが。」

「もう三日前に出て、まだ連絡が無いの。でも、大聖堂が襲われたなら、オスカーの身に何かあったのかもしれないわ。」

 王妃の話では、ユートレアはとても小さな国なので、周りの国からすぐに攻撃され、王族の排除を仕掛けられるのだとか。だからニコラスを隠し、アンドレに何かあっても王位を継げるようにと大聖堂で育てることを決意したらしい。

「ニコラスをここに置いていっていいですか?」

「ん…そうねぇ。実はここも案外安全じゃないのよ。」

 第一王子であるアンドレの支持派がニコラスを狙っているという事もあるらしい。

「じゃあ、どうすればいいですか?」

「ニコラスをあなたの住んでいる時代に連れて行ってくれないかしら?」

「え?そんな事したら、過去が、歴史が狂っちゃうよ。」

「そう?2週間だけでもお願いできないかしら…。」

 隣国との不可侵協定が調印されるのが2週間後らしい。それが済めば、ずいぶんと命を狙われるようなことが減ると王妃は言った。

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